良識のある異世界生活を

Hochschuler

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学園

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目を覚ますとそこは病院だった。窓を見ると晴天である。俺はベッドから出ると、病室を闊歩し、何も興を唆るものがないと知ると、俄かに扉を開いてみた。するとそこには――
シャーロットがいた。
「お、おはよう」
ああ、おはよう。
「もう怪我の方は大丈夫なのかしら?」
ああ、大分な。
「そう……」
俺は一つ椅子を出してそこに座るように促す。シャーロットがそこに座ったのを確認すると、ベッドに入った。
俺のいない間に何かあったか?
「何も、ただ、ガイルとケインさんは突如現れた老人にボコボコにされたわ」
そうか、お前自身には?
「私?私は……」
ほら、お前、今日はぎこちないだろ。それに最近は俺を避けるし。だからなんでか気になってな。
「……そう、気づかれていたのね」
まあな。
「……あんたは何も思っていないわけ?」
ん?いや、そりゃ、シャーロットがそんな状態じゃ――
「私のことじゃなくってあなた自身のことよ!」
急に声を荒げたシャーロットに俺は呆然とする。
「その様子、絶対気づいてないわね……もういい。帰る」
お、おい!待て!
俺はシャーロットの腕を掴んで引き留める。
「離して!!」
いやだ!
「嫌じゃないでしょ!どうせ私のことなんか何にも思ってないくせに!」
何にも思っていない!?ふざけるな!俺がどれだけ心配して――
「だったらそれを証明してよ!」
俺はシャーロットの意味不明な言動に言い返そうと口を開きかけるが、彼女の涙に塗れたぐちゃぐちゃの顔を見て絶句した。
お、おい、なんだってそんなに泣いて――
その瞬間、彼女は胸に飛び込んできた。俺の胸の中で慟哭する。それに対して俺は抱きしめることしかできなかった。

泣き止まぬ彼女の慟哭を聞いた看護師などが何事かと集まるが、ナイスタイミングで来たマイケルが一瞬で状況を察知し、俺の病室に入れないようにしている。いつのまにか彼女の慟哭は止み、えずきながらこう語り始めた。
「アルには好きな人ができたこと、ある?」
好きな人?そりゃあもちろん、お前だって好きだし、マイケルだって好きだし……
「そういう意味じゃなくって、恋をしたことある?」
恋、か。俺は恋がきらいなんだ。第一、恋なんて誰にでもできるじゃないか。一回しか会ってない人、顔しかよくない人……俺はそこに特別感を感じないんだ。
「じゃあ例えば今まで長らく一緒にいて、一緒に遊んで、一緒に喋って……そんな人に恋をしたらどうかな?」
それはもはや恋とは言わないさ。相手のことを知って、それでも好きだと言うのなら、それは愛って言うんだ。
「愛……」
そうだ。だから俺はシャーロットを愛しているし、マイケルを愛しているし……
「その、私を愛しているっていうのは異性として?」
……異性として、か。そんなことは考えたことがなかった。そりゃそうだろ?俺たちの出会いは一王族と一公爵家だったんだから。そこに異性云々などは存在せず、あるのは品評だけだ。
「じゃ、じゃあ、どうしたらアルは私を異性として認識してくれるの?」
ん?おい、それはどう言う――
「いいから答えて」
異性として意識、異性として意識か……例えば俺が、こう、どきっとでもすればあるかもしれないな。
「へぇ、つまりドキッとさせて欲しいと」
おい、曲解がすぎるぞ。
「ふふふ、まあいいわ」
シャーロットは俺の腕から離れる。
「私としては今のあんたの状況はとてつもなく悔しい。なんか私だけが踊っているように思えるから。ただ、だけど、あんたがそう言うならそうしてみるわ。そうね、だから今回私があんたに抱かれながら泣いたことは忘れなさい?今日からあんたと私の物語が始まるのだから」
シャーロットはそう言って振り向くと、無邪気な笑みを見せた。その笑みに俺は脈打ち、魅惑的なものを感じたのだった。
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