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第二章 「魔法少女は報われない」
第七十四話 「小さな反抗」
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人の気配の全く無くなった、無駄に広くてがらんとしたロビー。
併設されている階段とかエスカレーターとかから、誰か降りてこないかなと期待はするが、全くそんな雰囲気もない。
イソギンチャクがぶつかった衝撃により、スチール製のフレームがひしゃげ、滅茶苦茶に破壊されたガラス扉。
粉々に砕けたガラスの破片や、バラバラになったパンフレットや、何かのイベントの案内などの紙冊子が、大理石っぽい床のあちらこちらに散乱している。
どうでもいいが、これって本物の大理石なのか? 高級建材じゃねぇか。公共の施設だろ? いったい、いくらかかってるんだ?
――それはともかくとして、明らかにおかしい。
過疎化が進んだ片田舎のランニングコストなんて考えないで、とりあえず助成金がガッポリ貰えるみたいだから作っちゃおーみたいな、血税の「け」の字も配慮されないで作られた利用者の少ない箱ものホールならともかく……。
そんな金があるなら俺に配れ、いやよこせ、ソシャゲでガチャまくりでガッツリ日本経済を回してやるぜ! と言いたく……いやだから、それは今はいい。
現実逃避して一人ノリ突っ込みをしている状況ではない。つまり、都心のド真ん中の大きなホールにも関わらず、人の気配がなさすぎる。
何となくだが、誰も助けにこない気がする。つまり国家権力には期待できない。
そして、異能は複数同時に発動できない。
でもって、魔法少女は体内までは強化できない。
以上の検証結果から、とりあえず変身を解除する。体内から食い破られて死ぬなんてイヤだからね。
追い詰められたにしては、周りもよく見えてるし論理的思考だろ? ダテに経験値積んでないだろ? つまり、おっさんしてないだろ?
「あら、どういう了見かしら? もう、諦めたの?」
変身を解いた俺を見て、オカマ野郎が微妙なシナを作りながら、残念そうに声をあげる。
うん。こっちも残念だよ。非常に。望みは捨てたわけではないけど。
それで、全身串刺しで動けないように磔か? ダルマにされて生コン漬けで東京湾か? それとも、永久に毒ガス地獄とか冷凍保存か? 死んだり生き返ったりを繰り返しか?
いや、何かそれって、むしろ死んだ方が良いんじゃ……不死身でも体内から食い破られることはあるよね…痛いだけで死ねない? やっぱり無理せず死んじゃおっかな…もいっかい変身……あ、スマホ、どっかいっちゃった……現実的にもう少し考えるべきだった……って言うか、よく考えたら今の状態って相手の為すがままじゃん。
はい、詰みましたー。うわーん。ママー!
「結衣さんっ!」
突然、自分の名前を呼ぶ声に現実に引き戻される。
声の主は、もちろん俺のママではない。いや、もういっそのことママになって欲しい。授乳して欲しいまである。もうダメだ……おしまいだっ!
「離してっ!」
死んだ魚のようになった目線を眼下へやると、そこには、刃物を突き付けられながらも必死に身を捩って抵抗する美少女の姿。
自分自身の危険だってあるだろうに、こんな変態のオッサンの俺のために、ただ純粋にその華奢な体で小さな手を伸ばし……。
「ちょっ! 大人しくしなさい!」
振り上げられるオカマの太い腕。
次の瞬間――――乾いた音がロビーに響く。オカマといっても男の腕力だ。そのまま、叩きつけられるように固く冷たい床へと倒れこむ佑奈。
頭の中でブチっと何かが切れる音。
「っざけんな! てめぇ! 佑奈っ!!」
丁寧な言葉遣いなんてもうやめだっ!
一瞬カッとなって腕を引くが、魔法少女に変身した状態の力でも切れないような触手に、縛りプレイ並みに四肢を拘束されている上に宙刷りでは為すすべもない。
「このっ離せ!」
何もできない自分が情けなくて、悔しくて仕方ないのに、どうにもならなくて、無駄と思いながらも、その言葉を放った次の瞬間、絡みつくイソギンチャクの触手から力がスッと抜ける。
そして落下――そのまま、今度は俺が床へと叩きつけられる。ぐはぁ!?
って…なるほど…そうか使役の異能が発動したか? これ、人間以外にも有効なんだ……すっげぇ何気に俺って強くない?
