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22話 ヨーダのもとへ

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「お世話になりましたー!」

 翌日、私は日溜まり亭を出てハーピーと空路でヨーダさんの家へと戻る途中だ。 昨日は食事中に宿がなぜ血溜まり亭と呼ばれている所以を目撃した。

 食堂で酔ったお客が宿の娘さんのおしりを触った時、活発そうだった娘さんはなんと笑顔でそのお客さんの顔に肘を叩きつけたのだ。

 私は思わず飲んでいたスープを吹いたわよ。
お客さんは鼻血を出して転倒、そこにさらにご主人までが参戦してそのお客を店から追い出してしまった。 他のお客さんがあれが日常の光景だって笑いながら言ってたけど。

 その後は部屋でナイトへギルドでの扱いを謝ったりした。 ナイトは気にせずその様な事でも存分にお使いくださいって言ってくれて、本当に完璧な存在なのを再確認。 私の中で好感度どんどん上昇中。 それからお風呂に入ってベッドで熟睡したの。

 今朝は食堂で朝食を頂いたあと、一人分の食事を箱に詰めてもらった。 これはヨーダさんの分ね。 部屋の方は次にいつ来ることになるか分からないから今朝までで終了。 ギルドが出してくれてるとは言え私はまだギルドに何も貢献していないのが心苦しい。

「これからヨーダさんに色々教わってギルドにも貢献してあげないとね!」

 私が声に出してそう言うとはこ丸から抑揚がない声でそうだなって返ってきた。 ......なんか元気がない?
 アイテムボックスって朝弱いのかしら?

「とうちゃーく! 最短距離が飛行できると速くていいね」

 扉の前に着地した私の感想にハーピーも大喜び。

「でしょ! でしょ! いつでもアタシを頼ってよね!」

 と、はこ丸の中に戻っていった。

「ただいま帰りましたヨーダさん」

 扉を開けて部屋に入る。

「ああお帰り。 予想より早かったね。色々体験出来たかい?」

 ヨーダさんも私を迎えてくれた。 こういうの、いいかも。

「お土産話もありますし、文字通りお土産もありすから。 美味しいですよ」
「そうかい。 土産話は出来るだけ聞こう。 でも土産物はリノが食べるといい」

 ヨーダさんはベッドの上で上体を起こし正面を見たまま言う。

 あれ? 何かが妙だ。 なんだろ。

「もう。 ヨーダさんの為に用意してもらったんですからヨーダさんに食べてもらわないと」

 ヨーダさんに近付く。 あ。ヨーダさん、最初から私と目線を交わしていない。 私から見て横顔のままだ。 なんでこっちを見ずに何もない壁を見たまま?

「そこの壁に何かあるんですか?」

 ジャリッ!

「え?」

 私が壁を見ながら歩を進めようとして何かを踏んだ音がした。 足下を見る。

「これは...... 砂? なんでこんな所に砂が......」

 よく見ると結構な量の砂が付近の床に散乱していた。 出発前は砂なんてなかったはず。

 パラ...... 音がした気がしてそちらを見る。
 ベッドのすぐそばの床の砂の厚みが他より目立つ。

 何か...... 何かすごく嫌な予感がする!

「ヨ、ヨーダさん。 失礼します!」

 そうだ。 そもそもなんでヨーダさんは部屋の中、ベッドの上でローブを羽織ってるの?

 「!!」

 え? なに? これは!? 私の全身が総毛立つ。

「あーあ。 見られてしまったね」

 淡々とヨーダさんは変わらぬ姿勢のまま言う。 その表情から感情を読み取る事はできないけど、右目を含む顔の一部と首を含んだ下から大半の身体が...... 石と化していてすでに崩れている部分さえあった。 

 目線を合わさなかったんじゃない。
首が動かせないんだから合わせられなかったんだ! お土産だって...... 食べれないんだよこれじゃあ!

「ああ! どうして! どうしてヨーダさんがこんな事に!」

 私は激しく狼狽した。 人が石に? ヨーダさんをこんな風にした存在がいる!? 魔物や妖怪の中には対象をこんな状態にできると何かで読んだ記憶もある。

「落ち着きなリノ!」

 私を我にかえらせたのはヨーダさんのその一言だった。
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