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Interlude1 アレクサンドラのその後
公爵子息エドガーの遊戯(前)
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アルフォンソ様が息子のエドガーを連れて王宮にやってきた時、私は「やりやがったなあの芋女!」と心の中で毒づいたものよ。
どうせあの真ルシアのことだもの、ルシアを『どきエデ2』の舞台に上げるために息子が欲しかったんでしょうしね。
ああ、『どきエデ』でのヒロインはあんなに純真無垢だったのに。ルシアに取り憑かれたせいで真ルシアはあんなにも病んで歪んでしまって。
尤も、転生が関与してない『どきエデ』そのままのルシアだったとしても公爵令嬢アレクサンドラとは馬が合わなかったでしょうけどね。
まあ、修道院で静かに祈りを捧げるだけだった彼女を挑発したのは私だから、ルシアに全責任があるわけじゃないんだけどさ。私だって『どきエデ2』終盤のサプライズシーンをどう再現しようかまだ決めかねてるし。
そんなエドガーは昔のアルフォンソ様とはまた違った印象を覚えた。
アルフォンソ様と私が婚約したのは結構幼い頃だったけれど、聡明で誠実で立派で、この歳でこんなにしっかりしてるんだー、みたいに感じた記憶がある。つくづくルシアとの愛に溺れたのが残念でならない。
一方のエドガーは確かにアルフォンソ様の面影を覚えるし、ルシアの可愛らしさもどこか見受けられる。けれど二人との決定的な違いは優しそうだ、って印象かな。アルフォンソ様の良い所はしっかり学んでいるし、駄目な所は分別付けてるし、賢くもあったと思う。
……逆を言うと、エドガーぐらいの幼さでそうなってしまった、って見方もある。
「エドガー、紹介するわね。この四人が私の子供達よ。さ、いとこにご挨拶なさい」
「ダリアよ。よろしく!」
「アルベルトだ。よろしくな」
「レオンだよ。よろしくね」
「はじめまして、グラシエラです。よろしくお願います」
「エドガーです。よろしくお願いします」
謁見を終えたアルフォンソ様とエドガーをうちの子に引き合わせた。まだ一桁歳のエドガーは緊張しちゃったでしょうから、とりあえずこの後は王宮の庭で目一杯遊んでもらうことにした。
そんな我が子達の様子を私とお義母様とで眺めている。
「あーいいわねー。子供達が元気にはしゃぎまわってる姿。癒やされるわー」
「何でしたらお義母様も童心に帰ってご一緒に遊ばれてはどうですか?」
「体力がもたないわよ。昔だってグレゴリオが結構元気で私もはしゃいだんだけど、翌日筋肉痛で地獄を見たわ」
「言われてみれば確かにそうだったかもしれませんね」
「何言ってるのよ。大人しかったジェラールを連れ回してたのはアレクサンドラだったじゃないの。私、おいたをした貴女達のお尻を叩いたって記憶してるわよ」
「んもう、そんな黒歴史は忘れてくださいませ」
五人は空気を入れた布製のボールでバレーボールのトス回しっぽいことを始めた。みんな一番年下のグラシエラには優しく山なりのボールを回すのに、他の子にはあさっての方に飛ばしたりアタックしたりで容赦無いわね。
「そう言えばエロディア夫人のところのお子さんは今いくつなんでしたっけ?」
「え、と。確かこの間下の子が学園を卒業したんじゃなかったかしら?」
「はい。おかげさまで無事成人を迎えました。独り立ちしてしまったので一気に家の中が寂しくなりましたね」
「それはおめでとう。ノエリアの子は今どんな感じ?」
「一番上が学園に入学するための試験勉強真っ最中で、一番下の子がやっとよちよち歩き出来るようになったぐらいですねー。あ、ご主人発案の赤ちゃん向けおもちゃ、凄く役に立ってますよ」
文明が進めば晩婚化するとはよく言ったもので、この世界だと十代には結婚して子を生むのが当たり前になってる。子沢山の私もまだ二十代だし、お義母様も四十代だし。ただ老けるのは早いかも。六十まで行けば長生きしてるって言われるぐらいだもの。
私はテーブルの上に並べられた菓子をつまんで口に運んだ。丁度いい甘さが口の中に広がってとても美味しい。お義母様も優雅にお茶を飲む。カップをソーサーの上に置いても物音一つ立たないのは流石だと思った。
あ、ダリアの容赦ない攻撃がアルベルトに炸裂した。文句言うアルベルトと開き直るダリア、仲裁に入るレオンとおろおろするグラシエラ。エドガーもレオンと一緒にアルベルトに落ち着くよう促しながらダリアを窘めていた。
「私達ね、あと少し頑張ったらアレクサンドラ達に座を譲ろうかと思ってるの」
そんな風にのんびり眺めていたら、お義母様の口から爆弾発言が飛び出してきた。
最初呆けて聞き流すところだったけれど、慌ててお義母様の方へと振り向く。
「ジェラールもアレクサンドラもしっかりしてきたじゃない。アルベルト達後に続く継承者も育ってきてるし。なら任せられるかな、と判断してるのよ」
「早くありませんか? まだお二人共お元気ですし」
「体調が悪化して慌ただしく譲位するよりは健在なうちに引き継いだ方がいいわよ。ああ、別に院政を敷いて実権を握るとかそんなつもりはないから安心して」
「その意向、お義父様はご存知なんですか?」
