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優介:リベンジ緑国

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 第十三話 優介:リベンジ緑国

「ゼロっ、
 この指輪を受け取って欲しい。」

 そう言ってカオスはソファーの横に座りそっとゼロへ指輪を差し出した。
 茶国から帰還した俺は緑国へ一人で戦いへ挑もうとしていた。
 ついて行くとせがむゼロをソファーへ座らせて先程から残る様に説得していた。
 前回の戦いで姉妹同然のセブンを亡くしたゼロ。
 もう独りぼっちになるのは嫌だと泣いている。
 そんなゼロへ俺は、茶国の秘宝『リンクリング』を差し出して言った

「ゼロ、この指輪を受け取って欲しい。
 この指輪は茶国の秘宝『リンクリング』
 身に着けた者同士のHP・MP・スキルがリンクされ、
 文字通り『死が二人を分かつまで』お互いが死ぬ事はない。
 俺が死ぬ時はゼロも死ぬ時だ。
 もちろんゼロの事は俺が守る。
 決して独りぼっちにはさせない。
 だからゼロはこの王宮で待って一緒に戦ってくれ。」

 ゼロは頷き、涙を拭きながら指輪を薬指にはめると指輪を見て笑った。

「ダン様。
 ゼロが指輪を欲しいって言っていた事。
 覚えていてくれたんですねっ。
 嬉しいっ
 ねぇ、ダン様のコト……凄く好きです。」

 そう言って、俺の膝の上に寝転ぶと甘え顔で頭を差し出した。

「俺も好きだよ。」

 俺は優しくゼロの頭をひとしきり撫でると緑国へ旅立った。


 見覚えのある熱い森を抜けると漆黒の大理石が敷き詰められた広間に出た。
 先程までの少し汗ばむ暑さと変わり、どこかひんやりとした空気が漂っている。
 目を凝らすと百メートル程先の太い柱に挟まれた祭壇に何者かが立っている。

 緑のローブに猫背に片眼鏡。

 蛇のようなギラついた視線は忘れもしない『緑転王』だ。
 睨むカオスへ初老の男はへらへらと不気味な笑顔を浮かべて言った。

「生きていましたか、青転王。
 仲間を見捨てて無様に逃げ惑っておきながら、
 また殺されに来るとは馬鹿なんですか?
 今度は逃がしませんよっ。」

 緑転王が指を鳴らすと周りの森から一斉に熊の軍団が次々と現れた。

 その熊の息遣いに先日の戦いの記憶が蘇る。

(セブン……)

「戦う前に訊きたいっ。
 俺と居たセブンという子供がいただろう。
 あいつはどうした。」

 一途の望みをかけて俺は真剣な眼差しで訊いた。
 緑転王が笑いながら言う。

「あなたは食事の後で数日前に食べた野菜達の事を覚えていますか?
 そんなゴミの事なんて知りませんねっ。
 たぶん熊の餌にでもなってるんじゃないですか。」

「そうか。」

 悲痛な表情でそう言うと俺は両手に短剣を引き抜いた。

「仮にも一国の王たる者が何を小娘一人に泣いているのです。
 力とは積み上げた屍の上に現れるモノ。
 さあ、今度こそ真の力とは魔力なんかではなく、
 科学と言う事を教えてあげますよっ。
 倫理観なぞ何の役にも立たない。
 圧倒的な力の前に泣きながら散るがいいっ。」

 その言葉を合図に緑の水晶と鋼鉄でサイボーグ化した熊の軍団がカオスを取り囲む。
 じわりじわりと取り囲むと一斉に数匹がカオスへ牙をむいた。
 その攻撃をかわし俺は短剣で切りつけた。

 ボトッ

 スッと音もなく刃が通り過ぎ熊の腕が地面へ落ちる。
 まるで薄い紙をナイフで切り裂くかのように鋼鉄の体を短剣が切り裂いていく。

 『ソウルイーター零式』

 茶転王より譲り受けた愛機は森の神獣『あ・うん』との召喚契約により最強の魔道具として
 蘇っていた。
 狛犬の蒼白い毛並みと同様に刀剣は妖しく蒼白い光を放っている。
 
