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第八十九回 二竜山と滄州への使い
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滄州の柴進への手紙を用意した王倫。林冲の提言した二竜山との交渉もあり、優先順位をつけて考える為に天命殿へと足を運ぶ。
碁盤を用意し石を並べながら考え始める。
(優先的には柴進殿だろう。危険と考えられるだけに腕の立つ者を使者にたてたい。面識があり腕の立つ者と言えば林冲に晁蓋殿。だが同時にこの二人のみが二竜山の頭目とも面識があるという嫌がらせのような事実)
更に晁蓋は副首領という立場もあった。以前彼が宋江に会うため柴進の屋敷に行きたいと願い出た時も、その立場から長期間梁山泊を離れる事を良しとしなかった経緯もある。
(なのに今度は私の使者で行って欲しいとは頼めんな……)
義弟の林冲には頼みやすい。腕も立つし王倫の頼みなら喜んで引き受けてくれるだろう。が、林冲は一人しかいない。同時に二箇所には無理な話だ。能力で見るなら彼が柴進の所だろうか。
(二竜山の頭目の魯智深という人物と義兄弟の契りを交わしたというならこちらも林冲の方が説得力もあるのだがな……)
とにかく梁山泊の多くの好漢達の中で面識あるのが二人だけというのが泣き所だ。
(……いや。もう一人いたな。柴進殿に面識のある人物が)
王倫は碁盤にピシリと石を打った後、自虐的に笑ってしまった。
「流石に……この状況下で柴進殿の所に石勇はまずいだろう」
下手をすれば彼も巻き込まれて死んでしまう。
(距離的には二竜山。林冲にそこを経由して滄州に向かってもらうとして時間的猶予があるかどうか……)
できればそんな博打には出たくなかった。
(……羅真人先生ならば何か良い考えをお持ちだろうか? )
一瞬彼の超常的な力をあてにした王倫だったが、すぐに冷静さを取り戻す。
(まぁ二竜山に関しては劇団一座の件も片付いていないので合流の打診ではない。それを促しつつも時期を待ってもらう為の使者なのだ。後回しでも構わぬかもしれぬ)
王倫は木像を見た。
「それに前向きに捉えた方が運も開けましょう。そうですよね? 北斗聖君様、南斗聖君様」
木像は何も答えなかったがその姿勢が幸運を引き寄せたのかもしれない。
「首領、ここにおられますか?」
外から呉用の声がする。
「江州から戴宗がやってきましたぞ」
宋江の様子を伝えにきたのだろう。彼は神行法の使い手だ。
「むむ。良い時に来てくれたかも知れぬ。すぐに会おう」
王倫はその席で使者に林冲を指名した。そして戴宗に頼み込む。
「神行法を林冲殿に……ですか?」
「もし可能ならば林冲に術を施してもらい二竜山と滄州に行ってもらおうと思っているのだ」
それが出来るなら良い発想だと思った晁蓋は当然の如く自分も行くと言い出した。呉用は相変わらず動きたがる彼に苦笑いだ。
「王倫様の質問に答えます。林冲殿に術を施す事は可能です」
「おお」
「ですが、いくつか条件がありまして……」
一、術者本人が同行していれば他の人物にも神行法をかけることができる。ただし、同時に術をかけることができるのは一人まで。
二、道術という性質上、術者は酒と生臭を断つことが求められる。ただし術者だけがそうしているだけでよく、同行者にはこの制約は当てはまらない。
二つ目に関しては自身の心掛けなのでなんら問題ありません。と、戴宗は説明した。
「最初の条件……戴宗殿の同行が必要となると貴殿の予定を狂わせてしまうな」
王倫が気を使う。
「まぁ蔡得章(さいとくしょう)から東京の蔡京への使いも頼まれていますから、多少日程が遅れた所でなんとでも言い訳はできます」
戴宗は頼みを受けてくれる様子だった。
「そうなると同行者の選定ですな?」
呉用が言うと晁蓋と林冲が顔を見合わせる。
「副首領が寨を留守にするよりは……」
「分かっているよ軍師殿。流石にこの状況で我儘を言うつもりはない」
あっけなく晁蓋が折れた。いや、適切な判断が出来たというべきか。こうして二竜山を経由して滄州の柴進邸へ向かうのは林冲に決まった。
その後例の如く戴宗と密会した呉用達は、宋江が黄文柄(こうぶんへい)の兄、黄文燁(こうぶんよう)と接触し、彼の支持者となってもらった事。
呉用達の工作が成功し宣州の銭振鵬(せんしんほう)を抱き込み、偽の人事で江州の都頭として異動してきた事を告げられる。
「今の所はぼろも出ず上手いこと機能しています」
「辻褄合わせに賄賂。金大堅と蕭譲の技術も駆使しているのだ。簡単にぼろが出てはかなわん。だがこれでこの手が通用する事が証明できたな」
皆が何かしらの手応えを掴んだ。呉用はこれでかなりの応用が可能になると皆に説明する。
「では先生、私と孔亮は引き続き……」
「うむ。その聞煥章という人物との接触を続けてくれ。臨機応変にな」
「はい。やってみます」
