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昼食の後は昼寝するもんだよな
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食事を終えたあたしはそのまま木陰で寝転んだ。温かい季節なのもあって木の葉の隙間から漏れてくる日差しがても気持ちがいい。風も肌を撫でる程度だし、町の工房や職場もここから遠いから静か。昼寝には最適だ。
「早食いしたからすぐに再開すると思ったんだが、しないんだな」
「昼寝しないと頭がすっきりしないんだよ。ただし寝すぎない程度に短く済ませること。熟睡すると逆に寝ぼけちまうからな」
「あー。王宮騎士達が昼休憩中に目を閉じるのはその為だったのか」
「疑うならイストバーン様も試してみりゃいいじゃん。止められなくなるぜ」
イストバーン様は何が面白いのか、しばらくの間あたしの顔を見つめていた。普段なら鬱陶しがったんだが心地いい眠気に襲われたので無視。夢の世界に旅立つ間際に隣で彼が寝転がる音が耳に入ってきた。
ある程度経ってからあたしは意識を覚醒させた。思いっきり伸びをしてから軽く自分の頬を叩いて活を入れる。それから「よしっ」と張り切って上体を起こし、そこでやっとあたしのすぐ傍でイストバーン様が寝息を立てていることに気付いた。
「しっかしなぁ、酔狂すぎるだろ」
公爵令嬢だった昔のあたしとか最低の屑だった皇太子の婚約者時代だったら話は分かる。けれど今みたくただの平凡な町娘が少し賢い所を見せただけで声をかけるなんて思いもしなかった。
あたしが想像してる以上にイストバーン様がゲテモノ好きなのか、彼の興味を引く何かがあたしにあったからか。まさかあたしの素性を見抜いたとかは無さそうだけど、行方知れずの公爵令嬢と結びつけてきた可能性は無きにしもあらず、か。
問うのは簡単だけれど、折角誘ってきたんだ。彼の期待に答えてから聞き出してやるとしよう。何せクソ女と違ってあたしは時間にも責務にも追われてないんでね。やるからには全力を尽くすけれどさ。
「おーい、イストバーン様ー。起きろー」
「……ん、もうちょっとだけ」
「駄目だろ。これ以上もたもたしてたら一周回らないうちに日が暮れちまうぞ」
「……しょうがないなぁ」
あたしが軽く身体を揺すったらイストバーン様は目をこすりながら夢の世界から戻ってきた。喉の奥が見えるぐらい大きなあくびをかましてから上体を起こす。眠気が残ってるのか、かなり微睡んでる。
「ほら、残り半分だ。続けようぜ」
「……ああ、そうだな」
そんな感じで調査を再開したあたし達は途中おやつで休憩したりと結構道草食いまくったけれど、日が暮れる頃には一周出来て出発した宿まで戻ってきた。さすがに一日中歩きまくったせいでお互いもうへとへとだ。
「満足したか?」
「概ねはな。もっと詳しい内情はそれこそ定住しないと難しいし、日程的にもこの町ばかりに費やせない。これぐらいが限界だろうな」
「ふぅん。ま、そうだよな。王子様なんだからこんなちっぽけな町を何百とまとめた国ってもんを背負わなきゃいけないしな」
イストバーン様は自分で見て聞いて感じた内容を細かく記載した日誌を手に笑みをこぼす。社交界で貴族共がするような微笑みなんかじゃない、心から喜んでいることがあたしにも伝わってきた。
あーいい顔するなあ。案内したかいがあったってものだ。
そんな感じに内心で嬉しがっていたら、どうしてかイストバーン様がわたしの顔を覗き込んできた。なんだなんだ、とぎょっとしていたら、イストバーン様は歯を見せてはにかんできた。
「まるで逢瀬だったな」
「……は?」
「楽しかったよ。またしような」
「な……お、逢瀬だぁ……!?」
言われてみたら確かに男女二人が邪魔なしに同じ時を過ごしてたんだよな。
バカ、意識させんなよ……!
