良識のある異世界生活を

Hochschuler

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学園

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海水浴から数日間、俺は家で伸びている体たらくだったのだが、それを見かねた執事から、王太子様、そろそろ周りをあっと言わせるような功績でも作ったらどうですかと言われたので俺は今までの力の誇示でも十分だと寝ぼけ眼で返すが、いえいえ、それだけではまだ疑念を持っている方々もおられますと言う言葉が存外に返ってきてそのあまりの言われように熱り立った俺はその勢いのまま魔窟へ来ていた。

そりゃあだって、俺だって今まで頑張ってきたのだからお頭の固い貴族の方々も少しは俺の労力を認めてくれていると思っていたのだから。

ところで、魔窟の前にいる俺の隣にはケインさんがいて、この人は護衛兼証人である。
何の証人かというと、それはもちろん俺の功績の。

そりゃあ、功績を自分で広げようものなら社交の場であざ笑われてしまうのだから。

そして目の前のゴブリンどもを蹴散らした俺は、おかしいな、ゴブリンはこんな浅層にはいないはずだと思いながらも先に進む。

少し気になってケインさんの方を向くと、意味ありげな笑みを浮かべていた。





そして深層に辿り着くわけだが、何故かそこには一体のモンスターもいなかった。
あるのは不気味な静寂のみである。

コツコツと靴音だけが響く、剥き出しの岩壁に囲まれた魔窟は黒滔々としており、俺が魔法で灯す炎が俺たち二人の影を揺らす。

その中を俺とケインさんは突き進むと、終にひらけた場所に出た。
そこには一つの人影のようなものがあった。

なぁ、あれは迷子か。
万が一にもそう思ってない俺は、一応確認のためケインさんに尋ねる。

「さぁ、わかりません」
ケインさんはあっけらかんと答える。

俺はため息を吐いてその人影に近づく。

「ん? 」

すると人影がこちらの気配に気づいた。

「おぉ? おお! 人間ではないか! しかも二匹とも高純度なマナを備えておる! ちょうどいい! 私の糧となれ! 」

「王太子様、あれは悪魔の上位互換、魔族でございましょう」
ケインさんがそういう。

確かに頭にはツノが生えている。
だが、一本であることからそこまで位は高くないのであろう。

するとその魔族は右手を大きく振りかぶり、そのまま勢いよく下の方に向けた。
その瞬間、俺たちの周りだけ重力が高まる。

俺は即座に同じ重力魔法で反作用を起こし、それを相殺する。

「むむむ? これは結構厄介な人間を引いてしまったか? なら仕方ない。あれを使おう」

そう言った魔族は同じように右手を振り上げると今度はぶつぶつと呪文を唱え始めた。

そして魔族の背後には圧倒されるほどの魔法陣が浮き上がった。

そして魔族があげた手を振り下げた瞬間――

――辺りが真っ暗になった。

なるほど、魔界現出魔法か。話には聞いたことがある。なんでもその魔族に有利な状況を持つ魔界を対象範囲に作ってしまう魔法だとか。

俺は初めて見るそれに圧巻を覚えたが、魔族の攻撃がしょぼいので一気に興味が失せた。

「な、なぜだ! 何故暗闇なのに私の攻撃を防げる! 」
そう言いつつも魔族は俺への攻撃をやめない。
だが、その攻撃は全部俺の剣で一刀両断されていた。

ああ、飽きた。……そういえばさっきの魔法は人間にも使えるのだろうか。
俺はさっき見た魔法陣を細部まで思い出し、魔術式のエッセンスを再構成してオリジナルの魔法陣を作り出す。

“生命の原初たる春よ、その生命の泉の甘露を私に注ぎたまえ、異界現出魔法、ビギニング・オブ・ビーイング”

その瞬間、辺りは青々とした丘陸に変わった。
奥には高く聳える山が見え、風があたりを吹き曝す。

魔族はそこで呆然と立っていた。

すると、何やら苦しみ、うめき始めた。

そしてぼこぼこと体が膨らむと、終には破裂してしまった。

この魔法の効果はこうである。
自分と同等以上の魔力を持たないものは、生命の誘いにより自分の存在が保てなくなり、消えて無くなる。

俺はその術の効果範囲や効能をわかっていたから何とも思わなかったが、ケインさんが隣で引いていた。
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