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Interlude1 アレクサンドラのその後
公爵夫人ルシアへの恩赦(前)
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■Side ルシア
「先日ジェラール陛下が即位されました。それに伴い貴女にも恩赦が下りました。公爵家より迎えが来るまでの間にここより立ち去る準備をするように」
「分かりました」
神に祈りを捧げるだけだった日々はこうして突然終わりを迎えました。
そしてそれはわたしが今最も望み、そしてかつて望んでいなかったものでした。
わたし、男爵家に生を受けたルシアは幼い頃に高熱を出して生死を彷徨い、その際に前世の記憶とやらを思い出しました。けれど幼少期だったわたしの頭では膨大な情報量を処理しきれず、わたしという個人は厚く塗り潰されてしまったのです。
あたしになってしまったわたしだけれど、あたしがわたしを求めたためか消滅は免れました。あたしの知識から引っ張り出すならわたしは所詮イマジナリーフレンドだったのでしょう。わたしの正体を気にする様子はありませんでしたから。
あたしは『どきエデ』のヒロインになりきり、わたしは彼女がヒロインになるよう相談に乗って助言をする日々は楽しかったです。だからなのでしょうね、攻略対象者共にあたしを取られたくない、という欲望が生まれてしまったのは。
わたしは『どきエデ』のヒロインらしく、あたしを攻略することに決めました。
結果、邪魔だった攻略対象者共は一人を除いて排除出来て、わたしは閉鎖された世界であたしと二人きり。攻略は見事に成功したのです。
乙女ゲームであればそれでエンディングを迎えていたのでしょう。あいにくここは皆が生きる現実の世界。わたしはあたしと共に生きる日々を送ることになりました。
「……最悪。どうして朝からアンタの顔を見なきゃいけないのよ」
「わたしの顔はルシアの顔でしょう。わたしとしてももっとルシアに相応しく化粧を施したいけれどね」
「気持ち悪い……幻滅だわ。素敵な殿方じゃなく自分自身を攻略するだなんて。アンタが『どきエデ』のヒロインだなんてあたしは絶対に認めない」
「それはお互い様でしょう。わたしもルシアも理想とするヒロインを演じるだけの女優に過ぎないんだから」
わたしとあたしの立場が入れ替わってもわたし達の交流は続きました。あたしが望まなくてもあたしの側にはわたしがいる。別にわたしがストーカーというわけでもなく、わたしとあたしは離れられない存在なのです。
「それにしても意外だったわ。アンタがアルフォンソ様に助言するなんてね。てっきり逆ハーレムルート失敗エンドを再現してあたしの攻略とやらの邪魔になる攻略対象者達を根こそぎ排除するかと思ってたのに」
「邪魔だったのは事実だけれど、ルシアを愛してくれた人達を無下にしたくなかったから。こういう気配りも攻略の秘訣と思うけれど」
「……ありがと。アンタにしては上出来よ」
「どういたしまして」
誤算があるとすれば……あたしが攻略していた王太子の愛の本気度がわたしの予測を大きく上回っていた点でしょうか。てっきり馬脚を現したあたしに拒絶され、王太子の地位を失った彼の真実の愛とやらは失われると思っていました。
「アルフォンソ様は未だにルシアを深く愛しているみたいじゃない」
「ええ。あたしの『どきエデ』攻略は完璧だったもの」
「アレはもう溺愛とすら呼べない。依存に等しいよ」
王太子は聖戦に失敗してもなおあたしを愛し続けたのです。あたしを孤立させてわたしだけを見て、意識してもらいたかったわたしからすれば鬱陶しいだけでしたが、同時にあたしを愛し続けてくれてありがとう、と感謝もしました。
ともあれ、あとはもう満たされた余生を過ごすだけかと考えていましたが……、
「だからこそ、次に繋がるんじゃないの」
「……次?」
この時、初めてわたしはあたしから衝撃の事実を聞かされたのです。
乙女ゲーム『どきエデ』には続編があるということを。
「アンタがヒロインになりきるなら仕方がないわ。必ず『どきエデ2』のイベントには前作ヒロインのルシアとして出てもらうから」
「ちょっと待って。わたし達の乙女ゲームはもう終わったのに?」
「次の舞台はバエティカ王国で、ルシアの子レオンが攻略対象者なの。ルシアの出番は次作ヒロインが隣国王子を攻略した後、終盤になってレオンの親として登場するの。あのサプライズゲストの情報は隠されてたし、プレイしててシビレたわー」
「……それが条件だったらわたし達の希望は叶わない。だってルシアは王妃になれないんだもの。このお腹の子が男の子だとしても王子にはなれない」
「それの何が問題なの? しょうがないわね、ちょっと耳貸しなさい」
あたしは意気揚々と『どきエデ2』についてわたしに説明しました。それはかつてあたしが目を輝かせて『どきエデ』を語ってくれた時のように楽しいものでした。あのキャラクター、あのイベントが素敵だった、泣けた、等説明しながら一喜一憂するあたしがわたしは嬉しかったんです。
悪役令嬢アレクサンドラがざまぁして王太子妃になった以上、隣国王子レオンは彼女に生んでもらうしかありません。しかし、『どきエデ』を覆した彼女が『どきエデ2』の前提を整えるとも限りません。