あたしは恥ずかし混じりにイストバーン様の頭を叩いてやった。
「早食いしたからすぐに再開すると思ったんだが、しないんだな」
「昼寝しないと頭がすっきりしないんだよ。ただし寝すぎない程度に短く済ませること。熟睡すると逆に寝ぼけちまうからな」
「あー。王宮騎士達が昼休憩中に目を閉じるのはその為だったのか」
「疑うならイストバーン様も試してみりゃいいじゃん。止められなくなるぜ」
イストバーン様は何が面白いのか、しばらくの間あたしの顔を見つめていた。普段なら鬱陶しがったんだが心地いい眠気に襲われたので無視。夢の世界に旅立つ間際に隣で彼が寝転がる音が耳に入ってきた。
ある程度経ってからあたしは意識を覚醒させた。思いっきり伸びをしてから軽く自分の頬を叩いて活を入れる。それから「よしっ」と張り切って上体を起こし、そこでやっとあたしのすぐ傍でイストバーン様が寝息を立てていることに気付いた。
「しっかしなぁ、酔狂すぎるだろ」
公爵令嬢だった昔のあたしとか最低の屑だった皇太子の婚約者時代だったら話は分かる。けれど今みたくただの平凡な町娘が少し賢い所を見せただけで声をかけるなんて思いもしなかった。
あたしが想像してる以上にイストバーン様がゲテモノ好きなのか、彼の興味を引く何かがあたしにあったからか。まさかあたしの素性を見抜いたとかは無さそうだけど、行方知れずの公爵令嬢と結びつけてきた可能性は無きにしもあらず、か。
問うのは簡単だけれど、折角誘ってきたんだ。彼の期待に答えてから聞き出してやるとしよう。何せクソ女と違ってあたしは時間にも責務にも追われてないんでね。やるからには全力を尽くすけれどさ。
「おーい、イストバーン様ー。起きろー」
「……ん、もうちょっとだけ」
「駄目だろ。これ以上もたもたしてたら一周回らないうちに日が暮れちまうぞ」
「……しょうがないなぁ」
あたしが軽く身体を揺すったらイストバーン様は目をこすりながら夢の世界から戻ってきた。喉の奥が見えるぐらい大きなあくびをかましてから上体を起こす。眠気が残ってるのか、かなり微睡んでる。
「ほら、残り半分だ。続けようぜ」
「……ああ、そうだな」
そんな感じで調査を再開したあたし達は途中おやつで休憩したりと結構道草食いまくったけれど、日が暮れる頃には一周出来て出発した宿まで戻ってきた。さすがに一日中歩きまくったせいでお互いもうへとへとだ。
「満足したか?」
「概ねはな。もっと詳しい内情はそれこそ定住しないと難しいし、日程的にもこの町ばかりに費やせない。これぐらいが限界だろうな」
「ふぅん。ま、そうだよな。王子様なんだからこんなちっぽけな町を何百とまとめた国ってもんを背負わなきゃいけないしな」
イストバーン様は自分で見て聞いて感じた内容を細かく記載した日誌を手に笑みをこぼす。社交界で貴族共がするような微笑みなんかじゃない、心から喜んでいることがあたしにも伝わってきた。
あーいい顔するなあ。案内したかいがあったってものだ。
そんな感じに内心で嬉しがっていたら、どうしてかイストバーン様がわたしの顔を覗き込んできた。なんだなんだ、とぎょっとしていたら、イストバーン様は歯を見せてはにかんできた。
「まるで逢瀬だったな」
「……は?」
「楽しかったよ。またしような」
「な……お、逢瀬だぁ……!?」
言われてみたら確かに男女二人が邪魔なしに同じ時を過ごしてたんだよな。
バカ、意識させんなよ……!
あたしは恥ずかし混じりにイストバーン様の頭を叩いてやった。
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