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そうと決まれば早速自分磨きを、と
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「いと尊き方にご挨拶申し上げます。私、イストバーン王子殿下のもとで女官を務めています、ギゼラと申します」
慇懃に、そして優雅に頭を垂れる女。
その女に圧倒されてただ眺めるしかない女。
この場面だけを目撃した連中はどっちが勝者だか一目で分かるってもんだろ。
「平民でありながらもお目にかかれましたこと。また、このような場に参加させていただいたこと、大変光栄に思っております」
「え、ええ……」
女は顔に微笑を張り付かせて、不敵に笑うのは内心だけにする。
それから挨拶を送っていた女は面を上げて、背筋を正す。図らずとも挨拶された女よりも背が高いのもあって、見下ろす構図の出来上がりだ。
……話は結構前に遡る。
イストバーン様に夜会の相手を頼まれた日からあたしは自分を磨くことにした。
もう無縁でいられるとばっか考えてて練習をさぼりまくってたせいで、もう身体つきも仕草の一つ一つも姿勢も見るも無惨。もし今あたしの目の前に最低のクズが現れたら間違いなく恥を晒すぐらいならって首を吊れ、とか喚いてきただろうな。
次になけなしの給料で美容に係わる化粧水とかファンデーション類を取り揃えた。別に外見にこだわりなんざ無い今になってこんなのに金使うなんて非常に不本意なんだけど、見た目を気にする連中が多い社交界に姿を見せる以上、背に腹は代えられねえ。
んで、財布の中を更に寂しくさせて購入した全身鏡を前にまずは姿勢から矯正する。自然体になるまでは意識して正さないといけなくて、結構辛い。あと自分じゃやってるつもりでも鏡の向こうにいるあたしは実にヘボで泣けてくる。
言葉遣いも直した。最低の屑だった前回は少女時代から矯正したから自然と口に出せたけれど、つい最近まで町娘生活送ってた身からすると、意識しねえとすぐボロが出ちまう。だもので歯が浮くような丁寧な言い回しに慣れるようずっとそう努めた。
一番問題だったのは体格だったな。美しい体躯になるよう常日頃管理されていた前回と違って力仕事も伴った宿働きしてたのもあってわりとがっちりめなんだよな。当日は肌の露出が控えめで肩幅が目立たないドレスを選ぶしか無いか。
「ギゼラ。何かいつになく少食じゃないか?」
「やはり分かりますか? 実は腰のくびれを作るようコルセットを巻いていまして。あまり多量の食事と取れないのです」
「……やっぱり違和感だらけなんだけど。せめて俺の執務室内にいるときぐらいいつもどおりにしてくれない?」
「お断りします。普段から心がけていないと当日下手を打ちかねませんので」
あとコルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられてて苦しいー。こればっかりは自分じゃ付けられないので毎回マティルデに付けてもらってる。寝ている間もコレから逃れられないせいで夜中に何度うなされたことやら。
慇懃に、そして優雅に頭を垂れる女。
その女に圧倒されてただ眺めるしかない女。
この場面だけを目撃した連中はどっちが勝者だか一目で分かるってもんだろ。
「平民でありながらもお目にかかれましたこと。また、このような場に参加させていただいたこと、大変光栄に思っております」
「え、ええ……」
女は顔に微笑を張り付かせて、不敵に笑うのは内心だけにする。
それから挨拶を送っていた女は面を上げて、背筋を正す。図らずとも挨拶された女よりも背が高いのもあって、見下ろす構図の出来上がりだ。
……話は結構前に遡る。
イストバーン様に夜会の相手を頼まれた日からあたしは自分を磨くことにした。
もう無縁でいられるとばっか考えてて練習をさぼりまくってたせいで、もう身体つきも仕草の一つ一つも姿勢も見るも無惨。もし今あたしの目の前に最低のクズが現れたら間違いなく恥を晒すぐらいならって首を吊れ、とか喚いてきただろうな。
次になけなしの給料で美容に係わる化粧水とかファンデーション類を取り揃えた。別に外見にこだわりなんざ無い今になってこんなのに金使うなんて非常に不本意なんだけど、見た目を気にする連中が多い社交界に姿を見せる以上、背に腹は代えられねえ。
んで、財布の中を更に寂しくさせて購入した全身鏡を前にまずは姿勢から矯正する。自然体になるまでは意識して正さないといけなくて、結構辛い。あと自分じゃやってるつもりでも鏡の向こうにいるあたしは実にヘボで泣けてくる。
言葉遣いも直した。最低の屑だった前回は少女時代から矯正したから自然と口に出せたけれど、つい最近まで町娘生活送ってた身からすると、意識しねえとすぐボロが出ちまう。だもので歯が浮くような丁寧な言い回しに慣れるようずっとそう努めた。
一番問題だったのは体格だったな。美しい体躯になるよう常日頃管理されていた前回と違って力仕事も伴った宿働きしてたのもあってわりとがっちりめなんだよな。当日は肌の露出が控えめで肩幅が目立たないドレスを選ぶしか無いか。
「ギゼラ。何かいつになく少食じゃないか?」
「やはり分かりますか? 実は腰のくびれを作るようコルセットを巻いていまして。あまり多量の食事と取れないのです」
「……やっぱり違和感だらけなんだけど。せめて俺の執務室内にいるときぐらいいつもどおりにしてくれない?」
「お断りします。普段から心がけていないと当日下手を打ちかねませんので」
あとコルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられてて苦しいー。こればっかりは自分じゃ付けられないので毎回マティルデに付けてもらってる。寝ている間もコレから逃れられないせいで夜中に何度うなされたことやら。
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