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38話 レーアとハンソン

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「入りたまえ。 レーア君か、どうした?」
「あ、いえ。 先程リノさんが来ていましたよね? 来た時も帰られた時もいつもと雰囲気が全然違うので心配になりまして......」

 ギルド職員レーアは様子がおかしかったリノを心配し、ハンソンに聞きにきたのだった。

「話しかけても反応はしてくれるんですが、彼女特有の明るさが影を潜めてしまっているというか」

 ハンソンは机の上で手を組み口を開く。

「......私がまだ駆け出し冒険者の頃パーティーを組んでいた仲間が命を落とした事がある。 そいつは同郷の頃から親友で、一緒に成功する事を夢見ていた相棒だった」

 レーアは黙って聞いている。

「計画も立てたし準備も整えた。 あとは結果を出すだけだったんだが...... 途中から予定外の事が起こり結果、親友は命を落とした」

 ハンソンは軽くため息をつく。

「今でこそギルドマスターなんてやってはいるが、当時はもう何も考えられなかった。 あいつが命を落としたのは自分のせいではないのか? もっと他にやりようはなかったのかとそればかり考えていた」
「......リノさんにも同じような事があったと?」
「若干形は違うが...... 辛い別れを経験させてしまったよ。 今回ももしかしたら他に......」
「マスター?」

(私が収集家の彼にリノさんの事を話しておけばこうはならなかったのだろうか? だがそれは話して余計な諍いに彼女が巻き込まれるのを避けたい思いからだった。 彼女はまた明るく笑えるだろうか? もし笑えなければそれは)
「マスター?」

 ハンソンは無意識に自分を責めていた。

「もう。 マスター!」
「! すまない。 リノ君の心情を考えてしまっていた」

 ハンソンはリノに謝罪していたがリノはハンソンの考えを理解し、その判断のせいではないと伝えていたのである。 

「......いっそ責めてくれた方が気が休まるのかもしれんが」
「はぁ。 リノさんを心配して来てみればマスターも同じような雰囲気じゃないですか」

 レーアはやれやれといった感じになった後、

「人間、規模の違いはあれ生きていく以上はそういう経験は誰にも訪れます。 大切なのはそれをどう活かすかではありませんか? 私はそう考えます」

「自責の念を抱く方は優しい方だと思います。 他人を気遣える心を持ち、自分の責任を常に自覚されている方こそ、ギルドの、いえ、組織の長として相応しいのだと」

 と、捲し立てた。 ハンソンは普段見ないレーアの姿に呆気にとられた。

「! こ、こほん。 そういう訳ですのでマスターにしゃんとして頂かないと冒険者ギルドの威厳が損なわれます。 ただでさえ、功績は全て自分、責任は全て他人。 みたいな考えの方もおられるんですから!」
「あ、ああ......」
「それじゃ私の用はもう済みましたので戻ります!」
「あ、おい」

 レーアはハンソンが言い終わらないうちに室内から出て扉を閉め......

(やってしまったぁ。 私らしくないと思われたかしら。 恥ずかしい!)

 と後悔する。 その頃ギルドのカウンター前では......

「はっっっくしゅんぉぁあ!」
「ちょ! くしゃみはせめてよそ向いてくださいよー」
「ごめんよポメラちゃーん。 でも多分今のくしゃみはあれだよ。 レーアちゃんが俺の噂してたせいだよ」
「ソウデスネー。 仕事したいんでそこどいてもらっていいですかぁ?」

 Dランク冒険者のハナキン=スカイウォークがおめでたいおつむと軽い性格を披露していた。
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