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死しても働く廃工場(後)
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◇◇◇
「アブダクティの諸君、ごきげんよう。宵闇よいちだ」
宵闇よいちはマンション内最上階の自宅にあるサブ管理室から配信を開始した。彼女の後ろにあるモニターにはマンション各所に設置してある監視カメラの映像が映し出されていて、霊界を行き来するエレベーターの中にいる幽幻ゆうなの姿もあった。
「さて、私は基本的に私のマンションに取り憑いた怪奇の調査を配信外で行ってきた。そりゃあそうだろう、プライベートの範疇になるからね。けれど冥道めいや幽幻ゆうなのせいでそうもいかなくなった。今日は残された怪奇のうち、工場階の調査に取り組もうと思う」
すると宵闇よいちはパソコンを操作し、最上階の廊下をメインモニターに映し出す。そこではここ最近ホテルで見るような自律走行型ロボットが、ディスプレイに笑顔を映しながらエレベーターホールへ向かっていた。
そしてエレベーターを待つこと少しの間、ロボットはやってきたエレベーターに乗り込んだ。すると行き先ボタンが自然に点灯し、時間をおかずに扉も閉まる。籠もロボットと共に動き出した。
■■■
ある町に、最新鋭の自動化工場が建設された。その工場は、人手をほとんど必要とせず、機械が全てを行う最新の技術を駆使したものだった。周囲の住民は、新しい工場がもたらす発展に期待を寄せていた。
しかし、工場が稼働し始めてから数ヶ月後、夜間に不気味な出来事が起こり始めた。近隣住民たちが、工場から奇妙な音や光が漏れていると不安そうに話すようになった。特に、深夜になると工場内から聞こえる機械音が、通りを歩く人々の背筋を凍りつかせるほどのものだったという。
ある日、工場の警備員が、異常を感じて夜間巡回に出かけた。工場の外観は異常なく、セキュリティシステムも正常に作動しているように見えた。しかし、警備員が一度も見たことのない場所に不審な光が見えた。
光の元を探っていくと、工場内の奥深くにある廃棄物処理エリアで、何かが光っているのが見えた。警備員が近づいてみると、そこには人間のような形をした、しかし透明な存在が立っていた。
恐怖に震える警備員は、慌てて工場管理者に連絡を取ったが、管理者もその現象については説明できなかった。その後も、工場内での異常な出来事は続き、工場周辺の住民たちは不安と恐怖にさいなまれた。
さらに、工場からは失踪者が相次いでいるとの噂も立ち始めた。失踪者たちは、工場内で何かを見たり聞いたりした後に行方不明になったという。警察も捜査を行ったが、失踪者の行方はいまだにわからないままだった。
工場は周囲から忌み嫌われる存在となり、ついには閉鎖されてしまった。しかし、夜になると工場からは未だに不気味な光や音が漏れているという。その工場が何を隠しているのか、その謎は今も解き明かされることはないままだ。
◇◇◇
「最近のロボットは高性能でね。エレベーターともシステムを連携出来るから、ボタンを押さずとも操作出来るわけだ。それでいてラジコンのようにいちいちこちらから操作しなくても、マッピングされたエリアを自動で移動する優れものさ」
ちなみに宵闇よいちは大家権限により全階層に行き来できる。宵闇よいちが制御する掃除、配膳、警備の役目を担う作業用ロボットも同様だ。テレビ放送や新聞配布などで安全が確認できた階層を次に調査させたりもしていた、と彼女は語る。
ロボットからの映像を配信のメイン画面に切り替え、到着した工場階らしき場所に進ませる。そこは幽幻ゆうながつい先ほど目の当たりにした様子とは異なり、町工場が道沿いにスラリと並んでいるようだった。
