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10話 ハーピーとの約束。ヨーダの偽名

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「っくしゅん! ちょっハーピーさん?」
「さんは要らないわよマスター。そ・れ・よ・り。何か忘れていませんか?」

 忘れる......? 私が何を忘れてるっていうのだろう? 私は首を傾げてしばし沈黙した。

「え? ちょっとやだ......まさか本気で忘れてる......?」

 私の前に回ってきたハーピーさん、もといハーピーが私の顔をじっと見て涙目になっている。

「そんな......あの約束をもう忘れたなんて信じられない。よよよ......」

 ハーピーがショックをうけてフラフラと後ずさっていくが、約束なんて本当に覚えてない。

(やれやれ。どっちもどっちだな)

 それまで状況を見ていたはこ丸まで意味の分からない事を言う。

(ハーピーに、お前なら都にどれくらいで到着できそうか聞いてみるといい)

 ? はこ丸の真意も分からないけど、とりあえずそのまま伝えてみることに。

「ねぇハーピー。貴女なら都までどれくらいで到着できそう?」

 その途端うなだれて固まっていたハーピーがビクッと身体をふるわせてすごい勢いで顔を私に向けた。

「そ、そうよね! さすがマスター! 分かってるじゃない! 忘れたとか言って焦らすなんて人が悪いわ。 もうこのハーピー殺し!」

 そしてなぜか私へのヨイショが始まる。なにこれ。

「驚いていいけど、アタシならここからならすぐよ、すぐ。鈍重のナイトと徒歩のヨーダ様じゃ三日もかかるみたいだけど? 例えマスターを運んで飛んでもそんなに時間はかからないと約束できますわ」

 目に光を宿らせて言うハーピーさんの言葉で約束がなんの事だか気付いた。
 正確には約束じゃないんだけど、そこは言わない方がよさそうね。

(ありがとうはこ丸)
(......まぁ、たいした事ではない)
 
「私も空を飛べるの?」
「もちろんよマスター!」

 興奮して嬉しそうに言うハーピーを見てちょっと期待している私がいる。

(いや、ハコワンは人間なのだから運ばれるだけで飛べる訳ではないぞ)

 はこ丸が夢を壊す。いいじゃない、そんな夢を見るくらいしたって。

「いつ行くの!? もう行く? すぐにでも行けるわよ?」

 ソワソワしているハーピーに待ったをかけたのはヨーダさんだ。

「行く前に大事な事を決めておかねばならないね」
「大事な事......ですか?」
「そう。今後の活動において常に本名を出すのは危険が伴うだろう。普段は偽名を使い、本名は信用できる相手にだけ教えた方がハコワンの為にもなる。なので今その偽名を決めてしまおうじゃないか。ギルドでも最初はその偽名を名乗るんだよ?」

(え? 危険が伴うの?)
(ヨーダの体験からならそういう事もあったと言える)
(わ、私も危険?)
(そこはハコワンの行動次第だろうな)

 はぐらかされた気がしなくもない。

(じゃあヨーダさんの名前って実は偽名?)
(いや、本名だ。普段は『フォース』と言う偽名を使用していた)
(へぇー。......なのに私には初対面で本名を教えてくれたのね)
(......そういう事になるな)

 私がはこ丸とそんなやりとりをしている間にもヨーダさんは私の偽名を考えている。
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