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死者と語りたかった者の末路③

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 □□□

「お姉ちゃん……」
「こんばんは。今日はゆうなとちょっと夜遊びしない?」
「でも……」

 応対した座敷童こけしは以前の配信で見せた姿のままの印象をした少女だった。そんな少女は怯えた様子で後ろを見つめる。廊下の向こう、リビングからはこちらも以前と同じように幽幻ゆうなや座敷童こけし達を笑顔で見つめていた。

 しかし、フィルターがかかりアニメ調だった前回とは打って代わり、その様子は視聴者の恐怖をあおるものだった。

 部屋の明かりが点いておらず、光源はおそらくテレビからの映像のみ。それも真っ赤な、おそらくは宵闇よいちの放送だろう、光だったため、家族一同もまた赤く染まって照らされていた。しかし、それを踏まえても彼らは薄暗かった。まるで彼ら自身もおぼろけで、闇を纏っているかのように。

 ジャパニーズホラームービーの一幕だ、と視聴者の誰かがコメントした。それに多くの視聴者が同意する。姿形は人であるのに人ではない。そんな不気味な佇みに彼らは恐怖したのだ。

「お父さんもお母さんも、夜遅いから家から出るな、って……」
「こけしちゃんはもうここに帰っちゃ駄目だよ」
「え……?」

 座敷童こけしが真意を問いただそうとした時だった。幽幻ゆうなは銃の形を作った手の指先に発光する何かを集め、それを発砲したのだ。霊◯、と宣言された彼女の攻撃は、直後に母親らしき大人の女性の眉間に当たり、その体を大きくのけぞらせた。

 続けざまに幽幻ゆうなは発砲し、大人の男性や幼い子供も同じように額に穴を開けて大きくのけぞる。しかし、その身体は倒れず、眉間に穴を開けたまま姿勢を正したではないか。顔には笑みを張り付かせたままで。

「交通事故で亡くなったのは弟くん、だったよね?」
「う、うん……」
「弟くんがいなくなっちゃってからお母さん、変わっちゃったんだよね」
「うん……」
「習い事から帰ってきたら家族みんなああなっちゃってた、だよね?」
「……うん」

 大まかな経緯は宵闇よいちが明かしたとおりだった。愛する子供を失った座敷童こけし母は、マンション内の奥様方の間で密かに流行っていた新興宗教に傾倒していった。そして、交霊術を行おうと儀式を行い、マンション全体を巻き込む異変を発生させた。

 家族の中で座敷童こけしだけがその時マンションにいなかった。普通に帰宅して、亡くなったはずの弟がいて、家族全員が当然のように団らんをしていた。そして、その日常の一幕に彼女も取り込まれてしまったのだった。

 おぉぉぉ……。
 そんな喉を絞ったような声が否応なしに耳に入ってくる。

 座敷童こけしの家族達は直後、駆け出した。いや、それを走ると表現出来るものだったろうか? まるで獣、まるでアニメや漫画に出る異型の怪物、まるで怪奇映画の化物、そんな人としてありえない動きで急速に幽幻ゆうな達へと迫る。

「家族、っていう名称の怨霊の集合体、レギオン。それがこけしちゃんに取り憑いた怪奇の正体よ!」

 そんな怪奇達に、幽幻ゆうなは手から雷撃を放って怯ませ、玄関扉を急いで閉めたのだった。

 ■■■

 昔々、ある村に「赤い糸」と呼ばれる怪奇な伝承があった。その村では、赤い糸で結ばれた二人の者は、生まれ変わっても繋がれたままになると言われていた。

 ある日、村に新しく引っ越してきた田中健太郎(仮名)は村の美しい姫君、梅(仮名)と恋に落ち、二人は赤い糸で結ばれた仲となった。しかし、梅の父親は彼女を想う心に応えず、梅を異国の国へ嫁がせることに決めた。

 悲嘆にくれる田中は、ある老婆から助言を受けた。

「梅を救うためには、赤い糸を切るしかない」

 老婆に導かれ、田中は夜中に梅の寝室へ忍び込み、赤い糸を断った。

 翌朝、村人たちは梅の部屋で起こった悲劇に驚いた。梅は消え去り、跡には赤い糸だけが残されていた。田中は失踪し、村人たちは彼を呪いの力で梅と共に神隠しにあわせたのだと信じるようになった。

 それからというもの、村には赤い糸にまつわる不気味な話が伝えられ、赤い糸を持つ者たちは呪われた存在として避けられるようになった。田中と梅の伝説は、村の人々にとって忌まわしい出来事として語り継がれ、誰もが赤い糸を持つことを恐れるようになったのだった。

 現在でも、その村には赤い糸伝説の影響が残り、特に恋愛に関する慎重さが求められている。田中と梅の物語は、愛と運命の不可解さを示すものとして、今もなお村人たちの心に深く刻まれている。
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