61 / 82
売られた喧嘩は買わなきゃな
しおりを挟む
神聖帝国は周辺諸国を遥かに凌ぐ国力・領土を有する大国だ。小国の連中は何をするにもまずは神聖帝国の目を気にしなきゃいけない。良好な関係を築こうってことで自国の姫を神聖帝国の有力貴族に嫁がせるのもザラにある話だ。
だからパンノニア王国第一王子が神聖帝国第一皇女の伴侶として迎え入れられるなんて破格の話だ。しかもその皇女様は皇太子で、ゆくゆくは女帝になるんだ。他の奴らからしたら喉から手が出るほどの涎モンだろ。
……が、だ。そりゃあくまで国を考えれば、の話だ。
喧嘩ふっかけられたんだから受けて立つに決まってるよなあ?
「イストバーンはあたしの男だ。手ぇ出したらぶっ飛ばすぞ!」
だからってわざわざ神聖帝国に乗り込んだ挙げ句、宮廷の謁見の間で皇太子として応対したラインヒルデの胸ぐら掴むのは正直やりすぎたわ。
ぶっちゃけこのあたり、最低の屑が聖女に嫉妬心漲らせた頃からこれっぽっちも成長してねえじゃねえか。
でもよ、それが不思議なことに、全く後悔が無いんだわ。
愚かな真似してるのは全然変わっちゃいねえんだが、マティルデが生意気ムカつくって感じだった前回との最大の違いは、あたしが本気で誰かを取られたくないって怒りと焦りで恐れで心がぐちゃぐちゃになっちまってる点だ。
「ほう、それはこの神聖帝国皇太子を一介の女官風情がか?」
「あぁ? 立場なんざ関係ねえよ。ラインヒルデをこのギゼラがだ」
「そうは言うがギゼラが一番立場の差を理解しているだろう。私が手を上げるだけでギゼラは取り囲んでいる帝国近衛兵の槍に串刺しにされるんだぞ」
「その前にてめえを羽交い締めにして人質に取るぐらい出来ねえと思ってんのか?」
ラインヒルデが無礼を働くあたしを引き離そうとする近衛兵共に動くなって命じてるのもあたしの反応を見て楽しんでるからだし、そもそもこうなるって分かっていながらあえてあたしを挑発してきた辺りもムカつく。
ラインヒルデがイストバーン様を好ましく思ってるのは事実だし、彼を夫として迎えたいと考えてるのも事実だろうな。そしてそれが神聖帝国皇太子である自分にとって最適な選択肢なのも分かってるだろう。
でも、彼女はそれを望んでない。
なのにあえてイストバーン様を出汁にしてきたのは理由がある。
それが分かっててもこの感情が抑えられないのはしょうがねえよなあ?
「あたしがイストバーンと一緒になって幸せになるんだよ。覚えときな!」
■■■
……話はラインヒルデの挑戦状を引き裂いた辺りまで遡る。
息を荒げたあたしはこっちをぽかーんと見つめてくる同僚達に頭を下げて謝りまくった。でも頭に血が上って怒りが収まらないあたしはその後も業務が全く捗らないので、心配されたイストバーン様に手紙の内容を洗いざらい白状する破目になった。
「ギゼラが帰らないと俺の神聖帝国行きを要望してくる、ねえ。彼女、そんなにギゼラに戻ってきてほしいのか?」
「アイツはあたしに喧嘩を売ってきたんだよ! イストバーン様を出汁に使ったのも許せねえし、イストバーン様の気持ちを無視するのも我慢ならねえ!」
そんなあたしとは対照的にイストバーン様はラインヒルデに呆れているようだった。自分に宛てられた手紙をつまんでひらひらさせつつ、頭を抱えている。彼にとってもこの申し入れは唐突だったみたいだな。
「どうする? 俺から正式に抗議してもいいんだが」
「ここまで挑発されてガン無視決め込むのは女がすたるってもんだ。受けて立ってやるつもりだ」
「……つまり、一回神聖帝国に戻るつもりなのか?」
「こうまで強引な手で来られちゃあ黙ってるわけにもいかねえだろ。次は更にとんでもねね脅しをかけられるかもしれねえしな」
だからパンノニア王国第一王子が神聖帝国第一皇女の伴侶として迎え入れられるなんて破格の話だ。しかもその皇女様は皇太子で、ゆくゆくは女帝になるんだ。他の奴らからしたら喉から手が出るほどの涎モンだろ。
……が、だ。そりゃあくまで国を考えれば、の話だ。
喧嘩ふっかけられたんだから受けて立つに決まってるよなあ?
