11 / 72
引きずり込まれる交差点(表)
しおりを挟む
「悪鬼彷徨う怪奇の世界からおこんばんは~。幽幻 ゆうな、です! 今晩も徘徊者のみんなを霊界に引きずり込んじゃうぞ♪」
今晩もまた幽幻ゆうなの配信が始まった。冒頭の挨拶は一言一句そのままで、それ以外のトークは脚本無しのアドリブと彼女は語る。さすがに日中猛烈に話したくなった事柄はメモを取っているのだが、それよりもノリと勢いで喋りたい質なのだ。
「勉強はどうしてるんだって? 自主勉が主で、予備校は行ってないね。長期休みの間に短期集中講座を受けて学習のコツを学んだ後は用済みじゃん。現代文とかテクニックがあると無いとじゃ全然正解率違うもん。参考書何使ってるか? あー、次の機会でも紹介するね」
リスナーからの質問に対して程々に答えて盛り上がったところで、この配信におけるメインコンテンツへと移っていく。“待ってました”“全裸待機”などと書き込まれ、期待されていることが伺えた。
「まずは徘徊者渡辺慎太郎さん(仮名)から。「幽幻ゆうなちゃん、おこんばんは」、はい、おこんばんは~。「これは友人がやらかしたことらしいのですが――」」
■■■
深夜、ひっそりとした交差点で信号待ちをしていた加藤光一(仮名)は、ひとり車の中で音楽を聴きながら時間を潰していた。周囲は静寂に包まれ、街灯の明かりが暗闇を照らしているだけだった。
突然、彼の耳に近くで子供の声が聞こえてきた。驚いた加藤光一は窓を開けて周囲を見回すが、誰もいない。不思議に思いつつも、車の中での音楽の影響かと考え、窓を閉めて音楽を再生した。
信号が青に変わり、加藤光一は車を進め始めた。しかし、交差点の真ん中で何かに気づく。反対側の歩道には小さな女の子が立っているのだ。彼女は古いワンピースを着ており、静かに加藤光一を見つめていた。
加藤光一は不安を感じながらも、女の子が一人で夜中に道路に立っていることに驚き、すぐに車を停めて彼女に声をかけようとした。しかし、彼が車から降りると、女の子の姿が蜃気楼のように消えてしまったのだった。
驚いた加藤光一は周囲を見回し、先程まで道路の真ん中に立っていた少女の姿を探したが、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。不思議に思いながらも、加藤光一は車に戻り、その場を離れようとした。
すると、突然だった。車内の音楽が消え、代わりに女の子の声が再び聞こえてきた。「助けて」という小さな声がリピートされる。慌てて車内を見渡すも、やはり誰もいない。加藤光一の背筋を凍りつかせた。彼は恐怖に支配されながら車のエンジンをかけようとしたが、なぜかエンジンはかからない。
彼が再び外を見ると、今度は女の子の姿が車の前方に現れた。彼女の目は真っ直ぐ加藤光一を見つめており、その眼差しは深い悲しみと苦しみを映し出していた。
加藤光一は怯えながらもドアロックをかけ、助けを求める彼女には近づかないように車の中で身を縮めた。しかし、女の子の声が次第に大きくなり、耳を貫き始めた。彼女は必死に助けを求める声を上げながら、加藤光一に近づいてくるようだった。
絶望的な恐怖に襲われた加藤光一は、窓を叩く女の子の悲鳴を耐えきれずに、車を飛び出して逃げ出した。道路を駆け抜ける彼の足音と共に、女の子の声も遠ざかり、最終的には夜にふさわしい静寂が戻ってきた。
数時間後、警察に通報された加藤光一は、交差点での出来事を証言したが、彼が見た女の子の姿はどこにもなかった。彼の車には何も起きていないように見えたが、彼はその夜以来、あの交差点を通るのを避けるようになった。そして、今でも彼の心には、あの恐ろしい夜の出来事が生々しく記憶に残っているのだった。
□□□
「交差点で無断駐車とかマジ迷惑じゃない? 免許持ってないから詳しいこと知らないけど、免停とかになったりするのかな?」
少女は一体何者だったのだろうか? 交差点で犠牲になった少女の幽霊だったのか、それとも加藤光一がただ幻覚を見ただけなのか。助けを求めた彼女は供養してほしかったのか、それとも……少女が犠牲になった原因への恨みを打ち明けたのか。
「この投稿には車のドライブレコーダーに少女が映ってたのか、とかは書いてないね。少女が無傷だったのか、それとも犠牲になっちゃうぐらいの大怪我を負ってたのかもさっぱり。音楽が消えて声が聞こえてきたのは何か電波が混線して拾っちゃったのかな」
いくらでも憶測は立てられるが、恐怖体験とは大体が理屈をつけられない摩訶不思議な現象としか言いようがないものだ。案の定リスナーの推理も散らばって広がってしまい、収集がつかなくなっていった。
「じゃあ次のお便りにいこっか。えっと、杉山美桜さん(仮名)からね。この投稿はまた本人の体験談っぽいよ」
