上 下
23 / 44

23話 王

しおりを挟む
 両腕を後ろ手に縛られでかい黒猫の引く馬車のようなものに乗せられる。
街で見たやつよりはずいぶん目つきが悪い。

「なんだ猫車は初めてか。お前の国には猫はいないのか?」
「いるけどこんなんじゃない。」
「どういうことだ?」
「ペットとか飼い猫っていう。こう両手で持ち上げられるくらいのサイズ感なんだ」
「ああ纏い猫の類か?」
「なにを言ってるか分からん」
「こう首や手に巻き付ける猫のことだろう?」
「いやそうじゃない。毛皮とかじゃなくて一緒に住むみたいな」
「コック猫か掃除猫か?便利だよな。うちの使用人猫が懐かしいな。」
「文化がすごい違う、全然伝わらん」
「なんだ両方違うのか。なにをさせる目的で一緒に住んでるんだ?
書類整備か?雑用か奴隷か?ははーん性欲処理か?」
「もうヤダ、それも違う!!」
「なんだ貴様乙女の恥じらいみたいだな。」


そんなやりとりをしているうちにファースさんと仲良くなった。
気がする。

そして城門にたどり着いた。
跳ね橋が下りてくる。
歴戦の獣人勇者のような銅像の並ぶ敷地を抜ける。
衛兵のいる大広間を抜け階段をのぼる。

大きな扉が見える。

「この門の先に王がいる。お前の態度次第で行く末が決まるぞ。」

本気で睨まれる。
「わかった。」


「一等獣士ファース。帰還しました。」
扉が開く。
「転移者を連れて参りました」

豪華な椅子に座った人物の前に両膝をつかされる。


「ズージー。ご苦労だった。下がってよい。」
ファースさんが下がり扉を閉める。





真ん中で大きな椅子に座る人物が厳かな声で言う。

「我は百獣の王 シバ。
この国ズージェリアの王である。
転移者だな。この国になにをしに来た。戦争か」


やはりこいつが王か。王なのか。
そりゃそうだよな。
あんな豪華な椅子に座って、フルーツの盛り合わせみたいなの持ってるし。
名前もシバか。
百獣の王ってこいつ。
だって。
だって。
だってこいつ柴犬じゃん!
やばい、笑いをこらえるのに必死で声が出ない。


「ほう、言葉が出ぬか。かしこまらんでもよい。こちらを向け」

くそ、いっそ笑顔で。笑顔で接すれば。

「ズージー。俺は赤羽てゅす」
あかんちょっと声裏返った。

「で、おぬしどこからきた?元の国の名を答えよ」

「日本 東京というところからここにきますた」
だめだ堪えるんだ。

「ほーん。なるほどな。日本。
うちの4獣士のうちのひとりが転生者でな。
日本からきたと申しておったぞ。
どれちょっと待っとれ。」

王は胸元からスマホを取り出す。
慣れた手つきでタッチパネルを操作する。

「もしもし、わしわし。転移者な、日本からきたってゆっとる。
おうおうはいはいーー」

いやスマホ使えるのか異世界。

しばらくするとその転生者が入ってきた。
うなぎ頭の男だ。
「ズージー。王よ。失礼する。
お、平均的な日本人顔だな。高校生くらいか?」

「はい、高2です」


「おう、そうか。赤羽君スマホ持ってる?
この国内なら普通に電話だけ使えるから電話番号教えてくれよ。
はいOKっと。
ほんで何年からきた?2020年?過去かよw
まー過去か。地球終わってるもんな。
俺は2035年第四次世界大戦で地球半分崩壊して。
で、死んで。気づいたらこっちに転生してたってわけ。
死んだ瞬間のことはあんま思い出せないな。
2020年っつーとあれか。オリンピック中止とか新型ウイルス。あータピオカ?第三次の始まり当たりだっけ。
フルーツ牛乳?芸能人連続殺人?あとはーあれか。大統領暗殺とか関東大地震とか?」

「あ、後半はたぶんまだです。タピオカまでです。」
凄い未来を知ってしまった。
「あっちゃーまだそこかーw
まあまあうちの国寛容だから見てってよ。住んでもいいし。転移者スキルもあるでしょ?
我が軍に入れば仕事もあるよ。
戦争しに来た感じじゃないし。」


「そうですか。俺まだこっち来たばっかで。
この国のこと、この世界のこと、教えてください。」

「あーね。結構あれだよな。
この国で生まれ育ったわけじゃないからあれなのよな。OKOK。
じゃあ実話っぽいこの世界物語あるからこの紙芝居をみろ。」


うなぎ男は配下に持ってこさせた絵本をめくる。


『昔々あるところに魔王がおった。
魔王は強く世界を滅ぼそうとした。
そこへ賢者が現れた。
賢者は転生術を用いて6人の勇者を召喚した。
剣の勇者 ひとぞく
魔法の勇者 えるふぞく
獣の勇者 じゅうじんぞく
盾の勇者 どわーふぞく
竜の勇者 りゅうぞく
鬼の勇者 おにぞく
賢者よ勇者たちは力を合わせ魔王を封印した。
やがてそれぞれが王になり子を生んだ。
賢者は封印の礎である魔石を6つに分け、それぞれの種族に与えた。
魔石は鍵。
魔王を許すとき、6つの力を合わせ封印を解きなさい。
やがて賢者は死んだ。
再びこの世に転生するよう願って。』


