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隣国王子と一緒に行くとするか
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「んじゃああたしも。あたしはギゼラ。ただのギゼラだ」
「ギゼラか……ああ、いい名だ。君に良く似合っている」
「……っ。そりゃどーも。さすが王子様は女をおだてるのが上手いことで」
「あえて否定しないけどそう皮肉込めて言われると腹が立つなぁ」
いや、だから何だってんだ。この王子様が政局争いで負けようが暗殺されようがあたしにはこれっぽっちも関係無いね。あたしとこいつとはただ一時の従業員と客人ってだけに過ぎない。
「俺が地方を視察するのは義務もあるし、本当に内情を知りたいのもある。だけど一番は人探しが目的なんだ」
「人探し?」
「ああ。これから俺と肩を並べて歩いてくれそうな同志になる奴をな」
適当に相槌を打とうと思ったんだが、彼が真剣な様子だったものだからこっちも思わず聞き入ってしまった。その眼差しがあたしを捉えて離さず、あたしも彼だけを見つめ返し続ける。
「俺の正体をあっさり見破った慧眼、俺の下で役立てる気はないか?」
彼の手がこっちに差し出されてくる。
彼は本気だ。心からあたしを欲しがっているのが分かる。
「おいおい正気か? こんな田舎村で働く小娘に王子様の側近やれって?」
「そんなの関係無い。ギゼラならやれる」
「どっからその根拠が出てきたんだ?」
「ギゼラと同じさ。些細なきっかけと直感だ」
彼の手を見つめながらあたしは考えを巡らせる。
断っても強引には迫ってこないだろうな。そうすりゃあこのままのんびりとした田舎生活を満喫出来る。歴史に名を残さないしこの世界に何も刻めず、けれどささやかな幸せを味わって生きていける。
けれど一度この王子様について行けばまた波乱万丈な貴族社会に逆戻りだ。しかも今度は公爵家の権力を振りかざせない弱者としてあの魔境に飛び込まなきゃ駄目。もう権力も財産もこりごりなあたしからすれば得られるものがこれっぽっちも無い。
「俺にはギゼラが必要なんだ。頼む、一緒に来てくれないか?」
だからこいつの手を払いのけるのが正解だ。
そう、それが賢い選択なんだが……、
「いいぜ。乗ってやるよ」
王子様への好奇心の方が勝った。
我ながら馬鹿だよな、ホント。
「これからよろしくな、殿下」
「ああ、これからよろしく」
あたしと彼、イストバーン様の手が固く結ばれた。
別にイストバーン様が用済みになったあたしを切り離す分にはいいんだ。その兆候を見極めて断罪される前に逃げればいいんだから。前回と違って意地もこだわりも無いんだし、身一つで何とか出来るのはこの三年間で証明済みだからな。
でも、少しぐらいは願わずにはいられない。
今度こそはこの手を振り払わないで欲しい、と。
「ギゼラか……ああ、いい名だ。君に良く似合っている」
「……っ。そりゃどーも。さすが王子様は女をおだてるのが上手いことで」
「あえて否定しないけどそう皮肉込めて言われると腹が立つなぁ」
いや、だから何だってんだ。この王子様が政局争いで負けようが暗殺されようがあたしにはこれっぽっちも関係無いね。あたしとこいつとはただ一時の従業員と客人ってだけに過ぎない。
「俺が地方を視察するのは義務もあるし、本当に内情を知りたいのもある。だけど一番は人探しが目的なんだ」
「人探し?」
「ああ。これから俺と肩を並べて歩いてくれそうな同志になる奴をな」
適当に相槌を打とうと思ったんだが、彼が真剣な様子だったものだからこっちも思わず聞き入ってしまった。その眼差しがあたしを捉えて離さず、あたしも彼だけを見つめ返し続ける。
「俺の正体をあっさり見破った慧眼、俺の下で役立てる気はないか?」
彼の手がこっちに差し出されてくる。
彼は本気だ。心からあたしを欲しがっているのが分かる。
「おいおい正気か? こんな田舎村で働く小娘に王子様の側近やれって?」
「そんなの関係無い。ギゼラならやれる」
「どっからその根拠が出てきたんだ?」
「ギゼラと同じさ。些細なきっかけと直感だ」
彼の手を見つめながらあたしは考えを巡らせる。
断っても強引には迫ってこないだろうな。そうすりゃあこのままのんびりとした田舎生活を満喫出来る。歴史に名を残さないしこの世界に何も刻めず、けれどささやかな幸せを味わって生きていける。
けれど一度この王子様について行けばまた波乱万丈な貴族社会に逆戻りだ。しかも今度は公爵家の権力を振りかざせない弱者としてあの魔境に飛び込まなきゃ駄目。もう権力も財産もこりごりなあたしからすれば得られるものがこれっぽっちも無い。
「俺にはギゼラが必要なんだ。頼む、一緒に来てくれないか?」
だからこいつの手を払いのけるのが正解だ。
そう、それが賢い選択なんだが……、
「いいぜ。乗ってやるよ」
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我ながら馬鹿だよな、ホント。
「これからよろしくな、殿下」
「ああ、これからよろしく」
あたしと彼、イストバーン様の手が固く結ばれた。
別にイストバーン様が用済みになったあたしを切り離す分にはいいんだ。その兆候を見極めて断罪される前に逃げればいいんだから。前回と違って意地もこだわりも無いんだし、身一つで何とか出来るのはこの三年間で証明済みだからな。
でも、少しぐらいは願わずにはいられない。
今度こそはこの手を振り払わないで欲しい、と。
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