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Interlude1 アレクサンドラのその後
王妃アレクサンドラの誤算(後)
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「皇帝陛下、ならびに王妃陛下。呼ばれて馳せ参じました」
久しぶりにお会いしたアルフォンソ様はさすがに老けていた。けれどあの日のお義父様を彷彿とさせる渋さと落ち着きがあって、好青年だった頃とはまた違った格好良さがあった。総じていい感じに年をとったと言えるでしょう。
一方のルシアは少女のような可愛らしさと大人の女性としての美しさを兼ね備えていた。年相応なのにあの日から印象が変わっていないのは驚く他無いわ。何より……『どきエデ2』で登場した前作ヒロインのままなんだから歓心しちゃうわ。
「この度、隣国バエティカに留学している私達の子、第二王子のレオンが王立学院を卒業することになった。本来なら私達が出向くのが礼儀なのだが、あいにく先の国内の不祥事により立て込んでしまっている。ついては貴公等に私達の代理として出席してもらいたい」
「畏まりました。誠心誠意務めます」
国王として玉座よりアルフォンソ様を見据えるジェラール。臣下として弟のジェラールにかしずくアルフォンソ様。あの恋の過ちが無かったらきっと立場は逆だったでしょうに。自業自得なんだけれど、現実は残酷よね。
跪いて頭を垂れたアルフォンソ様夫妻はジェラールからの命令にも動じず、一礼して立ち去ろうとする。私がアルフォンソ様からルシアへと視線を移したのは何となくだったけれど、優雅に微笑を浮かべる彼女の表情がわずかに変化した……気がした。
(ほくそ笑んだ……?)
まるで勝ち誇られた気がして私は思わず立ち上がってしまう。
突然の挙動に一同は騒然となった。隣のジェラールすら驚いた様子だったわ。
そんな私は恥じて何でもないことを示しつつ座ろうとして……突然脳に電流が走る。
どうしてこの時期に悪徳貴族共が一斉に検挙されたのかしら?
偶然にしては出来すぎていない? 誰かが裏で糸を引いていたんじゃないの?
そう、まるでやんごとなき家柄の殿方を毒牙にかけた、目の前のヒロインみたいに。
「ルシア、まさかアンタ……」
悪徳貴族共を扇動したんじゃないの? 私に身動きを取れなくして、自分が『どきエデ2』の舞台に登場するために。
もちろん証拠は何一つ無い。現時点じゃあ私の被害妄想に過ぎない。けれどヒロインとしてアルフォンソ様を攻略する裏でお義母様やジェラールを焚き付けて危機感を煽って思うがままにした彼女の手腕なら何ら不思議でもない。
そんな私の疑念への答えとばかりに彼女は優雅にお辞儀してみせた。男爵令嬢時代の芋っぽさ……もとい、頼りない初々しさの欠片もない、王族のアルフォンソ様の妻として相応しい仕草だった。
「レオン殿下の晴れ舞台、アレクサンドラ陛下に代わってこのわたしがしかと目に焼き付けてまいります。ご報告をお待ち下さい」
やられた……! もう王妃は私になったんだから、って油断してたかも!
くーやーしーいー! 私だって直に見たかったのに。今度は当事者としてじゃなく!
けれど、隣国国王夫妻じゃなくルシアとアルフォンソ様が登場することに意味がある、とも思えるし、かなり複雑よね……。
そう言えばルシアは息子のエドガーをアンヘラの下に送っていたっけ。何でも執事として彼女を守り、時には苦言を呈して、仕えているんだとか。レオンともそれなりに情報を共有して意見を交わしているそうで。
今のところアンヘラは逆ハーレムルートを突き進んでいるようね。けれどコンスタンサが前世の記憶を思い出してる時点で破綻してるし、エドガーとレオンの存在が更に辞退を複雑にしている。とてもこのまま順当に終わるとは思えない。
だから直に体験したかったんだけれど、もう私にはどうしようもないわ。
「そう……任せるしかないわね」
「では行ってきます」
玉座に崩れる私を他所にルシアは再びお辞儀をして謁見の間より退室した。
あーあ。『どきエデ2』がどんな結末になるかは報告待ちかー。
最後の微笑むのはヒロインか、悪役令嬢か。それとも……。
楽しみにしているわよ。男爵令嬢アンヘラ、そして公爵令嬢コンスタンサ。
貴女達は定められた運命に勝てるかしら?
