配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき

福留しゅん

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先進的作品を飾る美術館(前)

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「悪鬼彷徨う怪奇の世界からおこんばんは~。幽幻 ゆうな、です! 今晩も徘徊者のみんなを霊界に引きずり込んじゃうぞ♪」

 今晩もまた幽幻ゆうなの配信が始まった……のだが、いつもとは様子が違った。その理由は行方不明になったUdolの蒼空遊星が公開した最後の生配信にあった。彼が訪れた場所が幽幻ゆうなの住むマンションではないか、と騒がれているのだ。

「あ~! また変な噂が流れてるんだ! ゆうなのマンションはそんな曰く付き物件じゃないって何度も言ってるじゃん! それを証明するためにマンションの施設だって色々と案内してるのに~!」

 頬を膨らませた幽幻ゆうなは配信画面をいつもの二次元絵の背景からリアルタイム変換された三次元モデルのものに切り替え、配信用パソコンの設定を済ませると配信用スマホに自撮り棒を付けて立ち上がった。

「じゃあ今日は予定を変更してゆうながマンションの中にある今までと別の施設を案内するから。それで安全で住みやすい場所だって分かってもらえる筈だから!」

 幽幻ゆうなが移動している間、彼女は並行していつもの怪奇談を始める。

 ■■■

 学芸員の山田悟志(仮名)は美術館の古代エジプト展示室で目を覚ました。

 目の前には黒光りする石棺があり、周りには古代の彫刻や壁画が並んでいた。しかし、彼が気づいたのは展示室が異様に静かだったことだった。通常、美術館は来場者のざわめきやスタッフの声で賑わっているはずだが、この展示室には一切の音がなかった。

 山田悟志は不気味な雰囲気に怯えつつも、展示室を歩き回り始めた。来場者やスタッフの姿は見えず、一人きりの探索に恐怖が芽生えだす。自分の足音だけが広い展示室に響き渡ることがより一層恐怖心を掻き立てた。

 すると、山田悟志が一番奥の壁画に近づくと、そこに描かれた古代の神々が不気味に輝き出した。壁画の中の神々は、まるで生きているかのように動き出し、彼をじっと見つめているようだった。

 山田悟志は恐怖に震えながらも、なぜか神々の視線に引き寄せられるように感じた。そして、そのまま神々が描かれた壁画の中へと引き込まれていった。壁画の中には別世界が広がっており、彼はそこで神々の支配下に置かれることになった。

 数日後、美術館の警備員が展示室で山田悟志の姿を発見したが、彼はもはや生きていなかった。彼の死因は不明だったが、彼の顔には恐怖と絶望が刻まれていた。美術館はその後に展示室を封鎖し、その壁画を誰も見ることがないようにしたという。

 美術館の関係者たちはこの出来事を「壁画の呪い」と呼び、その展示室を忌み嫌っていた。

 しかし、ある日、美術館の壁画コレクションの中に新たな壁画が発見された。その壁画には、死んだはずの山田悟志の姿が描かれていたというのだ。

 □□□

「というわけで美術館に来ましたー」

 幽幻ゆうながやってきた美術館では彫刻や絵画が並んでいた。金持ちが趣味や道楽で集めたコレクションなどという規模ではなかった。広々とした空間にゆとりを持って展示されたそれらは壮大と評価する他無いだろう。

「残念だけどこの美術館は著名な芸術家の作品は無いんだ。現代の作家が作った作品が集められてるらしくてね。でもネットで検索かけてもちっともヒットしないんだよねー、どうしてか」

 幽幻ゆうなが映す映像をヒントにリスナー達も調べる。絵のタッチが誰それに似てる、この彫刻はいつの時代の流行に近い、等様々に語られるが、結局詳細は分からずじまいだった。

 深夜の時間帯なのもあって来場者は幽幻ゆうなだけ。係員すらいない。一応監視カメラで常時監視している、と注意書きが壁に貼られていた。

 そんな中、一つの石像アートが広い部屋の中央に展示されていた。その名も『逃亡者達』。何かから必死になって逃げる姿を鮮明に表現している。恐怖と絶望に彩られた表情は幽幻ゆうなやリスナーにも強烈に伝わった。

「何から逃げてるんだろ? ならこの『逃亡者』だけで作品として完結してるのかな。うーん、現代あーとはゆうなもあまりよく分からないや。あ、もしかして別の作品と関係あるのかな? この部屋の展示物に天変地異とか悪魔を題材にしたような怖い作品みたいなさ」

 その予測をもとに幽幻ゆうなは進路を奥へと進んでいくと、彼女が「それっぽい」と評する作品が確かにあった。それは悪魔とも災害とも違う、異型のクリーチャーを描いたものだった。

「うへえ、これロールプレイングゲームに出てきそうなデザインしてるね。リアル調に描かれると夢に出てきそうだから嫌なんだけどさ」

 こんな感じに幽幻ゆうなの美術館見学は何事もなく終了した。なお、お土産コーナーもあり、ゆうなは気に入った絵のミニマグネットを購入した。例によって無人レジだったので、「万引きし放題だよねー」と彼女が語ったのはご愛嬌だろう。
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