だから、アレクサンドラを焚きつけることにしました。
レオンを誕生させられないで悔しがるわたしにほくそ笑ませるように。
「先日ジェラール陛下が即位されました。それに伴い貴女にも恩赦が下りました。公爵家より迎えが来るまでの間にここより立ち去る準備をするように」
「分かりました」
神に祈りを捧げるだけだった日々はこうして突然終わりを迎えました。
そしてそれはわたしが今最も望み、そしてかつて望んでいなかったものでした。
わたし、男爵家に生を受けたルシアは幼い頃に高熱を出して生死を彷徨い、その際に前世の記憶とやらを思い出しました。けれど幼少期だったわたしの頭では膨大な情報量を処理しきれず、わたしという個人は厚く塗り潰されてしまったのです。
あたしになってしまったわたしだけれど、あたしがわたしを求めたためか消滅は免れました。あたしの知識から引っ張り出すならわたしは所詮イマジナリーフレンドだったのでしょう。わたしの正体を気にする様子はありませんでしたから。
あたしは『どきエデ』のヒロインになりきり、わたしは彼女がヒロインになるよう相談に乗って助言をする日々は楽しかったです。だからなのでしょうね、攻略対象者共にあたしを取られたくない、という欲望が生まれてしまったのは。
わたしは『どきエデ』のヒロインらしく、あたしを攻略することに決めました。
結果、邪魔だった攻略対象者共は一人を除いて排除出来て、わたしは閉鎖された世界であたしと二人きり。攻略は見事に成功したのです。
乙女ゲームであればそれでエンディングを迎えていたのでしょう。あいにくここは皆が生きる現実の世界。わたしはあたしと共に生きる日々を送ることになりました。
「……最悪。どうして朝からアンタの顔を見なきゃいけないのよ」
「わたしの顔はルシアの顔でしょう。わたしとしてももっとルシアに相応しく化粧を施したいけれどね」
「気持ち悪い……幻滅だわ。素敵な殿方じゃなく自分自身を攻略するだなんて。アンタが『どきエデ』のヒロインだなんてあたしは絶対に認めない」
「それはお互い様でしょう。わたしもルシアも理想とするヒロインを演じるだけの女優に過ぎないんだから」
わたしとあたしの立場が入れ替わってもわたし達の交流は続きました。あたしが望まなくてもあたしの側にはわたしがいる。別にわたしがストーカーというわけでもなく、わたしとあたしは離れられない存在なのです。
「それにしても意外だったわ。アンタがアルフォンソ様に助言するなんてね。てっきり逆ハーレムルート失敗エンドを再現してあたしの攻略とやらの邪魔になる攻略対象者達を根こそぎ排除するかと思ってたのに」
「邪魔だったのは事実だけれど、ルシアを愛してくれた人達を無下にしたくなかったから。こういう気配りも攻略の秘訣と思うけれど」
「……ありがと。アンタにしては上出来よ」
「どういたしまして」
誤算があるとすれば……あたしが攻略していた王太子の愛の本気度がわたしの予測を大きく上回っていた点でしょうか。てっきり馬脚を現したあたしに拒絶され、王太子の地位を失った彼の真実の愛とやらは失われると思っていました。
「アルフォンソ様は未だにルシアを深く愛しているみたいじゃない」
「ええ。あたしの『どきエデ』攻略は完璧だったもの」
「アレはもう溺愛とすら呼べない。依存に等しいよ」
王太子は聖戦に失敗してもなおあたしを愛し続けたのです。あたしを孤立させてわたしだけを見て、意識してもらいたかったわたしからすれば鬱陶しいだけでしたが、同時にあたしを愛し続けてくれてありがとう、と感謝もしました。
ともあれ、あとはもう満たされた余生を過ごすだけかと考えていましたが……、
「だからこそ、次に繋がるんじゃないの」
「……次?」
この時、初めてわたしはあたしから衝撃の事実を聞かされたのです。
乙女ゲーム『どきエデ』には続編があるということを。
「アンタがヒロインになりきるなら仕方がないわ。必ず『どきエデ2』のイベントには前作ヒロインのルシアとして出てもらうから」
「ちょっと待って。わたし達の乙女ゲームはもう終わったのに?」
「次の舞台はバエティカ王国で、ルシアの子レオンが攻略対象者なの。ルシアの出番は次作ヒロインが隣国王子を攻略した後、終盤になってレオンの親として登場するの。あのサプライズゲストの情報は隠されてたし、プレイしててシビレたわー」
「……それが条件だったらわたし達の希望は叶わない。だってルシアは王妃になれないんだもの。このお腹の子が男の子だとしても王子にはなれない」
「それの何が問題なの? しょうがないわね、ちょっと耳貸しなさい」
あたしは意気揚々と『どきエデ2』についてわたしに説明しました。それはかつてあたしが目を輝かせて『どきエデ』を語ってくれた時のように楽しいものでした。あのキャラクター、あのイベントが素敵だった、泣けた、等説明しながら一喜一憂するあたしがわたしは嬉しかったんです。
悪役令嬢アレクサンドラがざまぁして王太子妃になった以上、隣国王子レオンは彼女に生んでもらうしかありません。しかし、『どきエデ』を覆した彼女が『どきエデ2』の前提を整えるとも限りません。
だから、アレクサンドラを焚きつけることにしました。
レオンを誕生させられないで悔しがるわたしにほくそ笑ませるように。
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