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幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき(前)
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今宵、幽幻ゆうなの生配信待機フロアは閑散としていた。それは二時間ほど前から開始された冥道めいのマンション攻略配信、そして宵闇よいちによるマンションの真相告白に注目が集まり、リスナーが流れてしまったからだ。
それでも幽幻ゆうな生粋のファンは彼女の配信開始を待ち望んだ。彼女の住むマンションが怪奇に晒されていようが、他のUdolやVdolが恐怖と絶望を味わおうが、関係ない。いつものように、推しに癒やされるために、待機するのだ。
「悪鬼彷徨う怪奇の世界からおこんばんは~。幽幻ゆうな、です! 今晩も徘徊者のみんなを霊界に引きずり込んじゃうぞ♪」
そんな徘徊者と呼ばれたリスナー達の希望に答えるように開始された配信だったが、彼らは驚いた。いや、冥道めいや宵闇よいちの配信を見ていた同行者、アブダクティ、その他大勢の誰がこの展開を予想しただろうか。
今、Vdol三人が同じ部屋に集っているのだ。
しかも予定されたコラボではなく、二名のVdolが宵闇よいちの住処を見つけ出して突撃してきたのだ。それも、あの怪奇渦巻くマンションの中をくぐり抜けて。
「というわけで、映してるとおり、今日はVdolの宵闇よいちさんの部屋にお邪魔してるよ。えへへ、なんだか緊張しちゃうよね。だって宵闇よいちさんの部屋、たまにわたしが話してたマンションの最上階だもの! 憧れちゃうよねー」
マンションの怪奇についての重大な話をしている空気をかき消すような感想に、冥道めいは呆れて頭を押さえ、宵闇よいちは不愉快さを隠そうともせずに幽幻ゆうなを睨みつけた。
「幽幻ゆうな、どこから入ってきた?」
「あ、ごめんなさい。インターホン鳴らしたんだけれど音が出なくて。でも玄関でお邪魔しますってちゃんと言ったんだから」
「鍵は閉めたはずだ! 冥道めいが入ってから、すぐに!」
「ん? あー、電子ロック? それ、ゆうなには意味ないから」
激昂して立ち上がった宵闇よいちだったが、次の瞬間幽幻ゆうなが何をやったか、暫くの間理解出来なかった。あえて見たままに語るなら、かざした手のひらから小さな電撃のようなものを発生させた、だろうか。
宵闇よいちが困惑しているうちに幽幻ゆうなはかばんからりんごを取り出し、上へ軽く放り投げた。そして手で拳銃を形作り、指先に電撃を集中させ、往年の少年漫画よろしく「霊◯!」などと宣言して光弾を発砲、りんごを撃ち抜いたのだった。
宵闇よいちは愕然としながらへたり込んだ。
冥道めいは一連の動作の解析に集中した。
リスナー達はもはやアニメを見ているようでついていけなかった。
幽幻ゆうなは粉砕したりんごを慌てて片付ける。
「霊能力、ですか。それも極めて高度な」
「うん、そう。めいさんが全く隠してなかったら、ゆうなもネタバレしようかなーって思って」
「わたくし、ですか?」
「配信でやってた手のひらで色々なセンサーを反応させるの、アレ原理は超科学なんかじゃなくて霊能力でしょ?」
「!?」
「あ、でも霊能力を発生させたのも超科学のおかげなのかな? 分かんないや。とにかくゆうなもそれ真似て玄関の電子キー開けたんだ」
冥道めいは目を見開いた。幽幻ゆうなの指摘が正しかったからだ。まさか見破られるとは想定していなかったし、ましてや幽幻ゆうなが生粋の霊能力者だとは直に会っておきながら見破れなかったのだから、処理能力を超えてエラーを吐きそうだった。
宵闇よいちは今更ながら冥道めいを選んだのは失敗だったと激しく後悔した。ヒューマノイドだのはただの設定に過ぎず、彼女の語る冥界とやらは所詮空想の産物で、本物とは一切結びつかないと思っていたのに。まさかマンションに囚われた自分よりはるかに怪奇寄りの、全く理解できない存在だったなんて――!