「はい。とまあこんな感じでーす。
で、獣の勇者がこの王様。OK?」

「え、何年か前の話なんですか」

「いや、10数年前といったところじゃな」

「ほんで俺が賢者。
賢者も6つに分かれてな。
それぞれの国で転生してるはず。
まだ生まれてるかも分からんけど。
王が暴走したら殺すためな。」

そんな本人の目の前で。

「ほんでお前どうするよ?
お勉強してく?
ほんで最初にお前が行った国な。
たぶん、ロベレドゥイだわ。ロべのバンドだろそれ?
寒かったろ?あそこ基本冬だから。夏でも寒いし。
で、あそこ戦争に転移者使うから。
安いのよコストが。
たたかえる年齢のやつさらってくるだけだし」


「ここでしばらくお世話になってもいいですか。
俺の固有スキル、この世界とあっちの世界をつなぐものなんです。
もしかしたら過去も変えられるかもしれない。」

「ほーなかなかのチートっぷりだな。」

「それは世界を滅ぼす力にもなりうるな。
お主に悪意は見えんが、強い力をもつ転移者転生者は短命じゃ。
常に命を狙われるほどの強力なスキルだと思え。
油断すれば簡単に奪われるぞ。」

「王よ。この者の教育、私めに預からせて下さい」

「そのつもりで呼んだんじゃ」

「あと門で騒いでるバカどももどうか」

「迎え入れてやれ。警備兵のよい迷惑じゃ」


そしてクロック、バン、カティも迎え入れられた。

ファースさんは「これからこいつを毎日見ることになるのか」とクロックをみてげんなりしていた。 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

精霊世界の執行者

ryuu
ファンタジー
神樹と呼ばれる木によって世界は人口を増やしていっていた。 精霊に加護を受けて、精霊からの力を受けてすべての物体は『精霊回路』を持ち、精霊の力を与えることで起動する。さらにこの世界に人種は『女(メシア)』と呼ばれる性別しか存在せず、子孫繁栄に苦労するそんな世界だった。 世界は決して平和ではなかった。日々、争いごとが手間なく起こり、中には自らの我欲で世界を支配する軍団が多く存在していた。  その軍団を討伐するべくある組織は動いていたが正義の組織にも人力不足や力のなさが出てきてしまいついには壊滅状態まで追い込まれてしまう。  だが、その軍団に吉報が入った。  神樹によって生み出された新たな人の誕生で世界に光が満ちた。  その人物は『男(アンメシア)』であった。  世界にただ一人の男として生まれたキリュー・グレイシアとゆかいな仲間たちが世界を平和に導く物語が今始まる。  

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

楽しい転生

ぱにこ
ファンタジー
大往生で亡くなった主人公。次の転生先は……あれ?これ前世でプレイした乙女向けRPGゲームじゃない? しかも、私……悪役令嬢!! 回想にしか登場しない悪役令嬢に転生したルイーズ。いずれ召喚される巫女様(ヒロイン)が恋愛せず、帰還EDを迎えると、この世界の終焉になることに気付きました。世界の行く末を巫女様の恋心に委ねるのは、あまりにも危うい。これは、どのEDを迎えても良いよう攻略対象者を強化せねばいけませんね。 目指すは邪神討伐! 前世の知識をフル稼働し対策を練るも、まだ少女……儘なりません。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

転生したら倉庫キャラ♀でした。

ともQ
ファンタジー
最高に楽しいオフ会をしよう。 ゲーム内いつものギルドメンバーとの会話中、そんな僕の一言からオフ会の開催が決定された。 どうしても気になってしまうのは中の人、出会う相手は男性?女性? ドキドキしながら迎えたオフ会の当日、そのささやかな夢は未曾有の大天災、隕石の落下により地球が消滅したため無念にも中止となる。 死んで目を覚ますと、僕はMMORPG "オンリー・テイル" の世界に転生していた。   「なんでメインキャラじゃなくて倉庫キャラなの?!」 鍛え上げたキャラクターとは《性別すらも正反対》完全な初期状態からのスタート。 加えて、オンリー・テイルでは不人気と名高い《ユニーク職》、パーティーには完全不向き最凶最悪ジョブ《触術師》であった。 ギルドメンバーも転生していることを祈り、倉庫に貯めまくったレアアイテムとお金、最強ゲーム知識をフルバーストしこの世界を旅することを決意する。 道中、同じプレイヤーの猫耳魔法少女を仲間に入れて冒険ライフ、その旅路はのちに《英雄の軌跡》と称される。 今、オフ会のリベンジを果たすため "オンリー・テイル" の攻略が始まった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...