闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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今日は定休日。だが生活リズムを崩さない彼らはいつも通りに起きて休みを満喫するのが日課、なので眞一達もいつも通りに起きて散歩して食事をする。だが今日はこの後が違う、洗濯と掃除を春陽と一緒にこなして行く。

「春陽、服が洗い終わったらこのシーツも洗ってくれ。」

「はい。」

皆で過ごすリビングは普段自動掃除機が動き回っているが、それ以外は段差があり出来ていない。なので、休みの人間が他の部屋の掃除をする事になっていて勿論じぃさんも掃除機を掛けてくれている。定休日は眞一が自主的にしているのが今日は春陽にも手伝ってもらっている、春陽はずっと家の中にいるので運動不足解消も兼ねている。それに春陽が居候の身に気が引けているのにも気付いている、だから少しづつ春陽が出来る仕事を増やして最終的には家事全般を頼もうと思っていた。

「眞一さん、こっち終わりました。」

「有難う。これから窓ふきをするから手伝ってくれるか?」

「はい。」

俺が外から春陽が中から同じ窓を拭いて行く互いに汚れを確認しながら拭く、春陽が一生懸命高い所に手を伸ばしながら拭いている姿が顔が可愛くて仕方ない。にやけそうな顔を我慢している春陽と目が合い首を傾げる姿の可愛い、何でもないと首を振ると又一所懸命拭き始める。

午前中はそんな感じでゆっくりと掃除をし昼も春陽と一緒に作り皆で食べる、食器を片付けてソファでゆっくりと過ごし2時過ぎに散歩の準備を始める。と言っても上着を取って来るだけだが。

「春陽、じゃあ行こうか。」

「はい。」

手を差し出すと何の抵抗もなく手を繋いでくれる。

「ジョンさんは行かないんですか?」

「ジョンも一緒がいい?」

俺としては2人限がいいが、動物好きの春陽は連れて行きたいのかもしれない。

「・・・いえ、僕はどちらでも・・・。」

又声が小さくなってしまった。
俺は両手で春陽の頬を挟み持ち上げて視線を合わせる。

「春陽、春陽の気持ちを聞かせて。俺にだけは気持ちを隠さないでちゃんと話して、出来る事はしてあげるし出来ない事はちゃんと無理だと言うから。だから、言うのを我慢しないでお願い。」

「・・・はい。」

「じゃあ、春陽はどうしたい?」

「・・・ジョンさんも・・・一緒がいいです・・・。」

俺は手を離し春陽を抱き締める。

「ちゃんと話してくれて有難う。それじゃあジョンを連れて行こう。ジョン!おいで!ってもう来てたのかしっかりリードも持って・・・春陽が連れっててくれるって。春陽、リードを着けてあげて。」

「はい。」

春陽は嬉しそうにジョンにリードを着けてジョンも着けやすい様に顔をあげている、春陽は着け終わると少し嬉しそうな顔をして俺の手を取った。春陽の中で俺と手を繋ぐのは普通の事になってくれたのかもしれないと思うと嬉しくなる。春陽から手を繋いでくれる日が来るとは!

いつもの散歩コースとは違う道を通り桜並木に向かう。
朝とは違い時間はたっぷりあるので道草を食いながらゆっくりと進む。春陽も最初に比べたら良くしゃべる様になって来た、まぁ話す内容の8割がジョンと愛の事だけどそれでも楽しそうのなでしっかり聞く。

暫く進み角を曲がると視界いっぱいにピンクの波が襲って来た。今が丁度盛りで風が吹くと桜吹雪に包まれる、そんな光景に春陽は言葉を失くしただただ眺めていた。春陽が満足するまで俺とジョンは大人しく隣で待っていた、すると春陽は独り言の様に話し始める。

「凄く綺麗・・・こんな綺麗な桜並木を見たのは初めて。すごい・・・。」

春陽には記憶がない、それでも‟初めて”と言い切れる程の衝撃だったのだろう、俺は春陽の‟初めて”に立ち合えて嬉しく思う。

春陽に付き合っていたいがここでは他の人の邪魔になるので、春陽を促して歩き始めると自分がぼぅっと立っていた事に気付き慌てて歩き出すが目線は桜に向いたままだ。手を繋いでいるので他の人に当たらない様に誘導しながら春陽にペースで歩く、途中ベンチが空いていたので座り手を離すと手を出して舞う花びらを掴もうとしてた。

いつもは可愛い春陽が、桜舞う景色の中でとても幻想的で美しかった。同時に桜と共に消えて仕舞いそうで少し怖くも感じたが、ここで抱き締めると人目があって春陽が嫌がるだろうし何より楽しそうな春陽の邪魔をしたくはなかった。なので、写真を撮るだけにした。

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