「イストバーンはあたしの男だ。手ぇ出したらぶっ飛ばすぞ!」
だからってわざわざ神聖帝国に乗り込んだ挙げ句、宮廷の謁見の間で皇太子として応対したラインヒルデの胸ぐら掴むのは正直やりすぎたわ。
ぶっちゃけこのあたり、最低の屑が聖女に嫉妬心漲らせた頃からこれっぽっちも成長してねえじゃねえか。
でもよ、それが不思議なことに、全く後悔が無いんだわ。
愚かな真似してるのは全然変わっちゃいねえんだが、マティルデが生意気ムカつくって感じだった前回との最大の違いは、あたしが本気で誰かを取られたくないって怒りと焦りで恐れで心がぐちゃぐちゃになっちまってる点だ。
「ほう、それはこの神聖帝国皇太子を一介の女官風情がか?」
「あぁ? 立場なんざ関係ねえよ。ラインヒルデをこのギゼラがだ」
「そうは言うがギゼラが一番立場の差を理解しているだろう。私が手を上げるだけでギゼラは取り囲んでいる帝国近衛兵の槍に串刺しにされるんだぞ」
「その前にてめえを羽交い締めにして人質に取るぐらい出来ねえと思ってんのか?」
ラインヒルデが無礼を働くあたしを引き離そうとする近衛兵共に動くなって命じてるのもあたしの反応を見て楽しんでるからだし、そもそもこうなるって分かっていながらあえてあたしを挑発してきた辺りもムカつく。
ラインヒルデがイストバーン様を好ましく思ってるのは事実だし、彼を夫として迎えたいと考えてるのも事実だろうな。そしてそれが神聖帝国皇太子である自分にとって最適な選択肢なのも分かってるだろう。
でも、彼女はそれを望んでない。
なのにあえてイストバーン様を出汁にしてきたのは理由がある。
それが分かっててもこの感情が抑えられないのはしょうがねえよなあ?
「あたしがイストバーンと一緒になって幸せになるんだよ。覚えときな!」
■■■
……話はラインヒルデの挑戦状を引き裂いた辺りまで遡る。
息を荒げたあたしはこっちをぽかーんと見つめてくる同僚達に頭を下げて謝りまくった。でも頭に血が上って怒りが収まらないあたしはその後も業務が全く捗らないので、心配されたイストバーン様に手紙の内容を洗いざらい白状する破目になった。
「ギゼラが帰らないと俺の神聖帝国行きを要望してくる、ねえ。彼女、そんなにギゼラに戻ってきてほしいのか?」
「アイツはあたしに喧嘩を売ってきたんだよ! イストバーン様を出汁に使ったのも許せねえし、イストバーン様の気持ちを無視するのも我慢ならねえ!」
そんなあたしとは対照的にイストバーン様はラインヒルデに呆れているようだった。自分に宛てられた手紙をつまんでひらひらさせつつ、頭を抱えている。彼にとってもこの申し入れは唐突だったみたいだな。
「どうする? 俺から正式に抗議してもいいんだが」
「ここまで挑発されてガン無視決め込むのは女がすたるってもんだ。受けて立ってやるつもりだ」
「……つまり、一回神聖帝国に戻るつもりなのか?」
「こうまで強引な手で来られちゃあ黙ってるわけにもいかねえだろ。次は更にとんでもねね脅しをかけられるかもしれねえしな」
12
お気に入りに追加
441
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
虐げられ聖女の力を奪われた令嬢はチート能力【錬成】で無自覚元気に逆襲する~婚約破棄されましたがパパや竜王陛下に溺愛されて幸せです~
てんてんどんどん
恋愛
『あなたは可愛いデイジアちゃんの為に生贄になるの。
貴方はいらないのよ。ソフィア』
少女ソフィアは母の手によって【セスナの炎】という呪術で身を焼かれた。
婚約した幼馴染は姉デイジアに奪われ、闇の魔術で聖女の力をも奪われたソフィア。
酷い火傷を負ったソフィアは神殿の小さな小屋に隔離されてしまう。
そんな中、竜人の王ルヴァイスがリザイア家の中から結婚相手を選ぶと訪れて――
誰もが聖女の力をもつ姉デイジアを選ぶと思っていたのに、竜王陛下に選ばれたのは 全身火傷のひどい跡があり、喋れることも出来ないソフィアだった。
竜王陛下に「愛してるよソフィア」と溺愛されて!?
これは聖女の力を奪われた少女のシンデレラストーリー
聖女の力を奪われても元気いっぱい世界のために頑張る少女と、その頑張りのせいで、存在意義をなくしどん底に落とされ無自覚に逆襲される姉と母の物語
※よくある姉妹格差逆転もの
※虐げられてからのみんなに溺愛されて聖女より強い力を手に入れて私tueeeのよくあるテンプレ
※超ご都合主義深く考えたらきっと負け
※全部で11万文字 完結まで書けています
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!
九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。
しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。
アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。
これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。
ツイッターで先行して呟いています。
聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜
手嶋ゆき
恋愛
「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」
バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。
さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。
窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。
※一万文字以内の短編です。
※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる