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優介:バベルの記憶
しおりを挟む第二十九話 優介:バベルの記憶
カオスはメニュー画面を開いて、ずっと考え込んでいた。
隣でノアノが心配そうにそれを見つめている。
黒転王との戦いの後、白国に戻り俺はずっと王座に座り込んでいた。
そのただならぬ気配に側近巫女のノアノは人払いをして側に寄り添っていた。
「くだらない。
無知というのは、それだけで罪だ。
教えてやろう。
罪の本質は、神へ対する反逆だ。」
そんな黒転王の言葉が頭の中を駆け巡る。
黒転王の正体は前カオス王の『紫転王』だった。
『紫転王』がどうしてバベルタワー開門に向かった後に姿を消したのか?
師匠の言った『裏切り者』とはどういう意味なのか。
なぜ『紫転王』は俺の事を『本物』と呼んだのか?
分からない事ばかりだった。
「そんなに知りたければ教えてやる。」
あの時、紫転王が憎しみがこもった声で叫んだあの言葉……
あの言葉が真実なら全ての責任は俺にあるのかもしれなかった。
俺は意を決して『最後の記憶』を解放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
全能の巫女『イブ』は人類にうんざりしていた。
アトランティスにいた頃は、島中央のバベルタワーへ幽閉されていた。
イブの能力を手に入れようと周辺諸国がアトランティスへ攻め込んだ時には月へ逃げた。
争うのが嫌だったから……
だけど月へ逃げても争いは起きた。
規律を重んじる白の民と自由を重んじる黒の民の間で全能の巫女の奪い合いが始まったのだ。
二つの民の争いの混乱の隙に『イブ』はバベルタワーを逃げ出し神殿に来ていた。
幾重にも連なる『赤い千本鳥居』をくぐり抜けて広間に出る。
綺麗なレンガが敷き詰められた『儀式の間』にて六人のイブ達が話し合っていた。
(自分が『全能』だから争いが起きる。)
そう考えたイブは『選別の儀』を行い、自身を四つの能力と二つの感情に分割した。
六人に分かれたイブはお互いを色で呼んでいた。
争いを好まない白(シロ)
攻撃的な青(アオ)
それぞれ異なる能力を持つ、赤・黒・緑・茶
赤・黒・緑・茶の四人は空に浮かぶ青い惑星へ先程旅立った。
月の民から見つからないように青い惑星の胎児へ安全になるまで隠れるつもりだった。
今は残った二人の感情が今後について言い争っている。
どちらもこのままではいけない事は一致していた。
争いを好まないシロは、ゆっくりと人類を導く道を主張し、
攻撃的なアオは、一度人類をリセットして作り変える道を主張していた。
「私達は、ずっと愚かな人類に寄り添って来た。
でも彼らは私達を幽閉し利用して来た。
そして今もまた二つの民が私達の能力を取り合っている。
そんな人類は一度、滅ぼすべきよ。」
アオが言った。
「人類を滅ぼす必要はないわ。
彼らはまだ私達に能力が追いついていないだけ。
私達が、ゆっくりと導いていけばいいのよ。」
シロがアオを必死になだめた。
「じゃあ、こうしましょう。
私が有能な人類だけを一部こちらへ避難をさせて残りをみんな海に沈めるの。
避難させた人類をシロが、ゆっくりと導けばいい。
どう?」
人類を滅ぼす風景を想像して笑うとアオが楽しそうに提案した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そこでカオスは自分の意識が戻るのを感じた。
目の前でノアノが心配そうにこちらを見ている。
記憶の解放はここで終わっていた。
サヤカの中のノアが言っていた『ノアオペレーション』とは『人類滅亡計画』なのだろう。
そうなるとバベルタワーにいる『あのお方』とはたぶん全能の巫女『アオ』の可能性が高い。
「罪の本質は、神へ対する反逆だ。」
そう『紫転王』は言っていた。
師匠はそんな『紫転王』を『裏切り者』だと……
「そんなに知りたければ教えてやる。」
あの時、『紫転王』が憎しみのこもった声で叫んだあの言葉……
あとは『あの言葉』を受けて俺がどうするかだった。
「『ノアノ』。
頼みがある。」
俺は決意を持ってそう言った。
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