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プロローグ 「自助努力には限界があります」
第四話 「憧れのステーキ肉」
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そして俺は、何故かチャラ男達の乗ってきた車に同乗していた。というか、保護される形で半分無理やり乗せられていた。
実際、気持ちもかなりへこんでたし、俺の顔色もきっと相当悪かったんだろう。
躊躇いがちに、「具合が悪いの?」とか聞いてきたから正直に、「お腹が空いて……」と、応えたら奴ら一瞬の沈黙の後、大爆笑しやがった。
俺にとっては全然笑えない話なんだがな。
心の中で舌打ちをしながらも怖かったので黙っていたら、「じゃあ、美味しいご飯食べに行こうよ」とか言われて、あれよあれよと言われるがままに車に乗せられてしまったのだ。
いい歳のオヤジになって拉致られるとか、あり得ないでしょ…まあ、今の俺は外見は未成年の美少女なんだが。
もちろん打算もある。
昨日の夜から今朝まで、さっきのチョコレートしか食べていなかったし、何かを食べていれば空腹感とは関係なく、割と死なないかもしれないからな。
食べても空腹感は満たされないかもしれないが、食べるという行為自体は、それを抜きにしても大事という事だ。
生活費も残り二千円しかないし、ここはこのチャラ男達に気持ちよく美味いものをゴチになるとしよう。
いやー可愛い女って、こう考えるとホントお得だよね。
なんてことを腹黒く目論んでいると、
「君、名前はなんていうの?」と、さっき最初に声をかけてきた助手席の男が聞いてくる。
「え、えっと、朝比奈です」
「下の名前は?」
「ゆー、結衣です」
突然の振りで思わず素で応えちゃったよ。こういう時、コミュ障の人間って弱いよな。声裏返って気持ち悪くなってなかったかな。
しっかし、あっぶねぇ。思わず下の名前、本名を言いそうになったよ。さすがにこの容姿で、雄介はないだろう。まあ、咄嗟に出てきたのが、俺のお気に入りのAV女優の名前だったていうのは何だが。
「へー、結衣ちゃんっていうんだ。可愛いね。俺の名前は悠翔。宜しくねー」
「あ、ちなみに俺は、浩太だ」
運転席の男も、話の流れで自己紹介をしてくる。
下の名前で自己紹介するとか、やっぱりこの二人ってチャラいよね。
「結衣ちゃん。何か食べたいものある?」
「え…えーっと。ステーキとか?」
回答内容に、無意識についいつもの志向が出た。ちなみに、美味い肉が喰いたいのは心からの本音だ。だって、コンビニの弁当肉ばっかりじゃ飽きるよね。
だが、いきなりステーキ肉を喰いたがる女って、正直どうなんだろう?
さすがにマズったかなと冷や汗を掻いていると、運転席の浩太が、
「へー、肉食だねぇ。俺も肉好きだから、美味い店知ってるよ。そこ行ってみる?」と、興味深そうに訊いてくる。
「あ、はい。お願いします」
何となくバツが悪くて、か細い声なってしまう。
しかし、初対面なのにステーキまで喰わせてもらえるとは、可愛い女は本当に至れり尽くせりだな。
空腹感は相変わらず半端ないが、会話をしていると少しだけ気が紛れるのも正直助かる。
それにしても、久方ぶりにレア肉が味わえる。いやー心が躍るなぁ。
大きなショッピングモール内のステーキ屋につくと、ちょうど昼時だったらしく店は結構な数の客で賑わっていた。
その繁盛ぶりは順番待ちができるくらいで、待っている間も肉の焼けるいい匂いがして、思わず涎が出そうになる。
おおっと、いかんいかん。見かけだけではあるが、淑女たるもの、そのような事では愛想をつかされるな。本性がバレてバックレられる前に、ここのステーキ肉だけはしっかりとご馳走してもらわねば。
という事で、男二人に先に大事な事案を伝えておく。
「あのー、私、お金持ってきてなくて…」
「ん? ああ、いいよ。奢るから、気にしないでー」
「そうそう。俺らが無理に連れてきたんだから」
よし! 無料で肉ゲットだ。本当にチョロイ男達だなー。
この店って、確か最近話題になってて、某、肉の祭典とかでもグランプリとってるんだよな。だから肉の品質は抜群だし、値段もそこそこ高かったはずだ。
前からずっと行ってみたいとは思っていたが、生活保護の俺には中々手が出なかったんだよなぁ。
そうこうしている内に順番が来て、そろそろ店内に案内される頃になってから、チャラ男達が何やら言い合いを始める。
