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殿下の宣言に会場全体がどよめきました。それもそうでしょう、本当の聖女の誕生ともなれば国を揺るがす一大事。どの貴族も血眼になって探す存在ですもの。いかに公爵家のご令嬢であろうとこれまで秘密にしておけたのが不思議でなりませんね。
「なるほど、それはおめでとうございます。聖女の使命を全うするよう命を受けた者を代表し、お祝い申し上げます」
「ほう、珍しく身の程をわきまえてるじゃないか」
「それで、本当の聖女だとは国王陛下や教会は認めていらっしゃるのですか?」
「当然だ。父上も教皇もシンシアが真の聖女だと認定してくれたぞ」
「だから私はもはや用無しだ、と?」
「最初からそう言っているだろう。辺境伯家の娘風情が一時的でも俺の婚約者だったんだ。それだけでも満足だろう?」
聖女となれば王家の方の妃になることが確定します。にも関わらず、侯爵家はおろか伯爵家ですらご息女を聖女となさる動きはあまり見られません。と、申しますのも、聖女の因子を移植されて適合する娘がごくわずかで、多くが拒絶反応で命を落とすからです。
王家との繋がりが無くても栄華を保てる家柄は敬遠し、かと言って奇跡的に妃を輩出した家も夫婦仲が良くならなければそこまで重宝されはしません。使命と恋愛は別物でして、歴代の聖女で幸せに過ごせた方は半分にも満たないでしょう。
この人を見下す眼差しで口角を吊り上げてくるダグラス殿下との婚約が決まったのは幼少の頃。私としては出来れば聖女の座は御免被りたかったのですが、真面目な器質が祟って一番優秀になってしまったのがいけませんでしたね。
何せこの王子、最初から私を忌み嫌っていましたから。
事あるごとに「お前とは義務で付き合ってやってるんだ」だとか「王太子であるこの俺に少しでも近づけることを光栄に思え」とか何かと尊大なんですもの。贈り物を頂いたこともございませんし、優しいお言葉も下さった記憶もありませんわ。
私とダグラス殿下との婚約は所詮義務です。聖女と王子だったからに過ぎません。
私より相応しい存在が現れたのであれば、喜んで身を引きましょう。
「かしこまりました。婚約破棄の旨、お受けいたします」
「ほう、すがりついて許しをこうかとも想定したのだが、案外素直だな」
「私個人は王太子妃という身分に興味はございませんので」
「……っ。そういった生意気な態度も最初から気に入らなかったんだ!」
ダグラス殿下を個人的にお慕い出来るようになる、などという希望はついに叶いませんでした。彼に惹かれる要素が何一つ無かった以上、これまで関係を継続できたのは単なる使命感に他なりませんね。
まあ、彼から言わせればそうした義務的にしか接してこない私が全然可愛くないのは当然でしょう。そして愛くるしくて庇護欲をかきたてる少女に心惹かれるのは仕方がありません。
「教会には私より説明しますので、国王陛下や王家の方々にはダグラス殿下よりご連絡お願いいたします」
「そうさせてもらおう」
「このような公の場で宣言なさったのですから、私……いえ、シンシア様の名誉のためにも、くれぐれも論破されないように」
「そんなことお前に言われるまでもない! いちいちうるさいぞ!」
あら、やはりダグラス殿下、事前の根回しを完全に怠っていたようですね。
こんな大事にするぐらいですからてっきり事前に国王陛下や教会の許可を得てからの宣言かとも期待したのですが……。
最悪の場合、国王陛下がお認めにならずに私達の婚約を継続すると王命を出しかねません。ここまでこけにされた以上、もはやこの王子を支えていく気力は根こそぎ奪われましたので、絶対に避けたいところですが……。
「それでは私はまず父に報告いたしますので、この場は早退させていただきます。ダグラス殿下ならびに学友の皆様、ご卒業おめでとうございます」
私は深々と頭を垂れて会場を後にしました。
私が背を向けた会場からは「シンシア、ようやく貴女と添い遂げられる。幸せになろう」とか「ダグラス様……わたし、嬉しいです」とか聞こえてきました。きっと二人は情熱的に見つめ合って二人だけの世界を作っていたことでしょう。
