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栄光は次へと受け継がれる①
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◇◇◇
女子バレーボール日本代表チームの監督である宮本琴菜は大いに悩んでいた。
原因はここ最近で勃発している、女子バレーボール選手を襲う怪奇についてだ。
選手達がチーム単位で夜が明けると謎の怪死を遂げている。病気や事故の類ではなく、まさに祟りだの呪いだのと言うしかなかった。そして、その怪奇にはある方向性があったことに気付いたのは、セミプロリーグの強豪チームが犠牲になってからだ。
「チームのレベルが上がってきている、か」
いずれはセミプロリーグの王者、更には日本代表チームまでが犠牲になりかねない。呪いの主がよほどバレーボールに恨みを持っているのかは知らないが、現時点で満足しているとは到底思えなかった。
藁にもすがる思いで先日神社でお祓いを受けたのだが、神主が途中で泡を吹いて気絶してしまい、その後は恐怖で打ち震える始末。かろうじて聞き出したところ、恐ろしく強力な怨霊に呪われている、とのことだった。何の役にもたちはしなかった。
選手、そして監督を始めとするスタッフ一同、バレーボールは生涯をかけて取り組む競技だ。しかし、命には代えられない。全員を引退させてバレーボールから完全に手を引かせる以外助かる道はない。そんな苦渋の決断すら頭によぎっていた。
「監督、ここにいましたか」
「……谷田か。部屋に入ってくる時はノックしな」
日本代表チームのエースヒッターである谷田愛里沙が監督室に入ってくる。一つしか付けていなかった照明を全部オンにし、項垂れる宮本にタブレットを提示した。宮本は訝しげに眉をひそめながらタブレットを受け取り、画面に視線を移す。
「何だい、これは?」
「それなりに有名なVdolの配信動画です」
「あー、若い連中の間で流行ってるんだったか。興味無いね」
「別にVdolを勧めてるんじゃなくて、その動画を見てください」
「んー? 何々、何だか昔テレビで流行ってたジャンルじゃないか」
「タイトルとか大映しされてるVdolとかは無視してください。監督に見てもらいたいのはその奥です」
老眼な宮本はメガネを外して動画を再生、注視する。配信内容はアニメ調三次元モデルのキャラクターが何やら胡散臭い怪談だかオカルトだかの話を延々と話す、彼女にとってクソが付くほどつまらないものだった。
Vdolとやらは体育館らしき広い空間の中で配信を行っており、彼女の後ろではどうやらバレーボールの試合が行われていた。その内容は所詮地域単位で楽しくやろう的なクラブチームレベルのものだったが……、
「嘘、でしょう……?」
試合になっていなかった。正しくは、一方のチームが限りなく手を抜いて試合になるように配慮しているのだ。それでも実力の差は如何ともし難く、ストレートでセットを取っての勝利となった。
配信終了まであとわずかとなった頃、Vdolの幽幻ゆうなが勝利したチームの選手、七尺二寸と雑談を交わし始める。終始おっとりとした会話がはずみ、やがて配信は終了となった。後ろで勝利チーム選手は片付けを、敗退チーム選手はどこかに消えて。
宮本は口を手で押さえて震え上がる。勝利チームの異質さではなく、その隠された実力に感づいたからでもなく、他でもない。勝利チームの正体に心当たりが……いや、確信があったからだ。
「彼女達は……?」
「とある高級高層マンションのママさんバレーボールチーム、だそうです。その驚きよう、やっぱりわたしの勘違いじゃなかったんですね……」
「わたしがこの人達を見間違えるわけないでしょう……!」
七尺二寸、そして勝利チームの正体が予想通りなら、現在女子バレーボール会を襲う怪奇の真相も分かってくるというもの。なるほど、確かに神社のお祓い程度で済む問題ではなかった。
「練習は中止だ。これから緊急ミーティングを開く。それから今日の深夜の予定は必ず開けておくよう前もってチーム内全員に伝えるんだ」
「早いですね。今日決着を付けるつもりですか」
「当然だ。これ以上犠牲者が出たんじゃあ女子バレーボールの競技人口が見る見るうちに減っていくじゃないか。それに……」
「それに?」
これ以上あの人達を失望させたくない。