「ミミック階、と幽幻ゆうなが呼んでいた偽物の階の厄介な点は、電波は届くところなんだよね。だからこうしてロボットの映像もこっちに送られてくるし。それに、たまに監視カメラの映像も偽ってくるからたまったもんじゃない。ローカルのテレビ放送をしてたのはそれが理由さ」
稼働する町工場の従業員達は明らかに人ではなかった。そして影や幽霊の類、すなわち怪奇でもなかった。あえて言うなら、人の形をある程度模した機械の人形、だろうか。それでいて脚や腕の数が違ったり、眼の位置が明らかに異なっていたりと、グロテスクと評する他無い形をしていた。
ミミック階だな、と早々に判断した宵闇よいちはロボットに帰還命令を出すが、時すでに遅し。町工場から次々と機械の人獣が出てきて、ロボットを取り囲んでいく。そして無数の手で掴まれたロボットはそのまま町工場へと引きずり込まれていく。
「しまったな。グロ注意と注意書きしておくんだった。あーあ、これでこのロボットは諦めるしかないな。Vdolとしての活動の収益もこのマンションの設備投資で大半を使い切ってるから、税金対策とでも割り切るか」
配信画面では見せられないよ、とカンペを持ったマスコットを中央に置いたうえで音声を小さくした。この後ロボットを襲った惨状を少しでも緩和するために。一方で宵闇よいちはフィルター無しの映像をそのまま観察する。
バラバラに破壊される、かと思いきや、機械獣達は何やら派遣したロボットに施しているようだった。さながら昔の特撮ドラマで見たような改造手術だな、と感想を抱く。既にロボットは宵闇よいちの操作を受け付けなくなったため、見るしかない。
やがて改造手術が終わったらしきロボットは、他の機械獣と共に作業を開始する。その町工場では何やら部品を作っているようだった。特に面白みもなく、ただ延々と作業の映像が流れるばかりだった。
「なるほど、ロボットは改造されて機械の人獣達の仲間になり、この町工場で永遠に働くことになりましたとさ、か。ま、これも怪奇と言えば怪奇か」
ロボットからの映像を打ち切った宵闇よいちは現時点でのこれ以上の調査は無意味と判断、それからは普通の配信へと移ったのだった。
「アブダクティの諸君、ごきげんよう。宵闇よいちだ」
宵闇よいちはマンション内最上階の自宅にあるサブ管理室から配信を開始した。彼女の後ろにあるモニターにはマンション各所に設置してある監視カメラの映像が映し出されていて、霊界を行き来するエレベーターの中にいる幽幻ゆうなの姿もあった。
「さて、私は基本的に私のマンションに取り憑いた怪奇の調査を配信外で行ってきた。そりゃあそうだろう、プライベートの範疇になるからね。けれど冥道めいや幽幻ゆうなのせいでそうもいかなくなった。今日は残された怪奇のうち、工場階の調査に取り組もうと思う」
すると宵闇よいちはパソコンを操作し、最上階の廊下をメインモニターに映し出す。そこではここ最近ホテルで見るような自律走行型ロボットが、ディスプレイに笑顔を映しながらエレベーターホールへ向かっていた。
そしてエレベーターを待つこと少しの間、ロボットはやってきたエレベーターに乗り込んだ。すると行き先ボタンが自然に点灯し、時間をおかずに扉も閉まる。籠もロボットと共に動き出した。
■■■
ある町に、最新鋭の自動化工場が建設された。その工場は、人手をほとんど必要とせず、機械が全てを行う最新の技術を駆使したものだった。周囲の住民は、新しい工場がもたらす発展に期待を寄せていた。
しかし、工場が稼働し始めてから数ヶ月後、夜間に不気味な出来事が起こり始めた。近隣住民たちが、工場から奇妙な音や光が漏れていると不安そうに話すようになった。特に、深夜になると工場内から聞こえる機械音が、通りを歩く人々の背筋を凍りつかせるほどのものだったという。
ある日、工場の警備員が、異常を感じて夜間巡回に出かけた。工場の外観は異常なく、セキュリティシステムも正常に作動しているように見えた。しかし、警備員が一度も見たことのない場所に不審な光が見えた。
