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42話 正和、アリマから三日の猶予をもらい シロッコ、全員に事情を話す

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 翌朝、食堂に皆が集められた。 異世界出身の朋広、幸依、正和、華音の洞口一家に神であるシロッコ。 現地の人間の親子でオワタとオーシン。 亜人からは狐人キエル、エルフのルミナ、猫人のヒラリエ、ドワーフのダラン、兎人の親子のサトオルにサオール。 そして正和が帰還後解呪を施し、赤蟻から元の姿に戻ったウルフリング、狼人のテリーという少年。 角がある状態の聖獣、ニース。 ここにいないのはオーシンの馬だけであった。 

「すごいな。 全員が集まるとこの大食堂も手狭に見える」

 ダランが言う。

「そうねぇ。 一体なにが始まるのかしら? ......ルミナ? 顔色が優れないようだけど大丈夫?」
「え!? へ、平気よ。 大丈夫」
「そう?」
「あ、あのね、キエル」
「なぁに?」
「う、ううん、ごめん。 なんでもない」
「? そう」
「にゃはは。 へんにゃルミにゃね」

 ルミナは確かに落ち着かない感じだった。 ラビニアンのサオールが口を開く。

「でもまさかここに聖獣様までおられたなんて驚いたね、父さん」
「私も初めて拝見しました。 ここの方々は我等親子を助けて頂いた時から規格外だとは思っていましたが......」

 父親のサトオルがサオール以外にも聞こえる感じで話す。

「まぁ、その辺りも含めて説明できればいいんじゃがの」

 シロッコの声で大食堂が静かになり、正和が立ち上がり皆の視線が集中してから話が始まった。

「亜人領で起きている蟻の件で報告があるのですが、結論から言えば最終局面に向かっていると思います」

 亜人達からどよめきが起きる。

「蟻には黒蟻と赤蟻、そして女王蟻がいて、僕はその全てに遭遇しました。 女王蟻と遭遇したのは昨晩です。 そして他の亜人の皆さんは、前例を見る限り赤蟻に姿を変えられ女王蟻の為に働いていると断言します」

 再度亜人達からどよめきが起きるがルミナとテリーだけは青い顔をして俯いている。

「で、では、私達は自らの仲間に襲われていた...... と言う事でしょうか?」
「そ、そんにゃ」
「赤蟻に襲われた方がいるならそうなります。 ただ黒蟻と赤蟻は別の存在でして、黒蟻は亜人ではありません。 赤蟻にはオーシンさんからお借りしているペンダントも反応します」
「そんな...... とても信じられません」
「ですが朗報もあります。 赤蟻は亜人の方達が強制的に姿を変えられているようで、元に戻す事が可能だという事です。 変えられてから時間が経過し過ぎていたら戻せない可能性。 または戻せても死亡する可能性などはあるかも知れませんが、そこはまだ情報が少ないので」
「変えられた奴等は儂等がわからずに攻撃してくるのか?」

 ダランが質問する。

「赤蟻の時の記憶がない事から恐らく本人の意思や記憶というものは働いていない。 ......とみています」
「正和さんはにゃんでそんにゃ結論にまで至ったにゃん?」
「......数日前、そこにいるテリー君に赤蟻として襲われました。 ですがペンダントの反応から亜人と判断し、気絶させてこちらに運び、それからシロッコじいちゃんと元に戻す方法を模索していました」

 俯いているルミナ以外が全員テリーを見る。

「す、すみません。 この度はご迷惑をおかけして......。 ウルフリングのテリーです」
「前例って彼の事にゃりか」
「正和さんに救って頂けたのですね? おお......。 アリア様のお導きと正和さんに感謝を」

 キエルの言葉にルミナがビクッと震えた。

「良かったじゃないルミナ。 正和さん達が部屋に籠っていたのは、彼を救う為だったって事でしょう?」
「え、う、あ、うん」
「? 貴女本当にどうしたの?」
「だ、大丈夫。 大丈夫だから」
「それで向こうで蟻を率いる存在の女王蟻と遭遇した訳なんですが......」
「正和さんが今ここにいるって事はボスを倒したって事にゃりよね!?」
「いえ、残念ながら...... ん? いや幸運な事に? 何と言えば良いのかはわかりませんが、女王蟻とは戦いになりませんでした」
「儂等を無条件で襲った相手だぞ!? 話が通じる相手とは思えんがな」

 ダランが不思議がる。

「話はできました。 意外かもしれませんが割と話は通じる相手じゃないかとは思います。 ただ...... 立場からきているものなのか、一方的な物言いをする事はあるかもしれませんね」
「そう。 ......そうでしょうね」

 ルミナがぽつりと呟いた一言は誰にも聞こえなかった。

「それでですね、何故か僕はその女王蟻のアリマさんから婿にしてやると言われてまして、とりあえず三日間の猶予をもらってここへ帰ってきた訳です」

 正和から事情を聞いている一家とシロッコ以外から『はあ!?』と言った声があがるが無理もない。 これにはルミナも驚いている。

「僕達家族とシロッコじいちゃんは三日後にアリマさんに会いに行きますが、亜人さん達との事を考えてどう交渉しようか考えています」
「まさか、わたくし達に亜人を崩壊に導いた蟻達と和解しろとおっしゃるのですか!? そんな事を我等が神、アリア様がお認めになるはずがありません! 名前まで似ていてアリア様も快く思われないに決まっています!」
「ちょ! キエル落ち着くにゃ!」
「それに正和様だけでなく、他の家族の方やシロッコ様まで同行なされるのでしたらそのアリマとやらを倒すのも難しくないのでは?」