一旦報告に戻っていた孔明、孔亮の兄弟は翌日再び梁山泊を旅立った。同じく準備を整えた林冲と戴宗も二竜山へと出発して行ったのである。
碁盤を用意し石を並べながら考え始める。
(優先的には柴進殿だろう。危険と考えられるだけに腕の立つ者を使者にたてたい。面識があり腕の立つ者と言えば林冲に晁蓋殿。だが同時にこの二人のみが二竜山の頭目とも面識があるという嫌がらせのような事実)
更に晁蓋は副首領という立場もあった。以前彼が宋江に会うため柴進の屋敷に行きたいと願い出た時も、その立場から長期間梁山泊を離れる事を良しとしなかった経緯もある。
(なのに今度は私の使者で行って欲しいとは頼めんな……)
義弟の林冲には頼みやすい。腕も立つし王倫の頼みなら喜んで引き受けてくれるだろう。が、林冲は一人しかいない。同時に二箇所には無理な話だ。能力で見るなら彼が柴進の所だろうか。
(二竜山の頭目の魯智深という人物と義兄弟の契りを交わしたというならこちらも林冲の方が説得力もあるのだがな……)
とにかく梁山泊の多くの好漢達の中で面識あるのが二人だけというのが泣き所だ。
(……いや。もう一人いたな。柴進殿に面識のある人物が)
王倫は碁盤にピシリと石を打った後、自虐的に笑ってしまった。
「流石に……この状況下で柴進殿の所に石勇はまずいだろう」
下手をすれば彼も巻き込まれて死んでしまう。
(距離的には二竜山。林冲にそこを経由して滄州に向かってもらうとして時間的猶予があるかどうか……)
できればそんな博打には出たくなかった。
(……羅真人先生ならば何か良い考えをお持ちだろうか? )
一瞬彼の超常的な力をあてにした王倫だったが、すぐに冷静さを取り戻す。
(まぁ二竜山に関しては劇団一座の件も片付いていないので合流の打診ではない。それを促しつつも時期を待ってもらう為の使者なのだ。後回しでも構わぬかもしれぬ)
王倫は木像を見た。
「それに前向きに捉えた方が運も開けましょう。そうですよね? 北斗聖君様、南斗聖君様」
木像は何も答えなかったがその姿勢が幸運を引き寄せたのかもしれない。
「首領、ここにおられますか?」
外から呉用の声がする。
「江州から戴宗がやってきましたぞ」
宋江の様子を伝えにきたのだろう。彼は神行法の使い手だ。
「むむ。良い時に来てくれたかも知れぬ。すぐに会おう」
王倫はその席で使者に林冲を指名した。そして戴宗に頼み込む。
「神行法を林冲殿に……ですか?」
「もし可能ならば林冲に術を施してもらい二竜山と滄州に行ってもらおうと思っているのだ」
それが出来るなら良い発想だと思った晁蓋は当然の如く自分も行くと言い出した。呉用は相変わらず動きたがる彼に苦笑いだ。
「王倫様の質問に答えます。林冲殿に術を施す事は可能です」
「おお」
「ですが、いくつか条件がありまして……」
一、術者本人が同行していれば他の人物にも神行法をかけることができる。ただし、同時に術をかけることができるのは一人まで。
二、道術という性質上、術者は酒と生臭を断つことが求められる。ただし術者だけがそうしているだけでよく、同行者にはこの制約は当てはまらない。
二つ目に関しては自身の心掛けなのでなんら問題ありません。と、戴宗は説明した。
「最初の条件……戴宗殿の同行が必要となると貴殿の予定を狂わせてしまうな」
王倫が気を使う。
「まぁ蔡得章(さいとくしょう)から東京の蔡京への使いも頼まれていますから、多少日程が遅れた所でなんとでも言い訳はできます」
戴宗は頼みを受けてくれる様子だった。
「そうなると同行者の選定ですな?」
呉用が言うと晁蓋と林冲が顔を見合わせる。
「副首領が寨を留守にするよりは……」
「分かっているよ軍師殿。流石にこの状況で我儘を言うつもりはない」
あっけなく晁蓋が折れた。いや、適切な判断が出来たというべきか。こうして二竜山を経由して滄州の柴進邸へ向かうのは林冲に決まった。
その後例の如く戴宗と密会した呉用達は、宋江が黄文柄(こうぶんへい)の兄、黄文燁(こうぶんよう)と接触し、彼の支持者となってもらった事。
呉用達の工作が成功し宣州の銭振鵬(せんしんほう)を抱き込み、偽の人事で江州の都頭として異動してきた事を告げられる。
「今の所はぼろも出ず上手いこと機能しています」
「辻褄合わせに賄賂。金大堅と蕭譲の技術も駆使しているのだ。簡単にぼろが出てはかなわん。だがこれでこの手が通用する事が証明できたな」
皆が何かしらの手応えを掴んだ。呉用はこれでかなりの応用が可能になると皆に説明する。
「では先生、私と孔亮は引き続き……」
「うむ。その聞煥章という人物との接触を続けてくれ。臨機応変にな」
「はい。やってみます」
一旦報告に戻っていた孔明、孔亮の兄弟は翌日再び梁山泊を旅立った。同じく準備を整えた林冲と戴宗も二竜山へと出発して行ったのである。
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