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Interlude1 アレクサンドラのその後
公爵令嬢コンスタンサの婚約(前)
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バエティカ王国国王の葬儀は厳かに行われた。
その遺体は先祖代々の王家の者が眠る墓へと埋葬された。今日からバエティカ王国を静かに見守ってくれることでしょう。
次の日、バエティカ王国の戴冠式が行われた。
前国王の死去と同時にフアナ様が女王になったのだけれど、内外に新たな女王の誕生を知らしめる儀式としてはこれ以上無いでしょう。
周辺の国々からは多くの国王、公主級の方が葬儀に引き続いて参列した。それだけでもバエティカが周辺国家と良好な関係を築いていたんだと分かるし、続くフアナ様にも大きな期待を寄せているのが分かる。
その後に行われた晩餐会は盛大に開かれた。
前国王の逝去の悲しみを振り払うかのように明るく、賑やかに。
参加者達も過去を振り返るのではなく未来に思いを馳せて、話題を選んでいた。
「おお、ジェラール王太子殿下。ご無沙汰しておりますぞ」
「これはこれか。お久しゅうございます」
ジェラールも多くの方々と積極的に言葉を交わした。タラコネンシス王国国王があと数年で王太子に譲位するとは既に表明されているので、私達も概ね国王夫妻も同然の接し方をされている。
ちなみに余談だけれど、国によって違う言葉を全部覚えるなんてさすがに無理。なので基本的にこうして諸国の代表者が集う場所ではそれぞれの言語の元になった古語を公用語にしている。貴族は幼少の頃から教え込まれるから通訳要らずで楽だわ。
「お久しぶりでございます、アレクサンドラ妃殿下」
そんな中、とある貴婦人がタラコネンシス王国の言葉で挨拶を送ってくる。
私もまた彼女に対して丁寧に挨拶を返した。
このバエティカ王国の公爵家に嫁いだ、カロリーナに向けて。
「こんばんは、カロリーナ様。相変わらずお美しいようで羨ましい限りです」
「いえ、妃殿下ほどではございません。むしろますます磨きがかかったのではありませんこと?」
「そう仰っていただけるのは嬉しいですわ。夫の愛が尽きぬよう絶え間なく努力しておりますので」
「まあ、夫婦仲も相変わらずよろしいようで。わたくしも負けていられませんわね」
そう惚気けながらカロリーナは夫のニコラスの腕に自分の腕を絡ませた。
ニコラスも満更ではない様子で、厳格な面持ちが少し緩んだようだった。
……何か無性に羨ましくなったから、隣にいたジェラールに手を絡ませましょう。
さすがのカロリーナも月日の経過には勝てないようで、美しいながらも可愛らしさもあった学生時代とは雰囲気が全然違う。彼女の母君を思い出させる淑女としての落ち着いた魅力を伴っていた。
きっと彼女から見れば私だってそうなったと感じてるんでしょうね。
そんなカロリーナは二人の子供を連れていた。上の女の子が大体息子のレオンと同じぐらいで、下の男の子が娘のグラシエラより少し上かしらね。二人共父親のニコラスの特徴を受け継ぎながらもカロリーナの面影も感じさせる面持ちだった。
そして、成長して前世のわたしが記憶する彼女達に近づいていた。
『どきエデ2』悪役令嬢の公爵令嬢コンスタンサ。
『どきエデ2』攻略対象者の公爵子息エクトル。
この後波瀾の道を歩むことになる子供達に、ね。
「コンスタンサ。成長したわね。綺麗になったんじゃない?」
「光栄です、妃殿下」
「エクトルも。背が大きくなったわ。この調子だとお父様もすぐ追い抜くかしら」
「僕は別に背が高くなくてもいいです。父上は高すぎますよ」
うん、既に二人共『どきエデ2』を彷彿とさせるようになってるじゃないの。
それは同時に、私やルシアのように前世の影響を受けていない証でもある。
今のところは、って限定付きだけれどね。
「カルロス王子……いえ、王太子殿下の婚約者になったんですって? 立派じゃない。王子妃教育は順調なの?」
「順調です。とても優秀な先生方が厳しく指導してくださっていますので。いずれはアレクサンドラ妃殿下のような立派な妃になってみせます」
「そう。けれど、私はコンスタンサほど優秀なら別に嫁がなくてもいいとも思うのだけれどね」
「それはどういう……はっ!」
私が小声で彼女を否定するかのような囁きをすると、賢い彼女はすぐに真意を悟ってくれたようで、息を呑んだ。
公爵家の嫡男は生来身体が弱く、あまり表舞台に姿は見せていない。かくいう私もカロリーナのお屋敷にお邪魔した時に会ったぐらいだもの。だから彼が公爵家のあとを継ぐことはまず無いでしょう。
だから公爵家はエクトルが継ぐ、ともっぱらの噂だけれど、『どきエデ2』の自意識過剰生意気後輩な彼を知る私からすると凄く危うく思えるのよね。ヒロインに反省させられて改善されればマシになるけれど……。
よって、一つの可能性を私は提示する。
王太子の婚約者にもなれるほど優秀なコンスタンサが公爵になったっていいんじゃないのか、ってね。
「妃殿下ったら、ご冗談がお上手ですこと」