「俺、ずっと運転してたんだから、結衣ちゃんの隣、いいだろ?」
「おい何言ってんだよ、ジャンケンに決まってんだろ?」
おいおい。俺は早く肉が喰いたいんだ。この期に及んで仲間割れは止めてくれ。別に誰の隣だっていいじゃないか。このままだと、後ろの奴に抜かされるぞ。
その後もしばらく言い合いは続いて、ついに係りの店員に声をかけられたので、俺は仕方なくその店員にある提案をする。
「あのー、そこの、二人掛けのカウンター席、座れますか?」
「え、あ。はい、でも三名様ですよね」
「あ、そこに三人で座るんで」
テーブル席だから問題なのだ。それならカウンター席にすればいい。その俺の提案を聞いたチャラ男二人は、驚きの表情をしていた。
ふふ、そうだろう。まさかそんな提案をするとは思ってもみなかっただろう。
ここのカウンター席は、カップル用の二人掛けだが、ゆったりしたサイズなので詰めれば三人で座れないことはないのだ。
俺はそのまま颯爽と、案内係りの店員についていく。するとチャラ男二人も、ようやく状況を理解したらしく俺の後に続いた。
「それじゃあ、私、真ん中座りますんで」
チャラ男二人は標準体型だし、以前の小太り体形の俺なら間違いなく座れなかっただろうが、今のスリム体形の俺なら二人の間に座ることも可能だ。
「いいの? 結衣ちゃん」
「ええっと、それじゃあ、お言葉に甘えて…」
男二人は遠慮がちにも、俺を挟んで両隣に座る。元々二人掛けなので、さすがに詰めて座っても体が密着する形にはなるが、別にそれでどうということはない。
男三人ならこの状況はムサ苦しいだけだが、今の俺は女だからな。
――うん? 何か理論がおかしい気もするが、まぁ良いか。とりあえず今は肉を喰うのが先決だ。
しかし、自分の体が小さく華奢になったからかもしれないが、男の体って硬くてゴツゴツしてるんだな。
そう、俺は美味い肉喰いたさに、この異常な心理状態に、この時はまだ気が付いていなかったのだ。普通の状況の俺なら不快になるはずなのに、あまりそういう気持ちにならなかった事に。
つまり、それは体だけではなく、俺の心にまで変調の兆しが出始めていた事を意味するという事に。
実際、気持ちもかなりへこんでたし、俺の顔色もきっと相当悪かったんだろう。
躊躇いがちに、「具合が悪いの?」とか聞いてきたから正直に、「お腹が空いて……」と、応えたら奴ら一瞬の沈黙の後、大爆笑しやがった。
俺にとっては全然笑えない話なんだがな。
心の中で舌打ちをしながらも怖かったので黙っていたら、「じゃあ、美味しいご飯食べに行こうよ」とか言われて、あれよあれよと言われるがままに車に乗せられてしまったのだ。
いい歳のオヤジになって拉致られるとか、あり得ないでしょ…まあ、今の俺は外見は未成年の美少女なんだが。
もちろん打算もある。
昨日の夜から今朝まで、さっきのチョコレートしか食べていなかったし、何かを食べていれば空腹感とは関係なく、割と死なないかもしれないからな。
食べても空腹感は満たされないかもしれないが、食べるという行為自体は、それを抜きにしても大事という事だ。
生活費も残り二千円しかないし、ここはこのチャラ男達に気持ちよく美味いものをゴチになるとしよう。
いやー可愛い女って、こう考えるとホントお得だよね。
なんてことを腹黒く目論んでいると、
「君、名前はなんていうの?」と、さっき最初に声をかけてきた助手席の男が聞いてくる。
「え、えっと、朝比奈です」
「下の名前は?」
「ゆー、結衣です」
突然の振りで思わず素で応えちゃったよ。こういう時、コミュ障の人間って弱いよな。声裏返って気持ち悪くなってなかったかな。
しっかし、あっぶねぇ。思わず下の名前、本名を言いそうになったよ。さすがにこの容姿で、雄介はないだろう。まあ、咄嗟に出てきたのが、俺のお気に入りのAV女優の名前だったていうのは何だが。
「へー、結衣ちゃんっていうんだ。可愛いね。俺の名前は悠翔。宜しくねー」
「あ、ちなみに俺は、浩太だ」
運転席の男も、話の流れで自己紹介をしてくる。
下の名前で自己紹介するとか、やっぱりこの二人ってチャラいよね。
「結衣ちゃん。何か食べたいものある?」
「え…えーっと。ステーキとか?」
回答内容に、無意識についいつもの志向が出た。ちなみに、美味い肉が喰いたいのは心からの本音だ。だって、コンビニの弁当肉ばっかりじゃ飽きるよね。
だが、いきなりステーキ肉を喰いたがる女って、正直どうなんだろう?
