良識のある異世界生活を

Hochschuler

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学園

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はぁ、全く、と呟いたシャーロットのその溜息は、勿論俺たちに向けられたものだ。俺だって俺の脳にため息を吐いてやりたい。或いは叱責してやりたい。何故かって?この脳は、それこそ数学、国語などの思考力が問われるものなら嬉々として取り組むのだが、歴史などの暗記科目になると途端に口を噤むのだ。然し、外国語は何やら得意らしい。そりゃそうか。俺は前世で文系だったのだから語学系には秀でていなくちゃならないのだから。然もこの脳は数学の定理一つをとっても「咲いたコスモス、コスモス咲いた」などと覚えようとせず、証明しようとするのだから。しかし、そんな深謀遠慮な真理など文系脳には土台無理な話で、全知全能なるシャーロットさんにその仕組みを聞いてもあざと可愛い女子のように「はにゃ?」と言って首を傾げるだけなのだから。ああ、ただ若しこれを読んでいる女子の中で俺のあまりの男らしさに惚れてしまってあざと可愛く擦り寄って籠絡しようとする者がいるのだとしたらやめておいた方がいい。何故か。そりゃあ、俺は男女平等主義者であり、むかついた奴の脳天は須く木っ端微塵にするからである。
そんな、俺からのありがたい忠告は置いておいて、ところでマイケルの進捗はと言うと、実は俺より駄目だったりする。もうこいつはすでに勉強に嫌悪を抱いているようだ。数学の教科書とノートが開かれた机は一瞥もせず、唯只管に天を仰ぎ、青天井に漂う雲雲に妄想をあてがっている。シャーロットが一つ苦言を述べると唯唯諾々と問題を解くふりをするが、数分後にはまた空を仰いでいて阿諛追従の嫌いこそあれ、有名無実な外発的行為のみと懇ろにしている。
「二人ともやる気はあるのかしら」
ああ、もちろんだ。精神は意気軒昂に臨んでいるのだが然し――それを刻みつける身体の方の準備がまだ整っていないようだ。
「どうすればそれは整うのよ」
さぁ?
「さぁ?、じゃないわよ。私はあんたら2人のためにわざわざ時間を削ってやってんのよ」
それは――すまない。
「はぁ、そう思ってるんならもっと――いいわ、今回のテストには実技もあったわよね。実戦形式だとか。それから対策しましょう」
刹那、マイケルの目が意気揚々と輝いた。
「おし!だったらまずは組み手からだな!」
そう言い切ると、鼻息荒く俺たちを交互に見渡す。
「だめよ。あんたはこの中で一番勉強の方が危ういんだからとりあえず数学のテスト範囲を全部分かってからにしなさい」
「おいおいそりゃない――」
刹那、シャーロットの睥睨を受けておずおずと引き下がったマイケルは肩を縮こまらせた。
「じゃ、行きましょう?」
あ、ああ。
俺とシャーロットは席を立つとひらけた平野に出た。
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