3 / 35
記憶喪失の少年
3
しおりを挟む
それからも病院に通い、少しづつ話す事が増えていったが春陽はあまり話したがらない。
それに先生の話だと毎晩うなされているらしく、薬がないと寝れていない状態だという。
「今日は月が綺麗だから少し散歩しようか。先生の許可は取ってるから大丈夫だ、それに少しは動かないと体力が落ちるぞ。」
「・・・でも、」
「俺に付き合ってくれ、なっ?頼むよ。」
「・・・はい。」
春陽の手を取りながら下の階のテラスに向かう。ここは就寝時間まで開いているので月見に丁度いい。
「綺麗だろ?」
今日は満月でしかも雲一つないから良く見える。
本当に綺麗だ。
「・・・・。」
『綺麗だね。これからも一緒に月を見ようね。○○。』
「う”っうぅ!」
「どうした春陽!」
「嫌!!いや!ずっといっしょにって!!・・・・」
「春陽!春陽!・・・・春陽。」
頭を押さえながら涙を流し意識を失った。きっとヒロタカとかいう奴とかつて一緒に月を見ていたんだろう、月を見てそれを思い出した。ヒロタカとどんな関係だったにしろきっと春陽は振られたのか一緒にはいられなくなったのかも知れない。それでも、自分の名前を忘れても忘れられなかった名前。なんだがイライラする。
俺は春陽を抱えて病室に戻り、先生を呼んで今あった事を話した。
やはり先生の話でも大事な記憶の中に月と関連する物があったのだろうっと言う事だ。ただ、あまり良い記憶ではないみたいなのでなるべく避けた方がいいとの事。
病室に戻ると春陽が目を覚ましていた。
「起きたか。どこか痛い所はあるか?」
「・・・僕は何で生きているんだろう。」
「えっ?」
「僕はきっと自殺したんだと思います。」
「何故そう思う?」
「生きているのが苦しい。良く解らないけど辛くて悲しいんです・・・。」
涙も見せずに無表情でそう言う春陽が月明りで今にも消えそうで思わず俺は抱き締めてしまう。
「そうか。悲しいか・・・。悲しいなら泣けばいい、俺が側に居る好きなだけ泣け。」
「けど、何で悲しのか思い出せない。確かに悲しいのに!」
俺の服を掴み震えながら涙声で訴える。
そんな春陽を強く抱き締めて、優しく頭を撫でながら、
「思い出せなくても悲しければ泣けばいい。思い出せない事も悲しい事も辛い事も全部俺に吐き出せ、何でも聞いてやる。側に居るから。」
「・・ぅっ・・だって・・・迷惑。」
「迷惑なら毎日来たりしない。それとも俺の方こそ迷惑か?」
フルフル
「良かった。俺はここに居るから好きなだけ泣け。」
安心したのか限界だったのか、春陽は声を出してやっと泣き出した。
しっかり抱き締めて俺がここに居る事を忘れさせない様にしながら頭を撫でた。
声を聞いた看護婦が様子を見に来たが俺にしがみ着いて泣いているのを見ると安心して出て行った。
春陽は泣き疲れて眠ってしまったが、感情を吐き出して少しは落ち着いた様に見えた。翌日看護婦さんの話ではその日はうなされる事無く朝までぐっすり眠っていたらしい。薬を使わずに寝れるならそれに越した事はない。
翌日から表情が少し変わった様な気がする。
今までは無表情で感情が全く判らなかったが、俺の顔を見ると少し嬉しそうに見れるのは俺の願望ではないと思いたい。
警察の話では捜索願は出されてはいないらしく、身元が解らない事に変わりはなかった。警察に春陽の保護をうちでする事に付いては問題はなく、俺の連絡先を教えて身元が解ったら連絡をくれるとの事になった。
検査結果では異常はなく強くぶつけた事により記憶障害になったのだろう、それに対しての治療法はないのも変わらなかった。
「春陽、大事な話だ。よく聞いてくれ。」
「はい。」
「春陽は記憶喪失で身元が解らないから、帰る場所が解らないのでうちで預かる事になった。これからは俺達と一緒に暮らす事になる。」
「一緒に暮らす?ご迷惑では・・・。」
「何度も言うが迷惑なら救急車を呼んで終わりだ。嫌なら他の方法を考えるが嫌でなければ俺の側に居て欲しい。」
「嫌だなんて!ただ迷惑じゃないかと・・・ご家族とか。」
「家族も反対はしていない。だから俺の家に来て欲しい。・・・ダメか?」
無理やり連れて帰っても春陽の為にならないから、出来れば自分の意思で来て欲しいがこればっかりは・・・。
「僕が行ってもいいんですか?」
「俺が来て欲しいんだ!」
「・・・分かりなした。宜しくお願いします。ぅわ!?」
嬉しさのあまり思わず抱き締めてしまった。
力を抜いて優しく抱き締めて春陽の頭にキスをした。
「これからヨロシク。」
「・・・はい。」
無事に金曜日退院した。
これからは‟春陽”として一緒に暮らしていく。
それに先生の話だと毎晩うなされているらしく、薬がないと寝れていない状態だという。
「今日は月が綺麗だから少し散歩しようか。先生の許可は取ってるから大丈夫だ、それに少しは動かないと体力が落ちるぞ。」
「・・・でも、」
「俺に付き合ってくれ、なっ?頼むよ。」
「・・・はい。」
春陽の手を取りながら下の階のテラスに向かう。ここは就寝時間まで開いているので月見に丁度いい。
「綺麗だろ?」
今日は満月でしかも雲一つないから良く見える。
本当に綺麗だ。
「・・・・。」
『綺麗だね。これからも一緒に月を見ようね。○○。』
「う”っうぅ!」
「どうした春陽!」