「呑気だこと」
正直呆れるばかりでため息が出るのをこらえるのが精一杯でした。
「なるほど、それはおめでとうございます。聖女の使命を全うするよう命を受けた者を代表し、お祝い申し上げます」
「ほう、珍しく身の程をわきまえてるじゃないか」
「それで、本当の聖女だとは国王陛下や教会は認めていらっしゃるのですか?」
「当然だ。父上も教皇もシンシアが真の聖女だと認定してくれたぞ」
「だから私はもはや用無しだ、と?」
「最初からそう言っているだろう。辺境伯家の娘風情が一時的でも俺の婚約者だったんだ。それだけでも満足だろう?」
聖女となれば王家の方の妃になることが確定します。にも関わらず、侯爵家はおろか伯爵家ですらご息女を聖女となさる動きはあまり見られません。と、申しますのも、聖女の因子を移植されて適合する娘がごくわずかで、多くが拒絶反応で命を落とすからです。
王家との繋がりが無くても栄華を保てる家柄は敬遠し、かと言って奇跡的に妃を輩出した家も夫婦仲が良くならなければそこまで重宝されはしません。使命と恋愛は別物でして、歴代の聖女で幸せに過ごせた方は半分にも満たないでしょう。
この人を見下す眼差しで口角を吊り上げてくるダグラス殿下との婚約が決まったのは幼少の頃。私としては出来れば聖女の座は御免被りたかったのですが、真面目な器質が祟って一番優秀になってしまったのがいけませんでしたね。
何せこの王子、最初から私を忌み嫌っていましたから。
事あるごとに「お前とは義務で付き合ってやってるんだ」だとか「王太子であるこの俺に少しでも近づけることを光栄に思え」とか何かと尊大なんですもの。贈り物を頂いたこともございませんし、優しいお言葉も下さった記憶もありませんわ。
私とダグラス殿下との婚約は所詮義務です。聖女と王子だったからに過ぎません。
私より相応しい存在が現れたのであれば、喜んで身を引きましょう。
「かしこまりました。婚約破棄の旨、お受けいたします」
「ほう、すがりついて許しをこうかとも想定したのだが、案外素直だな」
「私個人は王太子妃という身分に興味はございませんので」
「……っ。そういった生意気な態度も最初から気に入らなかったんだ!」
ダグラス殿下を個人的にお慕い出来るようになる、などという希望はついに叶いませんでした。彼に惹かれる要素が何一つ無かった以上、これまで関係を継続できたのは単なる使命感に他なりませんね。
まあ、彼から言わせればそうした義務的にしか接してこない私が全然可愛くないのは当然でしょう。そして愛くるしくて庇護欲をかきたてる少女に心惹かれるのは仕方がありません。
「教会には私より説明しますので、国王陛下や王家の方々にはダグラス殿下よりご連絡お願いいたします」
「そうさせてもらおう」
「このような公の場で宣言なさったのですから、私……いえ、シンシア様の名誉のためにも、くれぐれも論破されないように」
「そんなことお前に言われるまでもない! いちいちうるさいぞ!」
あら、やはりダグラス殿下、事前の根回しを完全に怠っていたようですね。
こんな大事にするぐらいですからてっきり事前に国王陛下や教会の許可を得てからの宣言かとも期待したのですが……。
最悪の場合、国王陛下がお認めにならずに私達の婚約を継続すると王命を出しかねません。ここまでこけにされた以上、もはやこの王子を支えていく気力は根こそぎ奪われましたので、絶対に避けたいところですが……。
「それでは私はまず父に報告いたしますので、この場は早退させていただきます。ダグラス殿下ならびに学友の皆様、ご卒業おめでとうございます」
私は深々と頭を垂れて会場を後にしました。
私が背を向けた会場からは「シンシア、ようやく貴女と添い遂げられる。幸せになろう」とか「ダグラス様……わたし、嬉しいです」とか聞こえてきました。きっと二人は情熱的に見つめ合って二人だけの世界を作っていたことでしょう。
「呑気だこと」
正直呆れるばかりでため息が出るのをこらえるのが精一杯でした。
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