「…イソギンチャク! あいつを拘束しろっ!」
そうと分かれば速攻あるのみ。百万ボルトだ! ……いや、それはできないだろうが。
俺の指示に従い、すぐさま触手を伸ばすイソギンチャク。
「くっ!? 何なのよ? あんた、いったい何者よ?」
しかしオカマ野郎も、もう一匹のイソギンチャクを操り攻撃を防ぐ。ここまでくると怪獣大乱闘だ。
激しく絡み合う触手と触手。はっきり言って見ていてあまり気持ちの良いものではない。
だが、これで、あとはあのオカマ野郎を何とかすれば……でも、使役中は不死身の異能効果が無くなる? ってことは俺も何気にヤバくない? 文字通り諸刃の剣だ。
オカマ野郎は、無駄に腕力ありそうだし、刃物持ってるし…取っ組み合えば負ける。まてよ、この隙に使役を解除して即行で変身してオカマ野郎を一瞬で無力化…ってスマホどこだ。
「まさか抵抗するとはね。油断したわぁ」
だが、すでに再び刃物を突き付けられた佑奈が人質にとられていた。
まぁ…そうですよね。向こうだって必死ですよね……ちっ行動が早いな。これで、振り出しだ。どうする?
――落ち着け。もう一度冷静になれ。状況を整理しろ。
某テニスプレイヤーの名言には従わない。いま熱くなったら、それこそおしまいだ。ヒートアップした頭を冷やして考える。まずは深呼吸。ヒ、ヒ、フー。ラマーズ最高。グッジョブ。
「結衣さん。私のことはいいから、早く変身してっ!」
「ちょっ! 余計なこと言うんじゃないわよっ!」
あー、今できないんだよね。使役中だし、スマホもないし。でも、オカマ野郎は、かなり焦っている? 異能は同時発動ができないという条件を知らない? もしかして、これってレア知識なの?
とにかく、また佑奈が殴られるのは見たくないし、刃物で傷つけられるなんてのは避けたい。だから、まずはこちらに注意をひかなくては。
それなら――。
「それで? オカマ野郎。あんたの要求は?」
だから虚勢を張って、オカマ野郎の注意をこちらに引くために、敢えて挑発的に問いかける。
「――――オ、カマ野郎……?」
と、顔を引きつらせながら、低い声で復唱するオカマ野郎。
オカマにオカマと言って何が悪い。
「要求? そうねぇ……依頼主からはアナタを壊せって言われてるわ」
ナニソレ…。おかあさーん。助けてー。
そして、いつの間には俺の使役するイソギンチャクは取り押さえられ、さらに別のイソギンチャクのウネウネと気持ち悪く動く触手が近づいてくる。
な・ん・だ・と……指示コマンドを入れなかったからか? 自動戦闘してくれるタイプじゃないのか? ってイソギンチャク何匹いるんだよ?
「頭がおかしくなるくらい、イジメてあげるわ。うふふ」
口元をニヤリとさせ、オカマ野郎は不敵に笑う。
イソギンチャクの触手は、近くでよく見ると、一本一本が成人男性の腕くらいの太さがあり、毒々しいピンク色をしている。
これ、そのまま突っ込まれたりしないよなぁ……太すぎるだろ。普通に裂けるぞ。しかも、表面もヌメヌメしていてなんか気持ち悪い……。
「ふふ、顔色が悪いわよ。自分が何をされるのか、わかったのかしらぁん」
いや。何となく予想はついているけど、やっぱりそっち系ですか。そうなりますよねー。物理的に壊されるのは……やっぱ、ちょっと簡便だな。
だって、これ絶対痛いよね。そのままだと、ほとんど全体的にスラッシュしちゃうよね。間違いなくフルスラッシュだよね。ダメ、絶対。
大体、そんなことして誰が得するんだ。俺が何か悪いことしたっていうのか? ……まぁ確かに不可抗力で何人か殺しちゃったかもだけど。でも、そっちが初めに手を出してきたんだろ!?
くっ、ヤバい、なんか本気で泣きそうなんだけど。涙腺がウルウルしてきた。歳のせいか? おじいちゃんか? そこまで老けたか?
「こ、壊すって、そんなこと誰が?」
「あら、可愛い。泣いちゃったの? イジメがいがあるわぁ」
いや、泣いてなんか。あれ、おかしいな目から水が……涙がでちゃう、だって今はおじいちゃんじゃなくて女の子だもん。
泣きながら時間稼ぎで放った俺のあまり意味のない質問を無視するかのように、オカマ野郎はサッとその太い腕を振る。
次の瞬間、大量の触手が全方向から一斉に襲い掛かり、あっという間に視界は触手で埋め尽くされる。
「こ、怖わっ! ちょ…ちょちょっと待って!」
防衛本能から、瞬間的に使役の能力を強く念じて解除する。
迫力がありすぎる! キモい! 怖い! 色んな意味で色々漏れるっ!
おい! 服を引っ張るな! そんなに引っ張ったら破れる! いっ…痛いって! あぁ破れた、くそっ弁償しろ! 今月、もうカネないんだぞっ!