宮本はそう答えて部屋を後にする。その顔からは不安や恐れは消えており、覚悟が決まって引き締まっていた。
女子バレーボール日本代表チームの監督である宮本琴菜は大いに悩んでいた。
原因はここ最近で勃発している、女子バレーボール選手を襲う怪奇についてだ。
選手達がチーム単位で夜が明けると謎の怪死を遂げている。病気や事故の類ではなく、まさに祟りだの呪いだのと言うしかなかった。そして、その怪奇にはある方向性があったことに気付いたのは、セミプロリーグの強豪チームが犠牲になってからだ。
「チームのレベルが上がってきている、か」
いずれはセミプロリーグの王者、更には日本代表チームまでが犠牲になりかねない。呪いの主がよほどバレーボールに恨みを持っているのかは知らないが、現時点で満足しているとは到底思えなかった。
藁にもすがる思いで先日神社でお祓いを受けたのだが、神主が途中で泡を吹いて気絶してしまい、その後は恐怖で打ち震える始末。かろうじて聞き出したところ、恐ろしく強力な怨霊に呪われている、とのことだった。何の役にもたちはしなかった。
選手、そして監督を始めとするスタッフ一同、バレーボールは生涯をかけて取り組む競技だ。しかし、命には代えられない。全員を引退させてバレーボールから完全に手を引かせる以外助かる道はない。そんな苦渋の決断すら頭によぎっていた。
「監督、ここにいましたか」
「……谷田か。部屋に入ってくる時はノックしな」
日本代表チームのエースヒッターである谷田愛里沙が監督室に入ってくる。一つしか付けていなかった照明を全部オンにし、項垂れる宮本にタブレットを提示した。宮本は訝しげに眉をひそめながらタブレットを受け取り、画面に視線を移す。
「何だい、これは?」
「それなりに有名なVdolの配信動画です」
「あー、若い連中の間で流行ってるんだったか。興味無いね」
「別にVdolを勧めてるんじゃなくて、その動画を見てください」
「んー? 何々、何だか昔テレビで流行ってたジャンルじゃないか」
「タイトルとか大映しされてるVdolとかは無視してください。監督に見てもらいたいのはその奥です」
老眼な宮本はメガネを外して動画を再生、注視する。配信内容はアニメ調三次元モデルのキャラクターが何やら胡散臭い怪談だかオカルトだかの話を延々と話す、彼女にとってクソが付くほどつまらないものだった。
Vdolとやらは体育館らしき広い空間の中で配信を行っており、彼女の後ろではどうやらバレーボールの試合が行われていた。その内容は所詮地域単位で楽しくやろう的なクラブチームレベルのものだったが……、
「嘘、でしょう……?」
試合になっていなかった。正しくは、一方のチームが限りなく手を抜いて試合になるように配慮しているのだ。それでも実力の差は如何ともし難く、ストレートでセットを取っての勝利となった。
配信終了まであとわずかとなった頃、Vdolの幽幻ゆうなが勝利したチームの選手、七尺二寸と雑談を交わし始める。終始おっとりとした会話がはずみ、やがて配信は終了となった。後ろで勝利チーム選手は片付けを、敗退チーム選手はどこかに消えて。
宮本は口を手で押さえて震え上がる。勝利チームの異質さではなく、その隠された実力に感づいたからでもなく、他でもない。勝利チームの正体に心当たりが……いや、確信があったからだ。
「彼女達は……?」
「とある高級高層マンションのママさんバレーボールチーム、だそうです。その驚きよう、やっぱりわたしの勘違いじゃなかったんですね……」
「わたしがこの人達を見間違えるわけないでしょう……!」
七尺二寸、そして勝利チームの正体が予想通りなら、現在女子バレーボール会を襲う怪奇の真相も分かってくるというもの。なるほど、確かに神社のお祓い程度で済む問題ではなかった。
「練習は中止だ。これから緊急ミーティングを開く。それから今日の深夜の予定は必ず開けておくよう前もってチーム内全員に伝えるんだ」
「早いですね。今日決着を付けるつもりですか」
「当然だ。これ以上犠牲者が出たんじゃあ女子バレーボールの競技人口が見る見るうちに減っていくじゃないか。それに……」
「それに?」
これ以上あの人達を失望させたくない。
宮本はそう答えて部屋を後にする。その顔からは不安や恐れは消えており、覚悟が決まって引き締まっていた。
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