さすがにマズったかなと冷や汗を掻いていると、運転席の浩太が、
「へー、肉食だねぇ。俺も肉好きだから、美味い店知ってるよ。そこ行ってみる?」と、興味深そうに訊いてくる。
「あ、はい。お願いします」
何となくバツが悪くて、か細い声なってしまう。
しかし、初対面なのにステーキまで喰わせてもらえるとは、可愛い女は本当に至れり尽くせりだな。
空腹感は相変わらず半端ないが、会話をしていると少しだけ気が紛れるのも正直助かる。
それにしても、久方ぶりにレア肉が味わえる。いやー心が躍るなぁ。
大きなショッピングモール内のステーキ屋につくと、ちょうど昼時だったらしく店は結構な数の客で賑わっていた。
その繁盛ぶりは順番待ちができるくらいで、待っている間も肉の焼けるいい匂いがして、思わず涎が出そうになる。
おおっと、いかんいかん。見かけだけではあるが、淑女たるもの、そのような事では愛想をつかされるな。本性がバレてバックレられる前に、ここのステーキ肉だけはしっかりとご馳走してもらわねば。
という事で、男二人に先に大事な事案を伝えておく。
「あのー、私、お金持ってきてなくて…」
「ん? ああ、いいよ。奢るから、気にしないでー」
「そうそう。俺らが無理に連れてきたんだから」
よし! 無料で肉ゲットだ。本当にチョロイ男達だなー。
この店って、確か最近話題になってて、某、肉の祭典とかでもグランプリとってるんだよな。だから肉の品質は抜群だし、値段もそこそこ高かったはずだ。
前からずっと行ってみたいとは思っていたが、生活保護の俺には中々手が出なかったんだよなぁ。
そうこうしている内に順番が来て、そろそろ店内に案内される頃になってから、チャラ男達が何やら言い合いを始める。
「俺、ずっと運転してたんだから、結衣ちゃんの隣、いいだろ?」
「おい何言ってんだよ、ジャンケンに決まってんだろ?」
おいおい。俺は早く肉が喰いたいんだ。この期に及んで仲間割れは止めてくれ。別に誰の隣だっていいじゃないか。このままだと、後ろの奴に抜かされるぞ。
その後もしばらく言い合いは続いて、ついに係りの店員に声をかけられたので、俺は仕方なくその店員にある提案をする。
「あのー、そこの、二人掛けのカウンター席、座れますか?」
「え、あ。はい、でも三名様ですよね」
「あ、そこに三人で座るんで」
テーブル席だから問題なのだ。それならカウンター席にすればいい。その俺の提案を聞いたチャラ男二人は、驚きの表情をしていた。
ふふ、そうだろう。まさかそんな提案をするとは思ってもみなかっただろう。
ここのカウンター席は、カップル用の二人掛けだが、ゆったりしたサイズなので詰めれば三人で座れないことはないのだ。
俺はそのまま颯爽と、案内係りの店員についていく。するとチャラ男二人も、ようやく状況を理解したらしく俺の後に続いた。
「それじゃあ、私、真ん中座りますんで」
チャラ男二人は標準体型だし、以前の小太り体形の俺なら間違いなく座れなかっただろうが、今のスリム体形の俺なら二人の間に座ることも可能だ。
「いいの? 結衣ちゃん」
「ええっと、それじゃあ、お言葉に甘えて…」
男二人は遠慮がちにも、俺を挟んで両隣に座る。元々二人掛けなので、さすがに詰めて座っても体が密着する形にはなるが、別にそれでどうということはない。
男三人ならこの状況はムサ苦しいだけだが、今の俺は女だからな。
――うん? 何か理論がおかしい気もするが、まぁ良いか。とりあえず今は肉を喰うのが先決だ。
しかし、自分の体が小さく華奢になったからかもしれないが、男の体って硬くてゴツゴツしてるんだな。
そう、俺は美味い肉喰いたさに、この異常な心理状態に、この時はまだ気が付いていなかったのだ。普通の状況の俺なら不快になるはずなのに、あまりそういう気持ちにならなかった事に。
つまり、それは体だけではなく、俺の心にまで変調の兆しが出始めていた事を意味するという事に。
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