併設されている階段とかエスカレーターとかから、誰か降りてこないかなと期待はするが、全くそんな雰囲気もない。
イソギンチャクがぶつかった衝撃により、スチール製のフレームがひしゃげ、滅茶苦茶に破壊されたガラス扉。
粉々に砕けたガラスの破片や、バラバラになったパンフレットや、何かのイベントの案内などの紙冊子が、大理石っぽい床のあちらこちらに散乱している。
どうでもいいが、これって本物の大理石なのか? 高級建材じゃねぇか。公共の施設だろ? いったい、いくらかかってるんだ?
――それはともかくとして、明らかにおかしい。
過疎化が進んだ片田舎のランニングコストなんて考えないで、とりあえず助成金がガッポリ貰えるみたいだから作っちゃおーみたいな、血税の「け」の字も配慮されないで作られた利用者の少ない箱ものホールならともかく……。
そんな金があるなら俺に配れ、いやよこせ、ソシャゲでガチャまくりでガッツリ日本経済を回してやるぜ! と言いたく……いやだから、それは今はいい。
現実逃避して一人ノリ突っ込みをしている状況ではない。つまり、都心のド真ん中の大きなホールにも関わらず、人の気配がなさすぎる。
何となくだが、誰も助けにこない気がする。つまり国家権力には期待できない。
そして、異能は複数同時に発動できない。
でもって、魔法少女は体内までは強化できない。
以上の検証結果から、とりあえず変身を解除する。体内から食い破られて死ぬなんてイヤだからね。
追い詰められたにしては、周りもよく見えてるし論理的思考だろ? ダテに経験値積んでないだろ? つまり、おっさんしてないだろ?
「あら、どういう了見かしら? もう、諦めたの?」
変身を解いた俺を見て、オカマ野郎が微妙なシナを作りながら、残念そうに声をあげる。
うん。こっちも残念だよ。非常に。望みは捨てたわけではないけど。
それで、全身串刺しで動けないように磔か? ダルマにされて生コン漬けで東京湾か? それとも、永久に毒ガス地獄とか冷凍保存か? 死んだり生き返ったりを繰り返しか?
いや、何かそれって、むしろ死んだ方が良いんじゃ……不死身でも体内から食い破られることはあるよね…痛いだけで死ねない? やっぱり無理せず死んじゃおっかな…もいっかい変身……あ、スマホ、どっかいっちゃった……現実的にもう少し考えるべきだった……って言うか、よく考えたら今の状態って相手の為すがままじゃん。
はい、詰みましたー。うわーん。ママー!
「結衣さんっ!」
突然、自分の名前を呼ぶ声に現実に引き戻される。
声の主は、もちろん俺のママではない。いや、もういっそのことママになって欲しい。授乳して欲しいまである。もうダメだ……おしまいだっ!
「離してっ!」
死んだ魚のようになった目線を眼下へやると、そこには、刃物を突き付けられながらも必死に身を捩って抵抗する美少女の姿。
自分自身の危険だってあるだろうに、こんな変態のオッサンの俺のために、ただ純粋にその華奢な体で小さな手を伸ばし……。
「ちょっ! 大人しくしなさい!」
振り上げられるオカマの太い腕。
次の瞬間――――乾いた音がロビーに響く。オカマといっても男の腕力だ。そのまま、叩きつけられるように固く冷たい床へと倒れこむ佑奈。
頭の中でブチっと何かが切れる音。
「っざけんな! てめぇ! 佑奈っ!!」
丁寧な言葉遣いなんてもうやめだっ!
一瞬カッとなって腕を引くが、魔法少女に変身した状態の力でも切れないような触手に、縛りプレイ並みに四肢を拘束されている上に宙刷りでは為すすべもない。
「このっ離せ!」
何もできない自分が情けなくて、悔しくて仕方ないのに、どうにもならなくて、無駄と思いながらも、その言葉を放った次の瞬間、絡みつくイソギンチャクの触手から力がスッと抜ける。
そして落下――そのまま、今度は俺が床へと叩きつけられる。ぐはぁ!?
って…なるほど…そうか使役の異能が発動したか? これ、人間以外にも有効なんだ……すっげぇ何気に俺って強くない?
