水滸幸伝 ～王倫・梁山泊にて予知夢を見る～

第八十回 羅真人の合流

 一一○三年、冬。梁山泊の首領王倫は三十三歳になっていた。秋の豊作に加え、水車の完成と食料も豊富で生活水準も向上したため、梁山泊全体の雰囲気は非常に落ち着いたものになっている。

 官軍の動きも特になく、宋江のいる江州方面も問題がないようなので、用事のない好漢達は自己研鑽の日々を送っていた。

 そんな中、秋から越冬準備のために梁山泊を離れていた者達もいる。情報や資材、人材を得る目的もあった。

 楊志隊は村(王家村)の住人の為、その部下となっている牛二と共に薪を集めて回り、過程で知り合った薪売り商人の石秀(せきしゅう)という男と親交を結ぶ。石秀からは東京で人気の一座がその年の巡業を終えたなどと、年の瀬を感じさせる情報を教えて貰っていたりした。

 花栄、秦明、索超、周謹、黄信らは劉唐、呂方、郭盛、王英、石勇、白勝達と手分けをして近隣の山々に住み着いたという山賊について調査を始めている。

 その間、山塞の練兵については副首領の晁蓋と王倫の義弟、林冲が担当していた。

 裴宣や皇甫端、燕順などの専門職と朱貴や阮兄弟達のように役割がある者はその生活を送っていたが、副軍師の公孫勝は日が経つにつれて落ち着きが失われていく。

 それもそのはずで梁山泊の姫君、桃香と瓢姫は六歳児に相当する成長を遂げていたが、これは二人が梁山泊で生を受けて一年が経過した事を意味するのだ。

 そしてこの時、入山を約束していた公孫勝の師匠、羅真人が梁山泊にやってきたのである。

 ※羅真人
 道士でその術は仙人の域にあり、天機を知る人知を超越した存在。二仙山に住んでいた。

「息災か？ 一清よ」
「これはお師匠様。お師匠様こそ……やや？ 母上！」

 羅真人は公孫勝の母も梁山泊に連れて来ていたので公孫勝は驚く。

「母御殿を一人にはさせられまい。これからはこの地でも良い修行が出来るので母御殿のお世話もすると良いだろう。ここは水汲みの手間も楽なのであろうしな」
「そのような事までご存知でしたか。これからは母上にも孝行させていただきまする」

 母親はそのまま公孫勝の家で生活する事になった。

 王倫は羅真人を歓迎し、成長した桃香と瓢姫に引き合せる。

「ほうほう。王倫殿や他の方々からたくさんの愛情を受け、とても良い子に育っておるようですな」

 羅真人は二人を見て笑顔になった。

「ワシは羅真人と申します。これからよろしくお願いしますぞ、桃香様、瓢姫様」
「「！」」

 仙人の子である二人も羅真人の持つ力を感じたようだ。余談だがこの羅真人、後日孔明と孔亮に会った時に助言を授けている。

「ふむ。お二方、何やら蔡州に縁ありと見受けられますな。向かってみるのも良いでしょう」

 公孫勝から羅真人の事を聞かされた二人は、天啓を得たりと呉用から承諾をもらって梁山泊を後にした。

 羅真人は邸を用意されそこで生活を始めたが、ある日公孫勝にだけ打ち明ける。

「一清よ、お主だけには言っておくがこの宋国の未来は明るいものではない」
「なんと」
「これは変えられるものではないだろうが、僅かな光明の可能性の種は蒔かれておる」
「……」
「これにより散らんでよい命の数は増えるだろう。そもそもこの地に集う者はある宿命で結ばれておるのだよ」
「宿命……でございますか？」

 羅真人は他言無用としたうえで、公孫勝がかつて天界で悪さをした為に地上におとされ封印された、『天間星(てんかんせい)』の生まれ変わりである事を告げたのだった。