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騎士共の目は節穴だったようで

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 あたしの他には出稼ぎに来ていたっておっさんと親子連れ、その他旅人やら商売人やらが乗っていた。聞けば途中で立ち寄る街道沿いの町とか村で降りる人が大半で、国境沿いの終着駅まで行くのはほんの一握りらしい。

 お日様がおはようする頃に出発。帝都を囲う城壁での検問も難なく突破した乗合馬車は一路パンノニア王国に向けて旅立っていく……筈だったけれど、そうは問屋が卸さなかった。

 暇だったので馬車内で喋り合ってたら、後方から次第に轟音が鳴り響いてきた。うるさくて後ろを見やると、なんと帝国軍の騎兵がこちらに向かってくるじゃねえか。先を急ぐのかと乗合馬車は道を譲るとなんと騎兵は止まった馬車を取り囲んできた。

「騎士様、あっしらに何かご用で?」
「国より正式に下された命令により中を改めさせてもらう。これがその命令書だ」

 げっ。もう手が回ってきたのか。早えよ父よ。

 えっと、朝侍女が起こしに行ったら部屋の中はもぬけの殻。そこであたしの失踪が発覚して、まずは敷地内から出てないかくまなく探し回る。見つからなかったら帝都内を捜索させる。外はそれから……とか思ってたのになあ。

「あの、一体何をお探しで?」
「それは機密事項だ」

 そりゃ言えねえよなあ。失踪した公爵令嬢を探してますーだなんてさ。

 護衛の傭兵から御者、乗客の一人一人まで入念に調べる……と思いきや、その取り調べは思ったとおりザルだった。薄汚れた短髪小僧なんてまず違うだろ、って先入観もあって幾つかあたしは質問されただけで終了。こんなザマでこの先大丈夫かよ。

 あっけなく調査は終了して騎士ご一行は先を急いでいった。あの様子で帝都近郊の往来をくまなく潰し込んでいくつもりなんだろうな。ま、当のあたしが捜索の目をかいくぐれたんだから、無駄なお仕事お疲れさん。

 その後の旅路は特に波乱もなかった。公爵家の領地と帝都を往復するぐらいだったあたしからしたら何もかもが新鮮で、何もない風景にも感動したものだ。それとこんなにものんびりした時間を過ごすなんて一体どれぐらいぶりだったろうな。

 隣国のパンノニア王国とは関係が良好なのもあって国境での検問も難なく通過。あたしは晴れて国外脱出にこぎつけた。もうここまで来りゃあ神聖帝国公爵家の威光なんざお手洗いの役にもたちゃしないね。

「さあて、こっからどうすっかな」

 あいにく貴族社会かつ男社会な世の中で女が働ける職業は限られてる。折角あのクソ女の能力を継承してるんだから有効活用したいんだが、そう上手く発揮出来る機会には早々巡り会えないだろうな。

 独りごちながらあたしは一番近い町を目指し、新たな一歩を歩み始めた。
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