 「一匹づつ挑むなっ、
 数匹で一度に攻撃するのです。」

 緑転王が慌てて戦闘熊達へ指示を出す。
 唸り声を上げながら数匹の戦闘熊が一斉にカオスへ襲い掛かる。

 「銃モード」

 そうカオスが言うと蒼白い短剣は二丁の銃へと姿を変えた。

 銃に散りばめられた魔法石は全て満タン状態。
 蒼く力強い光を放っている。
 襲い掛かる戦闘熊をほぼ一撃で強烈な弾丸が頭を吹き飛ばしていく。
 そこには前回のような危うさは微塵も感じられなかった。
 俺は銃から再び短剣へ『ソウルイーター零式』を変化させると、
 立ちふさがる熊を切り裂きながら緑転王へ近づいていった。

「中々やるじゃないですか。
 でもこれならどうですかっ。
 出でよ我がしもべ、メカコング。」

 そう緑転王が言うと目の前の床が開き全身を銀色に輝かせたゴリラがせり上がって来た。
 戦闘熊の囲みを突破し緑転王の目前まで来たカオスをメカコングが立ちふさがる。
 一度距離を取ろうと下がる俺へメカゴングが前傾姿勢から一気に距離を詰めて来る。

 (速い。)

 そう思った瞬間、メカゴングの体当たりによって俺の体は宙を浮いていた。

 ぐはっ

 何とか受け身をとりながら転がる。
 戦闘熊と違いメカコングは圧倒的な速さと力を持っていた。
 あの腕力での攻撃をまともに食らったら一溜まりもない。
 襲い掛かるメカコングの腕を何とかかわして切りかかる。
 キンっと甲高い音がして刀身が弾き返される。

「ふっふっふっ。
 通りませんよ。
 このメカコングの体は全身ミスリルで出来ています。
 しかも戦闘熊と違い脳は私とリンクしており私が自由に動かせるのです。
 このメカキングはもはや最強。
 私の分身同然なんですよっ。」

 緑転王が蛇のような目で嬉しそうに勝ち誇る。
 見るとメカコングは全身がミスリルで覆われていた。
 基本はゴリラをベースに改造を施しているのだろう。
 熊よりも動きが早く、しかも緑転王の操作で動きに無駄がなかった。
 だがそこにはもう動物としての姿はない。

「緑転王は命を弄んでいる。
 森の獣に機械を埋め込み意志を奪い。
 命を使い捨てる。」

 神獣『あ・うん』が言った言葉が脳裏に蘇る。

「お前は命を弄んでいる。
 それは許されない事だっ。」

 そう言う俺へ緑転王は薄ら笑いを浮かべた。
 俺は『ソウルイーター』を銃へ変更し一発メカコングへ食らわせる。
 ボンっという鈍い音と共に命中したが、有効なダメージは与えられなかった。

(ちっ、
 直接、緑転王を叩くしかないか。)

 俺は両手に銃を抱えたまま緑転王へ突っ込んだ。

「直接、私を狙う気ですか?
 作戦としてはいいですが、
 一手遅いんですよっ。」

 そう言うとカオスと緑転王の間にメカコングが割り込んで来た。

「いや、俺の方が一手早いっ。
 『ダブルターン』」

「……」

 そう呟くと俺は緑転王の背中に銃を突き付けていた。

「馬鹿な『ダブルターン』だとっ、
 何故お前が青国の騎士のスキルを使えるっ。
 だが知っているぞっ、
 仮に使えたとしてもしばらく動けない筈。
 メカコングっ、
 コイツを殺せっ。」
 
