上 下
35 / 72

異次元への扉と化した本(裏)

しおりを挟む
「悪鬼彷徨う怪奇の世界からおこんばんは~。幽幻 ゆうな、です! 今晩も徘徊者のみんなを霊界に引きずり込んじゃうぞ♪」

 今晩もまたいつものように幽幻ゆうなの配信が始まった。そう、いつものように、だ。前回ゲストとして登場した冥道めいの姿はどこにもなかった。確かに次回もコラボが続くとは宣言されていなかったが、リスナーからは指摘が相次いだ。

「冥道めいさんはしばらく調べたいことがあるから別配信するんだって。だからゆうなの配信に参加したのは昨日だけ。あ、もちろんそれはこれっきりってわけじゃなくてまたコラボする約束はしたからね」

 幽幻ゆうなの慌てながらの弁明にリスナーから安心する声が上がる。似通ったジャンルで活動する両方のファンであるリスナーも少なくなく、雑談が賑やかで華やかになるので、定期的に頼むとのリクエストもあがる。

 とはいえ、幽幻ゆうなが深夜にその独特の雰囲気でリスナーから届けられたお便りを読み上げる時間こそが至高、と考えるリスナーもいるのが事実。要するに、何事もほどほどに、といったところだろう。

「それじゃあまず最初は中村菜々子さん(仮名)からの投稿を紹介するよ。地元で伝わる噂話みたい」

 ■■■

 都心から電車で少し離れたある小さな町にある古びた本屋、「一輪書堂」が昔ながらの商店街の外れに佇んでいた。その本屋は何世代にもわたり様々な異変が起こったと言われていた。しかし、その異変とやらの詳細は謎に包まれており、近隣住民は近づかないようになっていた。

 ある日、好奇心旺盛な若者の川上裕貴(仮名)が「一輪書堂」を訪れた。彼は古書やオカルトに興味があり、逆に人々の噂が気になっていた。本屋の中には古びた書籍や奇妙なアイテムが所狭しと並んでおり、裕貴は興奮しながら探索を始めた。

 彼が手に取ったのは「過去改変の書」と呼ばれる一冊の古い本。その本には「過去を変える方法」という謳い文句があり、裕貴は興奮と期待を胸に抱きながら、本に記される指定の時刻まで時間を潰すことにした。

 夜が更け、裕貴は本に書かれた通りに儀式を実行に移した。しかし、その瞬間、本屋全体が不気味な光に包まれ、彼は異次元のような場所に引き込まれてしまったのだった。裕貴は驚きと恐怖に震えながらも、やがてその異世界とも呼べる場所で見たものは彼を深い絶望へと突き落としていくことになった。

 異次元では彼の過去は変貌しており、彼が知る世界とはまるで異なるものになっていた。友人や家族、大切な人々は彼の前から姿を消し、それどころか彼の周りに人はいなかった。裕貴は絶望的な現実を前に、本屋での儀式が彼にもたらした深い後悔と悲嘆に包まれてしまったのだった。

 彼は異次元でさまよい続ける中、本屋に戻る方法を見つけるべく奮闘したものの、何度試みても元の世界に戻ることができなかった。一輪書堂に閉じ込められた裕貴は、他の世界での自分がどれほど苦しんでいるのかを感じることができ、自分の欲望と冒険心が引き起こした悲劇を思い知ることにになった。

 その後、一輪書堂は恐怖の存在として、町の人々から遠ざけられるようになった。裕貴の姿は見かけなくなり、彼が異次元での運命を果たしてしまった後も、一輪書堂の中では彼の苦悩が未だに響き渡っていると言われている。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

トゴウ様

真霜ナオ
ホラー
MyTube(マイチューブ)配信者として伸び悩んでいたユージは、配信仲間と共に都市伝説を試すこととなる。 「トゴウ様」と呼ばれるそれは、とある条件をクリアすれば、どんな願いも叶えてくれるというのだ。 「動画をバズらせたい」という願いを叶えるため、配信仲間と共に廃校を訪れた。 霊的なものは信じないユージだが、そこで仲間の一人が不審死を遂げてしまう。 トゴウ様の呪いを恐れて儀式を中断しようとするも、ルールを破れば全員が呪い殺されてしまうと知る。 誰も予想していなかった、逃れられない恐怖の始まりだった。 「第5回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました! 他サイト様にも投稿しています。

池の主

ツヨシ
ホラー
その日、池に近づくなと言われた。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

迷蔵の符

だんぞう
ホラー
休日の中学校で、かくれんぼをする私とふみちゃん。 ただし普通のかくれんぼではない。見つけてはいけないかくれんぼ。 しかもその日に限って、校舎内にはあふれていた……普通の人には見えないモノたちが。 ルールに従い、そのかくれんぼ……『迷蔵』を続けているうちに、私は見えないモノから目をそらせなくなる。 『迷蔵』とは何なのか、そもそもなぜそんなことを始めたのか、この学校に隠されている秘密とは。 次第に見えるようになってゆく真実の向こうに、私は……。

処理中です...