「あ、こっちに来る途中でめいさんの配信も見てたよ。えっと、霊界に引きずり込まれたこのマンションをどうにかする方法が二つある、だったっけ?」
「え? あ、はい。そうです」
幽幻ゆうなが彼女達に声をかけた際に発した台詞の元ネタのとおり、彼女はこれまでの話を全て聞いていたようだ。冥道めいは幽幻ゆうなもまた自分と同じように宵闇よいちの説明を聞くものだと思っていたが、次の言葉はその予測を裏切った。
「聞くからにはゆうなを手伝って。よろしく」
「はい?」
配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき。
マンションを取り巻く怪奇、そしてその解決策を。
それでも幽幻ゆうな生粋のファンは彼女の配信開始を待ち望んだ。彼女の住むマンションが怪奇に晒されていようが、他のUdolやVdolが恐怖と絶望を味わおうが、関係ない。いつものように、推しに癒やされるために、待機するのだ。
「悪鬼彷徨う怪奇の世界からおこんばんは~。幽幻ゆうな、です! 今晩も徘徊者のみんなを霊界に引きずり込んじゃうぞ♪」
そんな徘徊者と呼ばれたリスナー達の希望に答えるように開始された配信だったが、彼らは驚いた。いや、冥道めいや宵闇よいちの配信を見ていた同行者、アブダクティ、その他大勢の誰がこの展開を予想しただろうか。
今、Vdol三人が同じ部屋に集っているのだ。
しかも予定されたコラボではなく、二名のVdolが宵闇よいちの住処を見つけ出して突撃してきたのだ。それも、あの怪奇渦巻くマンションの中をくぐり抜けて。
「というわけで、映してるとおり、今日はVdolの宵闇よいちさんの部屋にお邪魔してるよ。えへへ、なんだか緊張しちゃうよね。だって宵闇よいちさんの部屋、たまにわたしが話してたマンションの最上階だもの! 憧れちゃうよねー」
マンションの怪奇についての重大な話をしている空気をかき消すような感想に、冥道めいは呆れて頭を押さえ、宵闇よいちは不愉快さを隠そうともせずに幽幻ゆうなを睨みつけた。
「幽幻ゆうな、どこから入ってきた?」
「あ、ごめんなさい。インターホン鳴らしたんだけれど音が出なくて。でも玄関でお邪魔しますってちゃんと言ったんだから」
「鍵は閉めたはずだ! 冥道めいが入ってから、すぐに!」
「ん? あー、電子ロック? それ、ゆうなには意味ないから」
激昂して立ち上がった宵闇よいちだったが、次の瞬間幽幻ゆうなが何をやったか、暫くの間理解出来なかった。あえて見たままに語るなら、かざした手のひらから小さな電撃のようなものを発生させた、だろうか。
宵闇よいちが困惑しているうちに幽幻ゆうなはかばんからりんごを取り出し、上へ軽く放り投げた。そして手で拳銃を形作り、指先に電撃を集中させ、往年の少年漫画よろしく「霊◯!」などと宣言して光弾を発砲、りんごを撃ち抜いたのだった。
宵闇よいちは愕然としながらへたり込んだ。
冥道めいは一連の動作の解析に集中した。
リスナー達はもはやアニメを見ているようでついていけなかった。
幽幻ゆうなは粉砕したりんごを慌てて片付ける。
「霊能力、ですか。それも極めて高度な」
「うん、そう。めいさんが全く隠してなかったら、ゆうなもネタバレしようかなーって思って」
「わたくし、ですか?」
「配信でやってた手のひらで色々なセンサーを反応させるの、アレ原理は超科学なんかじゃなくて霊能力でしょ?」
「!?」
「あ、でも霊能力を発生させたのも超科学のおかげなのかな? 分かんないや。とにかくゆうなもそれ真似て玄関の電子キー開けたんだ」
冥道めいは目を見開いた。幽幻ゆうなの指摘が正しかったからだ。まさか見破られるとは想定していなかったし、ましてや幽幻ゆうなが生粋の霊能力者だとは直に会っておきながら見破れなかったのだから、処理能力を超えてエラーを吐きそうだった。
宵闇よいちは今更ながら冥道めいを選んだのは失敗だったと激しく後悔した。ヒューマノイドだのはただの設定に過ぎず、彼女の語る冥界とやらは所詮空想の産物で、本物とは一切結びつかないと思っていたのに。まさかマンションに囚われた自分よりはるかに怪奇寄りの、全く理解できない存在だったなんて――!
「あ、こっちに来る途中でめいさんの配信も見てたよ。えっと、霊界に引きずり込まれたこのマンションをどうにかする方法が二つある、だったっけ?」
「え? あ、はい。そうです」
幽幻ゆうなが彼女達に声をかけた際に発した台詞の元ネタのとおり、彼女はこれまでの話を全て聞いていたようだ。冥道めいは幽幻ゆうなもまた自分と同じように宵闇よいちの説明を聞くものだと思っていたが、次の言葉はその予測を裏切った。
「聞くからにはゆうなを手伝って。よろしく」
「はい?」
配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき。
マンションを取り巻く怪奇、そしてその解決策を。
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