今晩もまた幽幻ゆうなの配信が始まった。冒頭の挨拶は一言一句そのままで、それ以外のトークは脚本無しのアドリブと彼女は語る。さすがに日中猛烈に話したくなった事柄はメモを取っているのだが、それよりもノリと勢いで喋りたい質なのだ。
「勉強はどうしてるんだって? 自主勉が主で、予備校は行ってないね。長期休みの間に短期集中講座を受けて学習のコツを学んだ後は用済みじゃん。現代文とかテクニックがあると無いとじゃ全然正解率違うもん。参考書何使ってるか? あー、次の機会でも紹介するね」
リスナーからの質問に対して程々に答えて盛り上がったところで、この配信におけるメインコンテンツへと移っていく。“待ってました”“全裸待機”などと書き込まれ、期待されていることが伺えた。
「まずは徘徊者渡辺慎太郎さん(仮名)から。「幽幻ゆうなちゃん、おこんばんは」、はい、おこんばんは~。「これは友人がやらかしたことらしいのですが――」」
■■■
深夜、ひっそりとした交差点で信号待ちをしていた加藤光一(仮名)は、ひとり車の中で音楽を聴きながら時間を潰していた。周囲は静寂に包まれ、街灯の明かりが暗闇を照らしているだけだった。
突然、彼の耳に近くで子供の声が聞こえてきた。驚いた加藤光一は窓を開けて周囲を見回すが、誰もいない。不思議に思いつつも、車の中での音楽の影響かと考え、窓を閉めて音楽を再生した。
信号が青に変わり、加藤光一は車を進め始めた。しかし、交差点の真ん中で何かに気づく。反対側の歩道には小さな女の子が立っているのだ。彼女は古いワンピースを着ており、静かに加藤光一を見つめていた。
加藤光一は不安を感じながらも、女の子が一人で夜中に道路に立っていることに驚き、すぐに車を停めて彼女に声をかけようとした。しかし、彼が車から降りると、女の子の姿が蜃気楼のように消えてしまったのだった。
驚いた加藤光一は周囲を見回し、先程まで道路の真ん中に立っていた少女の姿を探したが、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。不思議に思いながらも、加藤光一は車に戻り、その場を離れようとした。
すると、突然だった。車内の音楽が消え、代わりに女の子の声が再び聞こえてきた。「助けて」という小さな声がリピートされる。慌てて車内を見渡すも、やはり誰もいない。加藤光一の背筋を凍りつかせた。彼は恐怖に支配されながら車のエンジンをかけようとしたが、なぜかエンジンはかからない。
彼が再び外を見ると、今度は女の子の姿が車の前方に現れた。彼女の目は真っ直ぐ加藤光一を見つめており、その眼差しは深い悲しみと苦しみを映し出していた。
加藤光一は怯えながらもドアロックをかけ、助けを求める彼女には近づかないように車の中で身を縮めた。しかし、女の子の声が次第に大きくなり、耳を貫き始めた。彼女は必死に助けを求める声を上げながら、加藤光一に近づいてくるようだった。
絶望的な恐怖に襲われた加藤光一は、窓を叩く女の子の悲鳴を耐えきれずに、車を飛び出して逃げ出した。道路を駆け抜ける彼の足音と共に、女の子の声も遠ざかり、最終的には夜にふさわしい静寂が戻ってきた。
数時間後、警察に通報された加藤光一は、交差点での出来事を証言したが、彼が見た女の子の姿はどこにもなかった。彼の車には何も起きていないように見えたが、彼はその夜以来、あの交差点を通るのを避けるようになった。そして、今でも彼の心には、あの恐ろしい夜の出来事が生々しく記憶に残っているのだった。
□□□
「交差点で無断駐車とかマジ迷惑じゃない? 免許持ってないから詳しいこと知らないけど、免停とかになったりするのかな?」
少女は一体何者だったのだろうか? 交差点で犠牲になった少女の幽霊だったのか、それとも加藤光一がただ幻覚を見ただけなのか。助けを求めた彼女は供養してほしかったのか、それとも……少女が犠牲になった原因への恨みを打ち明けたのか。
「この投稿には車のドライブレコーダーに少女が映ってたのか、とかは書いてないね。少女が無傷だったのか、それとも犠牲になっちゃうぐらいの大怪我を負ってたのかもさっぱり。音楽が消えて声が聞こえてきたのは何か電波が混線して拾っちゃったのかな」
いくらでも憶測は立てられるが、恐怖体験とは大体が理屈をつけられない摩訶不思議な現象としか言いようがないものだ。案の定リスナーの推理も散らばって広がってしまい、収集がつかなくなっていった。
「じゃあ次のお便りにいこっか。えっと、杉山美桜さん(仮名)からね。この投稿はまた本人の体験談っぽいよ」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる