配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき

亜空間プール（表）

「悪鬼彷徨う怪奇の世界からおこんばんは～。幽幻 ゆうな、です！　今晩も徘徊者のみんなを霊界に引きずり込んじゃうぞ♪」

　今晩もまた幽幻ゆうなの配信が始まった。しかしどうやら今回もいつもの配信と異なり部屋の中ではない様子。と、いうのも幽幻ゆうなはなんと水着姿でプールサイドに立っていたからだ。

　瞬発的には大いに盛り上がったものの、興奮はすぐに沈静化した。何故なら幽幻ゆうなは女性の魅力的な身体が映えるビキニでもワンピースでもなく、レディーズ競泳水着だったからだ。しかも水泳キャップとゴーグルまで被った完全装備である。

「え、大ブーイング！？　何で！？　現役ＪＫの水着を披露してるのにあんまりじゃない！？　いや、まあ、今って海岸とかレジャー施設で遊ぶ季節じゃないし、ゆうなはプール来たら泳ぎたい方だもん」

　幽幻ゆうなが説明するに、現在彼女がいるのはマンション内のスポーツクラブにある２５ｍプール。配信が始まる一時間前から延々と泳ぎ続けていたとのこと。三次元モデルに変換されていても水が滴っているのが分かる。

「それじゃあまずは徘徊者森田琴音さん（仮名）から。「幽幻ゆうなちゃん、おこんばんは」、はい、おこんばんは～。「これは近所の学校での噂話ですけど――」」

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　町の中にある学校のプールは、夏の暑い日になると生徒に開放されるため、多くの子供で賑わっていた。しかし、そのプールには夜になると不気味な出来事が起こるという噂が立ち込めていたのだった。

　ある晩、プールの閉館後、若い男女のグループがプールに忍び込むことを決めた。友達同士で冒険心をくすぐられ、プールサイドに座り込んでいた彼らは、プールの中に広がる静寂に包まれながらも楽しい時間を過ごしていた。

　すると、プールの中央に位置する深いプールエリアから、異音が響き始めた。最初は気にせずにいた彼らだったが、次第にその音はうめき声にも似た不気味なものに変わり、同時にプールの水面が微かに揺れるのが感じられた。

　彼らが興味津々にプールの中央に視線を向けると、そこには突如として浮かび上がる影があった。その影は水しぶきを立てながらプールの深みから現れ、不気味な輝きを放っていた。
　プールサイドに座っていた彼らは一瞬にして身を引き締め、驚愕のまなざしでその光景を見つめた。

　浮かび上がった影はどこか人間のような形をしているように見えたものの、その顔は不明瞭で、まるで幽霊のような透明さを持っていた。プールサイドに座っていた者たちは恐怖に打ち震えながらも、その影が何をするのかを見つめ続けた。

　すると、影は水中から浮かび上がり、プールサイドに近づいてきた。その姿勢はまるで泳ぐようでありながらも、水中に身を沈めることなく、水面上に浮かぶ不可解なものだった。彼らはその影が何者なのか理解できないまま、ただ呆然とその出来事を見つめるしかなかったのだった。

　影がプールサイドに近づくにつれ、彼らに何かを囁きかけるような音が聞こえ始めた。しかし、その言葉は不可解な言葉であり、彼らはその意味を理解することができなかった。ただ、その言葉、音が耳に残り、不安を抱えたままとなった。

　そして、影は突如として水中に戻り、プールの深みに消えていった。彼らは一瞬にして静寂が戻ったことを実感した。プールサイドに座っていた者たちは動けないような恐怖に囚われながら、その場に立ち尽くしてしまったのだった。

　プールの中央から消えた影を見て、彼らは何が起こったのか分からないまま、プールサイドを後にした。

　後から聞けば、そのプールには夜になると不気味な影が浮かび上がるとの噂が広がっていた。人々は夜のプールを避けるようになったのだった。

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「不思議体験ってこんな感じにオチが弱いのも結構多いんだよね。霊感っていうのがあったら本当に体験出来るのか。恐怖心が幻覚をもたらすのか。徘徊者の誰かが科学的に説明してノーベル賞取ってないかなー」

　幽幻ゆうなを映すカメラはプールサイドで固定、原稿を読み上げるタブレットは耐水性を備えた優れものだ。深夜の時間帯のせいでプールの利用者は幽幻ゆうな以外誰もいない。幽幻ゆうなが言うには普段は二、三人ほどいるという。

「普段どれぐらい泳いでるか、って？　ゆうなは２ｋｍよりちょっと少なめぐらいかな。クロールと平泳ぎを主に。個人メドレーでも速くなりたいからたまにバタフライとか背泳ぎもやるよ」

　本格的にやり込んでいるという回答にリスナーからは驚きの声が上がった。言われてみたら肩幅も結構ある、との指摘もコメントされる。そんな反応に幽幻ゆうなは鼻高々だ。

「じゃあ次ね。今度は小林慎也さん（仮名）からね。んー、これも本人からみたい」