 緑転王が叫んだ。 

「そう、しばらく動けないさ。
 王宮のゼロがなっ。」
 
 そう言うと銃を構えた。

「ばかなっ、
 この私がっ、
 何もかもを犠牲にして来た私が
 魔法なんぞに破れると言うのか?」

「お前は魔法に負けるんじゃないっ。
 お前が切り捨ててきたモノに負けるんだよっ」
 
 そう言うと俺は銃の引き金を引いた。

――三つの『オーパーツ』を獲得しました。――
 ・ユニークスキル『生物改造』
 ・『白紙のデッキカード』
 ・『失われた記憶』

 目の前にメニューが現れた。
 俺はユニークスキル『生物改造』をタップすると破棄を選んだ。

「このアイテムはオーパーツです。
 破棄すると二度と手に入らない可能性があります。
 本当に破棄しますか」

 追加でメッセージが表示される。
 俺は迷わず破棄を選びユニークスキルを消滅させた。
 これは神獣『あ・うん』と召喚契約を結ぶ際の条件でもあった。

「森の動物の命を弄ぶような能力は存在してはならない。
 その為なら我は主と召喚契約を結び力になる事を約束しよう。」

 『あ・うん』に言われるまでもない。
 俺は貴重なスロットをこんな気色悪いスキルで埋める気にはなれなかった。
 今回勝てたのは力を貸してくれたみんなのお陰だった。
 魔力を封じられた広間で戦う力を与えてくれた茶転王の愛機『ソウルイーター零式』。
 その魔道具により倒した相手の魂を銃弾へと変換させる動力『神獣 あ・うん』。
 なにより『リンクリング』により一時的に時間を前借りできるスキル『ダブルターン』。
 そのデメリットを請け負ってゼロは今頃王宮で動けなくなっているだろう。
 セブンの敵討ちとか言うつもりはないが自分なりにケジメはつけられた気がした。

「さて、帰りますか。」

 そう呟いて俺は『フライ・ゲート』を使いゼロの待つ王宮への帰路へ着いた。


 その頃、黒国では黒転王が王座に座り水槽を眺めていた。
 禍々しい魔力を放つ液体に一人の女性が数日間浸かっている。

「そろそろか」

 そう言って黒転王が指を鳴らすと水槽が消え液体と共に全裸の女性が床へ流れ出た。
 長い眠りから覚めた女性がぼんやりと王座を見上げる。

「神父様?」   

 そう言う女性に黒転王は思わず苦笑する。

「まだその名で呼ぶか、セブン。
 我は黒転王。
 やがてこの世界を支配する者だ。
 瀕死の状態のお前を我が拾い上げた。
 この水槽は白転王のユニークスキル『完全蘇生術』を模して作った魔道具。
 だが実験結果は白翼の女神には程遠い。
 完全蘇生どころか単なる治癒でさえ何日もかかった上に急速に老化が進む。
 瀕死のお前で実験したが治癒の為に老化が進み子供が成人の女に変化した。」

 黒転王はどこか悔しそうな表情を見せた。

「神父様、助けてくれてありがとう。」

 セブンが弱々しい声で言った。

「ふっ、別にお前を助けた訳ではない。
 単なる実験台に使っただけの事。」

 そう答える黒転王へ不思議そうな顔でセブンが答える。

「違う。
 僕ではなく、
 姫を助けてくれてありがとうって言ったんだよ。」

「それもお前を茶転王の『ソウルイーター』を模した魔道具の実験へ利用しただけの事。
 我は十字架の銃が数発しか撃てない事を知っていた。
 つまりはお前が死ぬ事を知っていて送り出したのだ。
 どうだ。幻滅したか。」

 そう言うと黒転王は意地悪く微笑んだ。

「それでも姫を助けられた事が嬉しいんですっ。
 神父様が来てくれなかったら、
 姫を助ける事ができなかったと思います。」

 セブンは首を振って否定した。
 黒転王は少し驚き手を顎に当てて考え込んだ後に意外な提案をした。

「お前、我の女にならないか。
 何不自由ない暮らしをさせてやるぞ。」

 セブンは微笑んで首を振る。

「僕は姫を愛しています。
 姫以外を愛する事はありません。」

「たとえそれが実らない恋だとしてもか?」

 静かにセブンは頷いた。

「性別を越えた実らない恋か……面白い。
 我の命令を拒んだ奴はお前が初めてだ。
 ……では、賭けをしよう。
 我がお前を黒国の暗黒騎士として蘇らせてやる。
 お前は自由にその力を使い愛する姫を守るがよい。
 だがその強大な力を使う度にお前のその白い肌は黒く蝕まれていく。
 全身が暗黒に包まれた時お前は我の女となり我を一生愛し続けるのだ。
 どうだっ、我の物になりたくなければ力を使用しなければよい。
 お前に損はない賭けだろう?」

 黒転王はセブンの姫への愛を試すように言った。

「姫を助けられるなら喜んでっ。
 僕はその為だけに生きている。」

 セブンは黒転王の目を真っすぐに見つめて言った。

「契約成立だ。」

 黒転王が王座から立ち上がり叫ぶとセブンの周りに暗黒の魔法陣が現れた。
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