光の元を探っていくと、工場内の奥深くにある廃棄物処理エリアで、何かが光っているのが見えた。警備員が近づいてみると、そこには人間のような形をした、しかし透明な存在が立っていた。
恐怖に震える警備員は、慌てて工場管理者に連絡を取ったが、管理者もその現象については説明できなかった。その後も、工場内での異常な出来事は続き、工場周辺の住民たちは不安と恐怖にさいなまれた。
さらに、工場からは失踪者が相次いでいるとの噂も立ち始めた。失踪者たちは、工場内で何かを見たり聞いたりした後に行方不明になったという。警察も捜査を行ったが、失踪者の行方はいまだにわからないままだった。
工場は周囲から忌み嫌われる存在となり、ついには閉鎖されてしまった。しかし、夜になると工場からは未だに不気味な光や音が漏れているという。その工場が何を隠しているのか、その謎は今も解き明かされることはないままだ。
◇◇◇
「最近のロボットは高性能でね。エレベーターともシステムを連携出来るから、ボタンを押さずとも操作出来るわけだ。それでいてラジコンのようにいちいちこちらから操作しなくても、マッピングされたエリアを自動で移動する優れものさ」
ちなみに宵闇よいちは大家権限により全階層に行き来できる。宵闇よいちが制御する掃除、配膳、警備の役目を担う作業用ロボットも同様だ。テレビ放送や新聞配布などで安全が確認できた階層を次に調査させたりもしていた、と彼女は語る。
ロボットからの映像を配信のメイン画面に切り替え、到着した工場階らしき場所に進ませる。そこは幽幻ゆうながつい先ほど目の当たりにした様子とは異なり、町工場が道沿いにスラリと並んでいるようだった。
「ミミック階、と幽幻ゆうなが呼んでいた偽物の階の厄介な点は、電波は届くところなんだよね。だからこうしてロボットの映像もこっちに送られてくるし。それに、たまに監視カメラの映像も偽ってくるからたまったもんじゃない。ローカルのテレビ放送をしてたのはそれが理由さ」
稼働する町工場の従業員達は明らかに人ではなかった。そして影や幽霊の類、すなわち怪奇でもなかった。あえて言うなら、人の形をある程度模した機械の人形、だろうか。それでいて脚や腕の数が違ったり、眼の位置が明らかに異なっていたりと、グロテスクと評する他無い形をしていた。
ミミック階だな、と早々に判断した宵闇よいちはロボットに帰還命令を出すが、時すでに遅し。町工場から次々と機械の人獣が出てきて、ロボットを取り囲んでいく。そして無数の手で掴まれたロボットはそのまま町工場へと引きずり込まれていく。
「しまったな。グロ注意と注意書きしておくんだった。あーあ、これでこのロボットは諦めるしかないな。Vdolとしての活動の収益もこのマンションの設備投資で大半を使い切ってるから、税金対策とでも割り切るか」
配信画面では見せられないよ、とカンペを持ったマスコットを中央に置いたうえで音声を小さくした。この後ロボットを襲った惨状を少しでも緩和するために。一方で宵闇よいちはフィルター無しの映像をそのまま観察する。
バラバラに破壊される、かと思いきや、機械獣達は何やら派遣したロボットに施しているようだった。さながら昔の特撮ドラマで見たような改造手術だな、と感想を抱く。既にロボットは宵闇よいちの操作を受け付けなくなったため、見るしかない。
やがて改造手術が終わったらしきロボットは、他の機械獣と共に作業を開始する。その町工場では何やら部品を作っているようだった。特に面白みもなく、ただ延々と作業の映像が流れるばかりだった。
「なるほど、ロボットは改造されて機械の人獣達の仲間になり、この町工場で永遠に働くことになりましたとさ、か。ま、これも怪奇と言えば怪奇か」
ロボットからの映像を打ち切った宵闇よいちは現時点でのこれ以上の調査は無意味と判断、それからは普通の配信へと移ったのだった。
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