「嫌!!いや!ずっといっしょにって!!・・・・」
「春陽!春陽!・・・・春陽。」
頭を押さえながら涙を流し意識を失った。きっとヒロタカとかいう奴とかつて一緒に月を見ていたんだろう、月を見てそれを思い出した。ヒロタカとどんな関係だったにしろきっと春陽は振られたのか一緒にはいられなくなったのかも知れない。それでも、自分の名前を忘れても忘れられなかった名前。なんだがイライラする。
俺は春陽を抱えて病室に戻り、先生を呼んで今あった事を話した。
やはり先生の話でも大事な記憶の中に月と関連する物があったのだろうっと言う事だ。ただ、あまり良い記憶ではないみたいなのでなるべく避けた方がいいとの事。
病室に戻ると春陽が目を覚ましていた。
「起きたか。どこか痛い所はあるか?」
「・・・僕は何で生きているんだろう。」
「えっ?」
「僕はきっと自殺したんだと思います。」
「何故そう思う?」
「生きているのが苦しい。良く解らないけど辛くて悲しいんです・・・。」
涙も見せずに無表情でそう言う春陽が月明りで今にも消えそうで思わず俺は抱き締めてしまう。
「そうか。悲しいか・・・。悲しいなら泣けばいい、俺が側に居る好きなだけ泣け。」
「けど、何で悲しのか思い出せない。確かに悲しいのに!」
俺の服を掴み震えながら涙声で訴える。
そんな春陽を強く抱き締めて、優しく頭を撫でながら、
「思い出せなくても悲しければ泣けばいい。思い出せない事も悲しい事も辛い事も全部俺に吐き出せ、何でも聞いてやる。側に居るから。」
「・・ぅっ・・だって・・・迷惑。」
「迷惑なら毎日来たりしない。それとも俺の方こそ迷惑か?」
フルフル
「良かった。俺はここに居るから好きなだけ泣け。」
安心したのか限界だったのか、春陽は声を出してやっと泣き出した。
しっかり抱き締めて俺がここに居る事を忘れさせない様にしながら頭を撫でた。
声を聞いた看護婦が様子を見に来たが俺にしがみ着いて泣いているのを見ると安心して出て行った。
春陽は泣き疲れて眠ってしまったが、感情を吐き出して少しは落ち着いた様に見えた。翌日看護婦さんの話ではその日はうなされる事無く朝までぐっすり眠っていたらしい。薬を使わずに寝れるならそれに越した事はない。
翌日から表情が少し変わった様な気がする。
今までは無表情で感情が全く判らなかったが、俺の顔を見ると少し嬉しそうに見れるのは俺の願望ではないと思いたい。
警察の話では捜索願は出されてはいないらしく、身元が解らない事に変わりはなかった。警察に春陽の保護をうちでする事に付いては問題はなく、俺の連絡先を教えて身元が解ったら連絡をくれるとの事になった。
検査結果では異常はなく強くぶつけた事により記憶障害になったのだろう、それに対しての治療法はないのも変わらなかった。
「春陽、大事な話だ。よく聞いてくれ。」
「はい。」
「春陽は記憶喪失で身元が解らないから、帰る場所が解らないのでうちで預かる事になった。これからは俺達と一緒に暮らす事になる。」
「一緒に暮らす?ご迷惑では・・・。」
「何度も言うが迷惑なら救急車を呼んで終わりだ。嫌なら他の方法を考えるが嫌でなければ俺の側に居て欲しい。」
「嫌だなんて!ただ迷惑じゃないかと・・・ご家族とか。」
「家族も反対はしていない。だから俺の家に来て欲しい。・・・ダメか?」
無理やり連れて帰っても春陽の為にならないから、出来れば自分の意思で来て欲しいがこればっかりは・・・。
「僕が行ってもいいんですか?」
「俺が来て欲しいんだ!」
「・・・分かりなした。宜しくお願いします。ぅわ!?」
嬉しさのあまり思わず抱き締めてしまった。
力を抜いて優しく抱き締めて春陽の頭にキスをした。
「これからヨロシク。」
「・・・はい。」
無事に金曜日退院した。
これからは‟春陽”として一緒に暮らしていく。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

王冠にかける恋【完結】番外編更新中
毬谷
BL
完結済み・番外編更新中
◆
国立天風学園にはこんな噂があった。
『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』
もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。
何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。
『生徒たちは、全員首輪をしている』
◆
王制がある現代のとある国。
次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。
そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って……
◆
オメガバース学園もの
超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
副会長様は平凡を望む
慎
BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』
…は?
「え、無理です」
丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる