上 下
15 / 31

サヤカ:反逆のモモカ

しおりを挟む

 第十四話 サヤカ:反逆のモモカ

 この中に殺人者は確実にいる。

 『断罪の間では、誰も嘘をつくことはできない。』
 このルールがある前提で私達は皆が自分は殺人鬼ではないと言った。

「このゲームは闇雲に無実の人間を処刑するゲームではなく。
 『記憶の解放』により相手の隠された記憶を見つけるゲームなんだ。」

 そうアオトが言って、みんながそれぞれ怪しいと思う人間の記憶を解放した。
 サヤカも黒の刑事の記憶を解放し、自分が通う名和大学の事を刑事が調べている事が分かった。
 なんとなくアオトと一緒に居る事が気まずくなり私はピンクの少女へ声をかけていた。
 自己紹介の時、中学生と名乗った少女は『桃香』と言った。
 中学の制服姿と微かに震えるツインテールの髪が一層少女を幼く見せている。
 発言もどこか頼りなく、常に下を向いて小さな声で話していた。
 聞くとやはりモモカも気がつくとここへ飛ばされそれ以前の記憶がないのだと言う。
 二人がそれぞれ記憶の解放を行った後、情報交換の為もう一度私はモモカへ話しかけた。

「モモカっ、
 記憶の解放どうだった。
 私は黒の刑事の記憶を解放したんだけど、
 私の大学の事を何か調べていたみたいなんだ。」

 そう私が話かけるとモモカも笑顔で答えた。

「サヤカは黒の刑事を調べたんだっ。
 大学の事を調べてるって私達の名和?」

 あまりの変わり様に私は驚いた。
 記憶を解放する前は内気で頼りなく下を向いて話していた少女。
 今は馴れ馴れしくタメ口をきいてくる。
 表情も明るく自信ありげで先程とは別人だった。
 聞けばモモカは自分の記憶を解放し私とモモカは名和大学の同級生で親友だという事だった。
 私はモモカの事を全く覚えていない。
 そもそも大学生活の記憶が全く無かった。
 私も自分の記憶を解放すればモモカの事を思い出すのだろうか。
 そんな事を考えていると突然アナウンスが響き渡った。

――午前中――

「『午前中』になりました。代表者を決めます。
 話し合いを始めてください。」

 天井からアナウンスが流れる。

「どうだっ、
 誰か前回の記憶の解放で殺人鬼の正体を突き止めた奴はいるか。」

 黒の刑事が皆に聞いた。
 刑事は返事を待ち沈黙したが黙ったまま誰も答えなかった。

「情報が足りなすぎる。
 もう一度、全員が自分に投票して情報を集めよう。」

 しばらくして青のアオトだけが黒の刑事の問いに答えた。
 何の手掛かりも意見もないまま何となくもう一度自分に投票という事で場の雰囲気が流れた。

――正午――

「正午になりました。代表者を決めます。
 投票を開始して下さい。」

 天井からアナウンスが流れた。

「青が俺達を騙していた事は気に食わない。
 だが今は自分達が生き残る為の情報が無さすぎる。
 だから今回も全員が自分に投票する事にしよう。」

 そう言って黒の刑事がそれぞれに念押しをした。
 気がつくと目の前に投票画面が浮かび上がっていた。
 私は言われるがまま自分へ投票した。
 投票が終わり周りを見るとそれぞれも選び終わったようだった。

「投票が終了しました。
 投票結果を発表します。」

 天井からアナウンスが流れると円卓の上に投票結果が浮かび上がった。

 ――投票結果――

 黒の刑事⇒黒刑事
 緑の教師⇒緑の教師
 青のアオト⇒青のアオト
 白のサヤカ⇒白のサヤカ
 ピンクのモモカ⇒青のアオト

 結果
 黒の刑事が、一票
 緑の教師が、一票
 青のアオトが、二票
 白のサヤカが、一票
 ピンクのモモカが、零票

 ――午後――
「青様は断罪者の指名を行って下さい。」

 天井からアナウンスが流れた。

「……」
「……」
「えっ」

(青のアオトに二票入っている。)

「モモカっ、
 みんなで自分に投票しようと決めたじゃない。」

 私は驚いてモモカへ訊ねた。

「ごめんっ、サヤカ。
 緊張して押すボタン間違えちゃった。」

 モモカが舌を出して悪びれずに答えた。

「こうなった以上は誰かを処刑しなければならないっ。
 悪いが俺は黒の刑事を指名する。」

 そう青のアオトが言った。 

「おいっ、ちょっと待て
 俺を処刑とはどうゆう事だっ。」

 慌てて黒の刑事が反論して周りを見る。
 突然の出来事に他の人間は状況についていけない様だった。

「処刑者を決定いたします。
 投票を開始して下さい。」

 天井からアナウンスが流れた。

「待て、待て、俺は刑事だぞっ、
 殺人鬼の筈がないだろ。
 こんなのはおかしい。」

 そう言って黒の刑事は近くにいたサヤカの肩を掴んだ。
 突然肩を掴まれた私は恐怖のあまり思わず口走る。

「止めてっ、離して、
 絶対って事はないっ。
 だってあなた隠れて私の学校の事調べてたでしょう。
 娘さんの事でやましい事があるんじゃないのっ。」

「……」
「……っ」

 その言葉で周りに動揺が走った。
 疑惑の視線が一斉に黒の刑事に注がれる。

「いやっ、まてっ
 ちょっと待ってくれ、
 違うんだっ
 みんなっ、俺の話を聞いてくれっ」

「投票時間となりました。
 今後一切の弁明を禁じます。
 投票を開始して下さい。」

 天井からアナウンスが流れた。

 ――投票結果――

 黒の刑事⇒青のアオト
 緑の教師⇒黒の刑事
 青のアオト⇒黒の刑事
 白のサヤカ⇒黒の刑事
 ピンクの少女⇒黒の刑事

 結果
 黒の刑事が、四票
 青のアオトが、一票
 
「投票の結果。
 黒様の処刑が決定いたしました。
 即時、処刑が実行されます。」

「そっ、そんなっ
 こんなバカな事ってあるかっ
 俺はただっ、娘が心配で……」

 天井からアナウンスが流れた瞬間。
 黒の刑事が蒼い炎に包まれた。
 断罪ゲーム開始三日目、初めて投票により処刑が実行された。

(殺らなければ、私が殺られるっ)

 私は蒼い炎を見つめながら背筋が冷たくなるのを感じていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

戦争前の日本の少女に憑依転生。ゴーレムって何ですか?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

レベル×レベル 〜低レベルで目指す魔王討伐〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:12

英雄と村娘

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

Beauty and Beast

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1

餓鬼の介護

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

ゆらぎ堀端おもかげ茶房

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

学校のアイドルはお悩みのようです

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

就職に困った魔法使い、チーター討伐の職に就きました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

奥さまは魔王女 2nd season 〜ジーナは可愛い魔女〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

処理中です...