ただ、コンスタンサも大したもので、動揺は瞬時のもので、すぐに一笑に付した。優雅に、そして余裕をもって。
その遺体は先祖代々の王家の者が眠る墓へと埋葬された。今日からバエティカ王国を静かに見守ってくれることでしょう。
次の日、バエティカ王国の戴冠式が行われた。
前国王の死去と同時にフアナ様が女王になったのだけれど、内外に新たな女王の誕生を知らしめる儀式としてはこれ以上無いでしょう。
周辺の国々からは多くの国王、公主級の方が葬儀に引き続いて参列した。それだけでもバエティカが周辺国家と良好な関係を築いていたんだと分かるし、続くフアナ様にも大きな期待を寄せているのが分かる。
その後に行われた晩餐会は盛大に開かれた。
前国王の逝去の悲しみを振り払うかのように明るく、賑やかに。
参加者達も過去を振り返るのではなく未来に思いを馳せて、話題を選んでいた。
「おお、ジェラール王太子殿下。ご無沙汰しておりますぞ」
「これはこれか。お久しゅうございます」
ジェラールも多くの方々と積極的に言葉を交わした。タラコネンシス王国国王があと数年で王太子に譲位するとは既に表明されているので、私達も概ね国王夫妻も同然の接し方をされている。
ちなみに余談だけれど、国によって違う言葉を全部覚えるなんてさすがに無理。なので基本的にこうして諸国の代表者が集う場所ではそれぞれの言語の元になった古語を公用語にしている。貴族は幼少の頃から教え込まれるから通訳要らずで楽だわ。
「お久しぶりでございます、アレクサンドラ妃殿下」
そんな中、とある貴婦人がタラコネンシス王国の言葉で挨拶を送ってくる。
私もまた彼女に対して丁寧に挨拶を返した。
このバエティカ王国の公爵家に嫁いだ、カロリーナに向けて。
「こんばんは、カロリーナ様。相変わらずお美しいようで羨ましい限りです」
「いえ、妃殿下ほどではございません。むしろますます磨きがかかったのではありませんこと?」
「そう仰っていただけるのは嬉しいですわ。夫の愛が尽きぬよう絶え間なく努力しておりますので」
「まあ、夫婦仲も相変わらずよろしいようで。わたくしも負けていられませんわね」
そう惚気けながらカロリーナは夫のニコラスの腕に自分の腕を絡ませた。
ニコラスも満更ではない様子で、厳格な面持ちが少し緩んだようだった。
……何か無性に羨ましくなったから、隣にいたジェラールに手を絡ませましょう。
さすがのカロリーナも月日の経過には勝てないようで、美しいながらも可愛らしさもあった学生時代とは雰囲気が全然違う。彼女の母君を思い出させる淑女としての落ち着いた魅力を伴っていた。
きっと彼女から見れば私だってそうなったと感じてるんでしょうね。
そんなカロリーナは二人の子供を連れていた。上の女の子が大体息子のレオンと同じぐらいで、下の男の子が娘のグラシエラより少し上かしらね。二人共父親のニコラスの特徴を受け継ぎながらもカロリーナの面影も感じさせる面持ちだった。
そして、成長して前世のわたしが記憶する彼女達に近づいていた。
『どきエデ2』悪役令嬢の公爵令嬢コンスタンサ。
『どきエデ2』攻略対象者の公爵子息エクトル。
この後波瀾の道を歩むことになる子供達に、ね。
「コンスタンサ。成長したわね。綺麗になったんじゃない?」
「光栄です、妃殿下」
「エクトルも。背が大きくなったわ。この調子だとお父様もすぐ追い抜くかしら」
「僕は別に背が高くなくてもいいです。父上は高すぎますよ」
うん、既に二人共『どきエデ2』を彷彿とさせるようになってるじゃないの。
それは同時に、私やルシアのように前世の影響を受けていない証でもある。
今のところは、って限定付きだけれどね。
「カルロス王子……いえ、王太子殿下の婚約者になったんですって? 立派じゃない。王子妃教育は順調なの?」
「順調です。とても優秀な先生方が厳しく指導してくださっていますので。いずれはアレクサンドラ妃殿下のような立派な妃になってみせます」
「そう。けれど、私はコンスタンサほど優秀なら別に嫁がなくてもいいとも思うのだけれどね」
「それはどういう……はっ!」
私が小声で彼女を否定するかのような囁きをすると、賢い彼女はすぐに真意を悟ってくれたようで、息を呑んだ。
公爵家の嫡男は生来身体が弱く、あまり表舞台に姿は見せていない。かくいう私もカロリーナのお屋敷にお邪魔した時に会ったぐらいだもの。だから彼が公爵家のあとを継ぐことはまず無いでしょう。
だから公爵家はエクトルが継ぐ、ともっぱらの噂だけれど、『どきエデ2』の自意識過剰生意気後輩な彼を知る私からすると凄く危うく思えるのよね。ヒロインに反省させられて改善されればマシになるけれど……。
よって、一つの可能性を私は提示する。
王太子の婚約者にもなれるほど優秀なコンスタンサが公爵になったっていいんじゃないのか、ってね。
「妃殿下ったら、ご冗談がお上手ですこと」
ただ、コンスタンサも大したもので、動揺は瞬時のもので、すぐに一笑に付した。優雅に、そして余裕をもって。
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