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「クラウディア! お前との婚約は破棄する!」

 王国に属する全ての貴族が通うものとされる王立学園。その卒業式を間近に控えた夜会では卒業生と在校生が最後の交流を深めていました。
 この王立学園を卒業することで貴族の子はいよいよ大人の仲間入りだと見なされ、それは王族とて例外ではありません。いわばこの夜会は大人達が巣立とうとする若者達を最後に見定める場でもあるのです。

 そんな重要な夜会において、突如として会場全体に轟くほど声を張り上げた方がいました。皆からの注目を一身に集めながらも彼は堂々とした態度を許さず、そればかりか正義は我にありとばかりに強気の姿勢を崩しません。

 中心にいて突如宣言なさったのは王国の王太子であるダグラス殿下。
 一方的に婚約破棄されたのは王太子の婚約者であるクラウディア、つまり私。
 そしてダグラス殿下が腰に手を回して抱き寄せているご令嬢。
 この茶番……もとい、舞台はこの三名の登場人物でお送りいたします。

「ダグラス殿下。さすがに時を改めませんか? 何もこの場で仰ることではないかと」
「黙れ。もはや一刻の猶予も許されん。これは我が王国の行く末にも関わるのでな」
「なるほど。そこまでおっしゃるのでしたら続けてくださいまし」
「ふんっ。そうやって余裕ぶるのも今のうちだぞ」

 私は王国に属する辺境伯家の息女です。他国であれば王家の方との婚約は見込めない身分なのですが、この国においては事情が異なるため、幸か不幸かこの私が選ばれることとなったのです。

「殿下。ご存知のとおり王家の王子は例外無く聖女を妃とすることが定められています。万が一それを拒むようでしたらその身分の返上が必要となります」
「言われるまでもない。そして聖女がそう都合よく現れるわけも無いから、人工的に聖女を造り出す神への冒涜に手を染めねばならないともな」

 我が王国はかつて魔の者が支配した土地に領土を構えていることもあって、度々魔物の脅威に脅かされ、瘴気で汚染されもします。そういった驚異から国土を守る使命を持った存在、それが神より浄化の奇跡を授けられた聖女なのです。

 ところが、今ダグラス殿下がおっしゃったように、そう簡単に聖女が誕生することはなく、時には何代にも渡り聖女が現れない暗黒の時代もございました。人々の生活が脅かされることなどあってはなりませんので、先人達は対策を講じたのです。

 それが、人工的に聖女を誕生させる、人造聖女計画だったのです。

「王族の方々は率先して汚染された土地の回復のため陣頭指揮を取る使命がございます。だからこそ聖女を代々その系譜に取り込んで耐性を保ってきたのです」
「そんなもの分かっている! 忌々しいことに我ら王家の者はそうやってまがい物の人造聖女をあてがわれてきたとものな!」

 方法は簡単ですが非人道的だと申しましょうか。何しろ見込みありと判定された少女に教会が保管する本当の聖女の因子を移植し、適合した者に修行と教育を施し、最も優秀だった者を聖女として任命する、というものなのですから。

 ここ最近は三代ほどにわたって本当の聖女が現れなかったため、この方法で造られた聖女が妃となっていました。それでも王国は安泰でしたが、やはり皆が望むのは本当の聖女の再誕に他なりませんでした。

「で、あればダグラス殿下の一存で私共の婚約を無かったものとは出来ないことはお分かりの筈です。国王陛下や教会の許しは得たのですか?」
「はん、そうやって生意気な口を叩けるのも今のうちだ。もはや俺にはお前など必要ないと言っている!」
「……それは、殿下の傍にいらっしゃるお方に関係がありますか?」
「当然だ。俺はクラウディアに代わってこのシンシアと添い遂げることを宣言する!」

 殿下が愛おしそうに名を呼んだご令嬢はシンシア様。王国の誇る公爵家のご令嬢だそうですが、これまで病弱だったため表舞台には姿を見せたことがありませんでした。王立学園にも最終学年になってようやく通い出したほどですものね。

 身分からすれば辺境伯の娘に過ぎないこの私と公爵令嬢であらせられるシンシア様では後者の方が上なのは疑いようもありませんが、こと聖女としての素質に限っては私の右に出るものはおりません。

 無論、私の優秀さは単なる自称ではなく王家や教会のお墨付きですし、そのために血と汗と涙を流しながら歯を食いしばって努力したものです。全ては王国のため、民のため、そして王家のために、私はこれまでの人生全てを費やしてきたのです。

 もし、そんな努力が無駄に終わるとしたら……、

「では、ダグラス殿下はシンシア様が私の代わりを務められる、とおっしゃるのですね?」
「代わりなどではない。代役のお前が必要無くなった、といっている」
「と、申しますと?」
「なぜなら! ここにいるシンシアが真の聖女として覚醒したからだ!」

 ――神より祝福を受けし本当の聖女が現れた時に他なりません。
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