 キエルが勢いのまま捲し立てる。 キエルは信仰している亜人の神、アリアの事になると暴走気味だ。

「だめよキエル! それはだめ!」

 突然叫んでキエルを制したルミナにキエルはとまどう。

「どうしたのルミナ。 本当にさっきから変よ? 蟻にはわたくし達も散々被害にあったじゃない。 なのに庇うの?」
「彼女を...... アリマと名乗る彼女を倒せば...... あなたが困るわ、キエル」
「ぼ、僕もそう思います......」

 ルミナに賛同したのは赤蟻だったテリーだった。 問答無用で襲った加害者を、なぜか被害者が庇う構図が他のメンバーには理解できない。

「アリマさんは立場は女王蟻でしたが、自分の事を神だとも言っていました。 僕はその可能性はありえないと否定し、力を持つものが傲慢になり己を神に例えているような発言だと最終的には判断していたのですが、もしかして...... 赤蟻になった時に何かあったのですか?」
「え? 赤蟻になるって、ルミナがそんな訳」
「ごめんなさいキエル。 私は昨晩みんなに内緒で向こうに行って彼女、アリマに遭遇し...... 何も出来ずに赤蟻に姿を変えられたの。 すぐに正和さんとニースが来てくれて助けられたけどね」
「なんだと!」
「にゃ!?」
「なん...... ですって?」

 食堂がどよめく。

「彼女には抗えない。 自分の意思よりも彼女の意思の方が心と身体に優先される」
「ぼ、僕もそうでした。 黒蟻に捕まり彼女の前に引き出され、話しかけられた事には逆らえず、そのまま赤蟻に...... そこから先の記憶は僕にはありません」

 誰かの唾を飲み込む音が聞こえるほど食堂は静まり返った。

「私ですらそうだった。 たぶん...... いえ、キエル。 アリア様を信仰しているあなたは私以上に彼女に抗えない」
「な...... なんでそんな事がわかるの......?」

 キエルの声は震えている。

「ううん、亜人である以上誰も彼女には逆らえない。 彼女は...... なんで女王蟻なのかはわからないけど本当の姿は私達亜人の女神、アリア様よ」
「嘘でしょう!? そんな事を言ってわたくしを困らせようとしているだけなのでしょう?」
「......」
「なんで黙るのよ...... アリア様が蟻になってまでわたくし達を滅ぼそうとするはずがないでしょう? ねえ?」
「赤蟻になって私の意識が消える瞬間...... アリア様が私達亜人を庇護しようとしている意識が伝わってきたわ」
「僕もです......」
「庇護? 私達を襲っておいて庇護って...... 意味がわからないわよ」

 亜人達は揃って沈黙した。

「亜人を眷族としたアリア様は禁忌に手を染めた当時の神族、つまり魔族に討たれたんですよね? 討たれたけれどどこか別の場所で年月を経て復活した。 ......もしくは生まれ変わったという事でしょうか?」
「本当に神なら基本は不死じゃからな。 消滅しても復活の可能性はある。 じゃが別の神になるケースは儂も聞いた事がないのぉ」
「何か手違いが起きた可能性もある......。 神ですら予測できなかった何か、か」
「でも当時の神様なら聖獣の事を知ってたっていうのはおかしくないんでしょ? お兄ちゃん」

 華音が何気に聞いてくる。

「そうだね。 おかしくない......。 いや、おかしい?」
「え゛」
「......」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん?」
「アリア様が転生してアリマさんになったと仮定したら...... じいちゃん。 もしじいちゃんに何かあって転生、もしくは復活するとしたら何処で? 生前の記憶は?」
「何か縁起でもない質問じゃが...... やはり儂なら天空の神殿じゃろうな。 記憶はないと不便じゃから当然受け継いでおる」
「神殿...... キエルさん、アリア様にもそういった場所はありましたか?」
「は、はい。 総本山と呼ばれる神殿がございました。 いずれアリア様は我等をお救いになる為、そこで復活なされると信じられておりました」

 キエルの言い方に正和は違和感を覚える。

「現在その場所は......?」
「......我等亜人が初めて蟻と遭遇し、襲われたのがその場所です。 私はたまたまその場におらず難を逃れる事ができましたが、神官や参拝に訪れていた者、大勢が犠牲になったと聞いております。 現在は誰もいない廃墟となっておりましょう」
「そうですか...... 辛い事を聴いてしまいすみません」
「いえ。 何かお役に立てるなら平気です」
「聖獣の記憶は持っていた......。 眷族に関しての記憶に障害? じいちゃん何かそういう事例に心当たりはないの?」

 正和がシロッコに問いかける。

「少なくとも儂がこの世界にきて人族を誕生させてからはそんな事例はないの。 まぁ、儂以外に神もおらんかったが」
「あ、あのすみません」

 最初に名前だけの登場でこのまま出番がなかったであろうオーシンが口を開く。

「シロッコ殿はこの森に住んでおられる大賢者様。 ......なのでは?」

 正和とシロッコが顔を見合わせる。

「すまんのぅ。 言い出すタイミングを探しておったんじゃが、亜人の神も出てきたようなのでの。 実は儂が現在のこの世界の神なんじゃよ」

 シロッコはウィンクしながら舌をぺろっと出してさらっと暴露する。 

 その日、開拓村は事情の説明の度にどよめきが起き、蟻の話であったのに蜂の巣をつついた様な騒ぎになった。 余りの話の大きさに気落ちしていたルミナも、ショックを受けていたキエルもただ茫然としている。

 シロッコは学んだのか、一家に見せた映像を食堂の壁に展開し、内容も一部編集して公開しご満悦だった。

 この出来事は洞口一家が開拓村の者に初めて異世界からの住人であったと認識された瞬間でもある。 皆驚きはしたが、すでに人となりは知っているので混乱はなく、むしろ色々納得される事も多かったという。
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