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44話 小人さん

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「な、何かしらあれ」

 動く植物。 植物系の魔物ならあり得ない話ではないけれど、あんな音立てて移動されると結構不気味ね。

 あ、植物の動きが止まった。 あれ? なんだろ。 さっきまで鳴いてたカエルが静かになってる。 ......違う。 雨以外の音がしない。 まるで周囲の生物が息を殺しているかのような雰囲気が辺りを包んだ気がした。

 !? 湖から妙な気配が......

 そう思ったのと、突然湖からなにかが飛び出してきたのはほぼ同時!

「グロロロロオッ!」
「◎△$!? ×¥●&%#!」

 !? 飛び出してきた何かは飛び出した先からやはり飛び出した...... 壁のようなものに激突した。 でも今一瞬人の声が聞こえたような? あ、植物がこっちに向かってくる。 あのズリズリした音を立てながら。

 え? 私はそれが植物を傘の様に持って何かを引きずりながらこちらに向かってくる『小さい女の子』だと認識して驚く。
 子供って意味じゃないわよ? 文字通り『小人』なの。 飛び出してきた何かに狙われたのね!

(何をする気だリノ)
「何って見過ごす訳にもいかないでしょ!」

 私はテントの中にジョンを呼び出し外に飛び出す。

「こっち! ここに入って!」

 入り口を開いて中を指差しながら小人さんに向かって叫ぶ。
 彼女は一瞬躊躇したようだがこちらへ向かい始めた。 だが、後方から態勢を立て直した何かが姿を現す! ワニだ!

「ちょ! この湖ワニがいたの!?」

 私は自分の水辺での行動を思い起こして震えた。 運が良かったのね。 ワニもこちらに向かってくる。 まずはあれを阻まないと。

「出てきてグラハム!」

 私の前にグラハムが出現する。 小人さんから見たらあのワニも巨大だろうけど実際は私と同じかやや小さい位だと思う。 グラハムと比べてかなり小さいのなら......

「グラハムはあのワニの動きを止めて押さえつけて! ジョンはその小人さんに状況を説明してあげて!」

 私とグラハムは前面に出る。

「えええ!?」

 ジョンは戸惑っていた。 頑張って。

 私とグラハムは向かってくるワニと対峙し......
あ、あれ? ワニは動きを止めていた。

 分かった。 このワニ本当にワニだもの。 動物のワニ。 なら自分より大きいグラハムと対峙したなら突っ込んではこないわよね。

 ほら、向きを変えて湖に逃げようとしているもの。 流石動物本能的だわ。 これなら別に追わなくても...... ? ふと違和感。 
 この程度のワニが私に妙な気配を感じさせたの? 

「違う! まだあの気配は消えていない! グラハム警戒して! まだ何かが」

 その時湖の水面が大きく膨らんだ!

「キュアアー!」

 それは一瞬の出来事だったんだけど、すごくゆっくりに見えた。
 最初のワニが湖から飛び出してきた巨大なワニに襲われたのだ。 ものすごい水しぶきと共に出現したそれは体長五、六メートル。 狙っていたのだろう、その巨大な口で最初のワニを噛みちぎった。

 間違いない。 妙な気配の正体はこのワニだ。 怪しく目を光らせているこの生物はヨーダさんの記した書物で見た。

「ホーンアリゲーターデビル......」

 その名の通り尻尾に生えている角で敵を攻撃する事ができ、デビルが示すように気性も荒い。
 
 ヨーダさんの書物で見たのだから分類は当然動物ではなく魔物になる。 そしてその魔物は私達を次の獲物と認識したようだ。

(一気に相手のハードルが上がってしまったぞ。 どうするんだ?)
「グラハム! 相手は力も強いとは思うけど、得意とするのは水中! 引き込まれないように注意! それと警戒するのは尾の一撃と噛みつきよ!」
「! 畏まりました!」

 グラハムが構える。 相手は引き下がらない。 ......でしょうね。

 しかしこんな魔物をどうすれば? 倒すのも厳しそうだけど逃げてくれる気配はない。
 いえ、こんなの逃がしたら知らずに湖に来た人が襲われるかも知れない。

(打つ手があるのかリノ?)
(今考えてるわよはこ......)
(どうしたリノ)

 私はグラハムを見て叫んだ。

「グラハム予備知識! もしその魔物がワニの特徴を持っているとしたら、その口は噛む力は強いけど開ける力は弱いはず。 口を羽交い締めにすれば尾の動きを注意するだけでいいかも。 できれば口と尾を封じておさえ込んで!」
「は! やってみます!」

 グラハムとホーンアリゲーターデビルの一進一退の攻防が始まった。 私は隙をうかがう。

(はこ丸?)
(なんだ?)
(私ひょっとしたら魔法が使えるかも)
(な、何?)
(相手を別の場所にとばす転移魔法がね)
(それは大魔法に分類されるものだ。 使い手を見た事すらないぞ。 無茶は推奨しない)
 
 しかし私はグラハムが相手を捕まえ、おさえつけた瞬間に走り出していた。
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