「…イソギンチャク! あいつを拘束しろっ!」
そうと分かれば速攻あるのみ。百万ボルトだ! ……いや、それはできないだろうが。
俺の指示に従い、すぐさま触手を伸ばすイソギンチャク。
「くっ!? 何なのよ? あんた、いったい何者よ?」
しかしオカマ野郎も、もう一匹のイソギンチャクを操り攻撃を防ぐ。ここまでくると怪獣大乱闘だ。
激しく絡み合う触手と触手。はっきり言って見ていてあまり気持ちの良いものではない。
だが、これで、あとはあのオカマ野郎を何とかすれば……でも、使役中は不死身の異能効果が無くなる? ってことは俺も何気にヤバくない? 文字通り諸刃の剣だ。
オカマ野郎は、無駄に腕力ありそうだし、刃物持ってるし…取っ組み合えば負ける。まてよ、この隙に使役を解除して即行で変身してオカマ野郎を一瞬で無力化…ってスマホどこだ。
「まさか抵抗するとはね。油断したわぁ」
だが、すでに再び刃物を突き付けられた佑奈が人質にとられていた。
まぁ…そうですよね。向こうだって必死ですよね……ちっ行動が早いな。これで、振り出しだ。どうする?
――落ち着け。もう一度冷静になれ。状況を整理しろ。
某テニスプレイヤーの名言には従わない。いま熱くなったら、それこそおしまいだ。ヒートアップした頭を冷やして考える。まずは深呼吸。ヒ、ヒ、フー。ラマーズ最高。グッジョブ。
「結衣さん。私のことはいいから、早く変身してっ!」
「ちょっ! 余計なこと言うんじゃないわよっ!」
あー、今できないんだよね。使役中だし、スマホもないし。でも、オカマ野郎は、かなり焦っている? 異能は同時発動ができないという条件を知らない? もしかして、これってレア知識なの?
とにかく、また佑奈が殴られるのは見たくないし、刃物で傷つけられるなんてのは避けたい。だから、まずはこちらに注意をひかなくては。
それなら――。
「それで? オカマ野郎。あんたの要求は?」
だから虚勢を張って、オカマ野郎の注意をこちらに引くために、敢えて挑発的に問いかける。
「――――オ、カマ野郎……?」
と、顔を引きつらせながら、低い声で復唱するオカマ野郎。
オカマにオカマと言って何が悪い。
「要求? そうねぇ……依頼主からはアナタを壊せって言われてるわ」
ナニソレ…。おかあさーん。助けてー。
そして、いつの間には俺の使役するイソギンチャクは取り押さえられ、さらに別のイソギンチャクのウネウネと気持ち悪く動く触手が近づいてくる。
な・ん・だ・と……指示コマンドを入れなかったからか? 自動戦闘してくれるタイプじゃないのか? ってイソギンチャク何匹いるんだよ?
「頭がおかしくなるくらい、イジメてあげるわ。うふふ」
口元をニヤリとさせ、オカマ野郎は不敵に笑う。
イソギンチャクの触手は、近くでよく見ると、一本一本が成人男性の腕くらいの太さがあり、毒々しいピンク色をしている。
これ、そのまま突っ込まれたりしないよなぁ……太すぎるだろ。普通に裂けるぞ。しかも、表面もヌメヌメしていてなんか気持ち悪い……。
「ふふ、顔色が悪いわよ。自分が何をされるのか、わかったのかしらぁん」
いや。何となく予想はついているけど、やっぱりそっち系ですか。そうなりますよねー。物理的に壊されるのは……やっぱ、ちょっと簡便だな。
だって、これ絶対痛いよね。そのままだと、ほとんど全体的にスラッシュしちゃうよね。間違いなくフルスラッシュだよね。ダメ、絶対。
大体、そんなことして誰が得するんだ。俺が何か悪いことしたっていうのか? ……まぁ確かに不可抗力で何人か殺しちゃったかもだけど。でも、そっちが初めに手を出してきたんだろ!?
くっ、ヤバい、なんか本気で泣きそうなんだけど。涙腺がウルウルしてきた。歳のせいか? おじいちゃんか? そこまで老けたか?
「こ、壊すって、そんなこと誰が?」
「あら、可愛い。泣いちゃったの? イジメがいがあるわぁ」
いや、泣いてなんか。あれ、おかしいな目から水が……涙がでちゃう、だって今はおじいちゃんじゃなくて女の子だもん。
泣きながら時間稼ぎで放った俺のあまり意味のない質問を無視するかのように、オカマ野郎はサッとその太い腕を振る。
次の瞬間、大量の触手が全方向から一斉に襲い掛かり、あっという間に視界は触手で埋め尽くされる。
「こ、怖わっ! ちょ…ちょちょっと待って!」
防衛本能から、瞬間的に使役の能力を強く念じて解除する。
迫力がありすぎる! キモい! 怖い! 色んな意味で色々漏れるっ!
おい! 服を引っ張るな! そんなに引っ張ったら破れる! いっ…痛いって! あぁ破れた、くそっ弁償しろ! 今月、もうカネないんだぞっ!
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