【朗読の部屋】from 凛音

キルト

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「気になる」

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新しい職場に移って1か月が過ぎた。
俺はバイバスを使って毎日45分かけて通勤している。
仕事もだいぶ慣れてきたがひとつ気になる事があった。
週2日の夜勤。
バイバスの非常避難スペース、深夜1時。
火曜日のこの時間に通る時にだけ、ぼんやりと赤い光が灯っている。
最初は工事の赤いランプかとも思ったが、こんな曜日に1日だけ……
よくよく考えれば変だった。
最初は新しい職場に慣れるのに精一杯で気にしながらも通り過ぎていた。
そんな仕事も段々と慣れ始めた頃、今日は1台の車が止まっていた。
パカパカとハザードを灯した軽自動車。
目を凝らすと1人の女性が何か覗き込んでいる。
俺は気になって車を寄せた。
「こんぱんわ」
俺が声をかけると女性はビクッとして驚いたが、俺の顔を見てほっと溜息をついた。
「こんばんわ」
そう言って女性はぎこちない笑顔を浮かべた。
「何を見ているのですか?」
俺が訊ねると彼女は口元へ手を当てて黙り込んだ。
何やら秘密を話していいのか迷っているようだった。
気まずくなり俺は返事を待たずに話し出した。
「すみません。
 突然、こんな深夜に話しかけたらびっくりしますよね。
 さっき赤い光を覗き込んでましたよね?
 実は俺も毎週ここを通るたびに赤い光が気になっていて。」
「ダメっ……帰った方がいい。
 今ならまだ間に合うから……。」
そう彼女は消え入りそうな声で言った。
(彼女は何かを知っている。)
ダメと言われると余計に気になった。
どうして毎週火曜日の深夜1時にだけ赤い光が灯るのか?
この女性は何を見つめていたのか?
赤い光の正体は何なのか?
「ダメって、貴女はさっきずっと赤い光を覗き込んでいたじゃないですか?
 あの光は何なんですか?
 教えて下さいっ、でないと気になって俺、帰れません。」
「知りたい?」
彼女は急に真顔でそう訊ねた。
「はいっ、何か知っているのなら教えてください。」
俺がそう答えると彼女の顔が妖しく歪む。
「ほら、あそこ」
そう言って彼女は窪みの底を指さした。
目を凝らすと小さな赤い点が微かに揺らいでいる。
「あの赤い光をじっと見つめるの。」
彼女の言うままに光をじっとみつめると徐々に赤い光が大きくなってきた。
コイン程の赤い光がドンドンと漆黒の闇夜を赤く浸食していく。
「あっ」
眩しい光に全身が包まれ俺は目眩を感じた。
「ううん、あれここは?」
気がつくと俺は真っ暗な道路に倒れていた。
先程までいた彼女の姿はない。
「夢だったのか?」
俺はノロノロと立ち上がると車に乗ろうとドアに手をかけた。
ガチャガチャ
「あれ」
ドアが開かない。
というよりは何か透明な壁に阻まれて物質がこちらへ来れない感じだった。
あれから1週間が過ぎた。
未だに俺はこの避難所スベースが脱出出来ていない。
何台も前の道路を車が通り過ぎるがこちらの姿が見えないようだった。
ちょうど1週間が過ぎた火曜日の深夜1時。
俺は窪みの底に小さな赤い光が灯っている事に気がついた。
赤い光が灯ったのは1週間ぶりだった。
何かここから脱出する手掛かりがないか必死に光に目を凝らす。
「こんばんわ」
驚いて振り向くと若い女性がモジモジしながら立っていた。
(この人はどうやってここへ入って来れたんだ?)
不思議に思っていると彼女は言った。
「何を見ているのですか?」
「えっ」
「さっき赤い光見てましたよね。
 私、あの赤い光ずっと気になっていて……」
そこで俺は理解した。
「赤い光の秘密知りたいですか?」
俺はそう答えると顔が妖しく歪む。
「はいっ、是非」
彼女の顔がパッと明るくなりワクワク感が溢れ出した。
「ほら、あそこ」
そう言って俺は窪みの底を指さした。
(ごめん)
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