久しぶりにお会いしたアルフォンソ様はさすがに老けていた。けれどあの日のお義父様を彷彿とさせる渋さと落ち着きがあって、好青年だった頃とはまた違った格好良さがあった。総じていい感じに年をとったと言えるでしょう。
一方のルシアは少女のような可愛らしさと大人の女性としての美しさを兼ね備えていた。年相応なのにあの日から印象が変わっていないのは驚く他無いわ。何より……『どきエデ2』で登場した前作ヒロインのままなんだから歓心しちゃうわ。
「この度、隣国バエティカに留学している私達の子、第二王子のレオンが王立学院を卒業することになった。本来なら私達が出向くのが礼儀なのだが、あいにく先の国内の不祥事により立て込んでしまっている。ついては貴公等に私達の代理として出席してもらいたい」
「畏まりました。誠心誠意務めます」
国王として玉座よりアルフォンソ様を見据えるジェラール。臣下として弟のジェラールにかしずくアルフォンソ様。あの恋の過ちが無かったらきっと立場は逆だったでしょうに。自業自得なんだけれど、現実は残酷よね。
跪いて頭を垂れたアルフォンソ様夫妻はジェラールからの命令にも動じず、一礼して立ち去ろうとする。私がアルフォンソ様からルシアへと視線を移したのは何となくだったけれど、優雅に微笑を浮かべる彼女の表情がわずかに変化した……気がした。
(ほくそ笑んだ……?)
まるで勝ち誇られた気がして私は思わず立ち上がってしまう。
突然の挙動に一同は騒然となった。隣のジェラールすら驚いた様子だったわ。
そんな私は恥じて何でもないことを示しつつ座ろうとして……突然脳に電流が走る。
どうしてこの時期に悪徳貴族共が一斉に検挙されたのかしら?
偶然にしては出来すぎていない? 誰かが裏で糸を引いていたんじゃないの?
そう、まるでやんごとなき家柄の殿方を毒牙にかけた、目の前のヒロインみたいに。
「ルシア、まさかアンタ……」
悪徳貴族共を扇動したんじゃないの? 私に身動きを取れなくして、自分が『どきエデ2』の舞台に登場するために。
もちろん証拠は何一つ無い。現時点じゃあ私の被害妄想に過ぎない。けれどヒロインとしてアルフォンソ様を攻略する裏でお義母様やジェラールを焚き付けて危機感を煽って思うがままにした彼女の手腕なら何ら不思議でもない。
そんな私の疑念への答えとばかりに彼女は優雅にお辞儀してみせた。男爵令嬢時代の芋っぽさ……もとい、頼りない初々しさの欠片もない、王族のアルフォンソ様の妻として相応しい仕草だった。
「レオン殿下の晴れ舞台、アレクサンドラ陛下に代わってこのわたしがしかと目に焼き付けてまいります。ご報告をお待ち下さい」
やられた……! もう王妃は私になったんだから、って油断してたかも!
くーやーしーいー! 私だって直に見たかったのに。今度は当事者としてじゃなく!
けれど、隣国国王夫妻じゃなくルシアとアルフォンソ様が登場することに意味がある、とも思えるし、かなり複雑よね……。
そう言えばルシアは息子のエドガーをアンヘラの下に送っていたっけ。何でも執事として彼女を守り、時には苦言を呈して、仕えているんだとか。レオンともそれなりに情報を共有して意見を交わしているそうで。
今のところアンヘラは逆ハーレムルートを突き進んでいるようね。けれどコンスタンサが前世の記憶を思い出してる時点で破綻してるし、エドガーとレオンの存在が更に辞退を複雑にしている。とてもこのまま順当に終わるとは思えない。
だから直に体験したかったんだけれど、もう私にはどうしようもないわ。
「そう……任せるしかないわね」
「では行ってきます」
玉座に崩れる私を他所にルシアは再びお辞儀をして謁見の間より退室した。
あーあ。『どきエデ2』がどんな結末になるかは報告待ちかー。
最後の微笑むのはヒロインか、悪役令嬢か。それとも……。
楽しみにしているわよ。男爵令嬢アンヘラ、そして公爵令嬢コンスタンサ。
貴女達は定められた運命に勝てるかしら?
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