配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき

福留しゅん

文字の大きさ
上 下
51 / 72

森と池には何かが潜む(前)

しおりを挟む
 ◇◇◇

「アブダクティの諸君、ごきげんよう。宵闇よいちだ」

 いつもの軽く微笑んだ様子で配信を始めるVdolの宵闇よいち。

 彼女の器であるアニメ風三次元モデルは無論可愛い分類に入るのだが、野暮ったい白衣とその下の着崩した制服が台無しにしている。いわば素材を全く活かしきれていない残念サイエンティスト、が彼女のコンセプトなのだ。

 そんな彼女の主な配信内容は超常現象全般の紹介。超能力や妖精、呪い、未確認飛行物体や地球外生命体まで、ありとあらゆる科学では説明がつかない分野を取り扱う。さながら今なお根強く発行される某ミステリーマガジンのように。

 なお、彼女がリスナーをアブダクティと呼んでいるのは、さながら自分から異星人に誘拐されようとしているようだ、と誰かがコメントしたから。宵闇よいちはくっくと笑いながら即採用に至った。

「おや、どうやらいつもよりアブダクティが多いようだ。これも冥道めいの配信のおかげかな? それともどこぞのネズミ君の配信に映っていたためかもね」

 ニッチ、コア、様々な言い方があるも、彼女の超常現象紹介配信はさほど一般受けしていない。にも関わらず、今回は多くのリスナーが集まっていた。それは彼女本人が言及したように、冥道めいの配信で登場したからだ。

 宵闇よいちが幽幻ゆうなのマンションの関係者だと分かると、宵闇よいちの配信アーカイブの全てが研究された。そこからマンションの怪奇に直結する手がかりは得られなかったが、一つ判明したことがあった。

 怪奇で犠牲になったUdolの蒼空遊星、最後の配信に映っていた少女と宵闇よいちの声紋が一致したのだ。

「諸君はまるで私がネズミ達を怪奇に巻き込む元凶とか仮説を立てているようだけれど、結論から言うと違う。説明は……じきにやってくるゲストを待ってからにしようか。その間はいつものようにアブダクティの諸君が体験した超常現象を紹介しよう」

 当然ながらコメント欄は荒れていたが、宵闇よいちは構う様子もなく原稿を手に取って語り始めた。そしてその内容にリスナーは更に戸惑うことになる。

 ■■■

 ある田舎町に、深い森の中に広がる大きな池があった。その池は古くから「鏡池(かがみいけ)」と呼ばれ、その水は澄みきっていて周囲の景色を美しく映し出すことで知られていた。しかし、鏡池には不気味な伝説が伝わっていた。

 昔々、鏡池のそばには小さな村があり、その村には美しい女性が住んでいた。彼女は村人たちから「白蘭の乙女」と呼ばれ、その美しさと優しさで村人たちに愛されていた。しかし、ある日突然、彼女は姿を消し、その後、鏡池に身を投げて自殺したという。

 以来、鏡池では「白蘭の乙女」の幽霊が現れると言われ、夜になると幽霊が池面に映り込むという目撃談が絶えなかった。ある夜、若いカップルが鏡池の近くを通りかかった時、彼らは池面に映る幽霊の姿を目撃したという。幽霊は白い着物をまとい、悲しげな表情で二人を見つめていたという。

 その後も、鏡池の周辺では幽霊の目撃談が相次ぎ、人々はその池を避けるようになった。しかし、ある夏の夜、若者たちが鏡池で泳いでいると、突然、水面が赤く染まり始めた。若者たちは驚き、水から出ようとしたが、そのうちの一人が突然水中に引きずり込まれたという。

その若者は後に発見されたが、その体には何者かに引っ掻かれたような傷が残されていた。その後、鏡池は更に避けられるようになり、人々はその池には悪霊が宿っていると信じるようになった。そして、その後も鏡池で不可解な事件が相次ぎ、ついにはその周辺を封鎖することになったという。

 今でも、鏡池の周辺では白蘭の乙女の幽霊やその他の怪異が目撃されることがあると言われている。人々はその池を「呪われた池」と呼び、その存在を避けるようになっている。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会 通称、語るな会 「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。 美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話―― 語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか? 語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか? そして語るな会が開催された目的とは……? 表紙イラスト……シルエットメーカーさま

[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる

野花マリオ
ホラー
ーー彼女が語る怪異談を聴いた者は咲かせたり聴かせる 登場する怪異談集 初ノ花怪異談 野花怪異談 野薔薇怪異談 鐘技怪異談 その他 架空上の石山県野花市に住む彼女は怪異談を語る事が趣味である。そんな彼女の語る怪異談は咲かせる。そしてもう1人の鐘技市に住む彼女の怪異談も聴かせる。 完結いたしました。 ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

処理中です...