「ええ。後はジェラールとアレクサンドラの成長具合を見極めて最終的に判断するつもりのようね。まだ決定じゃないけれど頭には留めておいて」
「……分かりました」
そうよね。子の成長を見守ってばかりはいられない。時は平等に過ぎていくんだから、私達が国を背負っていかなきゃいけない時代も近づいているんだ。そして若い世代の模範となり、これまで先頭に立って歩いていた人達を安心させなきゃ。
そう考えるとはるか未来だとばかり思ってた『どきエデ2』の時代がもう目と鼻の先のように思えてきた。乙女ゲームでは破滅してた公爵令嬢アレクサンドラことこの私がどうなるのか、分かる日が迫っているわけか。
どうせあの真ルシアのことだもの、ルシアを『どきエデ2』の舞台に上げるために息子が欲しかったんでしょうしね。
ああ、『どきエデ』でのヒロインはあんなに純真無垢だったのに。ルシアに取り憑かれたせいで真ルシアはあんなにも病んで歪んでしまって。
尤も、転生が関与してない『どきエデ』そのままのルシアだったとしても公爵令嬢アレクサンドラとは馬が合わなかったでしょうけどね。
まあ、修道院で静かに祈りを捧げるだけだった彼女を挑発したのは私だから、ルシアに全責任があるわけじゃないんだけどさ。私だって『どきエデ2』終盤のサプライズシーンをどう再現しようかまだ決めかねてるし。
そんなエドガーは昔のアルフォンソ様とはまた違った印象を覚えた。
アルフォンソ様と私が婚約したのは結構幼い頃だったけれど、聡明で誠実で立派で、この歳でこんなにしっかりしてるんだー、みたいに感じた記憶がある。つくづくルシアとの愛に溺れたのが残念でならない。
一方のエドガーは確かにアルフォンソ様の面影を覚えるし、ルシアの可愛らしさもどこか見受けられる。けれど二人との決定的な違いは優しそうだ、って印象かな。アルフォンソ様の良い所はしっかり学んでいるし、駄目な所は分別付けてるし、賢くもあったと思う。
……逆を言うと、エドガーぐらいの幼さでそうなってしまった、って見方もある。
「エドガー、紹介するわね。この四人が私の子供達よ。さ、いとこにご挨拶なさい」
「ダリアよ。よろしく!」
「アルベルトだ。よろしくな」
「レオンだよ。よろしくね」
「はじめまして、グラシエラです。よろしくお願います」
「エドガーです。よろしくお願いします」
謁見を終えたアルフォンソ様とエドガーをうちの子に引き合わせた。まだ一桁歳のエドガーは緊張しちゃったでしょうから、とりあえずこの後は王宮の庭で目一杯遊んでもらうことにした。
そんな我が子達の様子を私とお義母様とで眺めている。
「あーいいわねー。子供達が元気にはしゃぎまわってる姿。癒やされるわー」
「何でしたらお義母様も童心に帰ってご一緒に遊ばれてはどうですか?」
「体力がもたないわよ。昔だってグレゴリオが結構元気で私もはしゃいだんだけど、翌日筋肉痛で地獄を見たわ」
「言われてみれば確かにそうだったかもしれませんね」
「何言ってるのよ。大人しかったジェラールを連れ回してたのはアレクサンドラだったじゃないの。私、おいたをした貴女達のお尻を叩いたって記憶してるわよ」
「んもう、そんな黒歴史は忘れてくださいませ」
五人は空気を入れた布製のボールでバレーボールのトス回しっぽいことを始めた。みんな一番年下のグラシエラには優しく山なりのボールを回すのに、他の子にはあさっての方に飛ばしたりアタックしたりで容赦無いわね。
「そう言えばエロディア夫人のところのお子さんは今いくつなんでしたっけ?」
「え、と。確かこの間下の子が学園を卒業したんじゃなかったかしら?」
「はい。おかげさまで無事成人を迎えました。独り立ちしてしまったので一気に家の中が寂しくなりましたね」
「それはおめでとう。ノエリアの子は今どんな感じ?」
「一番上が学園に入学するための試験勉強真っ最中で、一番下の子がやっとよちよち歩き出来るようになったぐらいですねー。あ、ご主人発案の赤ちゃん向けおもちゃ、凄く役に立ってますよ」
文明が進めば晩婚化するとはよく言ったもので、この世界だと十代には結婚して子を生むのが当たり前になってる。子沢山の私もまだ二十代だし、お義母様も四十代だし。ただ老けるのは早いかも。六十まで行けば長生きしてるって言われるぐらいだもの。
私はテーブルの上に並べられた菓子をつまんで口に運んだ。丁度いい甘さが口の中に広がってとても美味しい。お義母様も優雅にお茶を飲む。カップをソーサーの上に置いても物音一つ立たないのは流石だと思った。
あ、ダリアの容赦ない攻撃がアルベルトに炸裂した。文句言うアルベルトと開き直るダリア、仲裁に入るレオンとおろおろするグラシエラ。エドガーもレオンと一緒にアルベルトに落ち着くよう促しながらダリアを窘めていた。
「私達ね、あと少し頑張ったらアレクサンドラ達に座を譲ろうかと思ってるの」
そんな風にのんびり眺めていたら、お義母様の口から爆弾発言が飛び出してきた。
最初呆けて聞き流すところだったけれど、慌ててお義母様の方へと振り向く。
「ジェラールもアレクサンドラもしっかりしてきたじゃない。アルベルト達後に続く継承者も育ってきてるし。なら任せられるかな、と判断してるのよ」
「早くありませんか? まだお二人共お元気ですし」
「体調が悪化して慌ただしく譲位するよりは健在なうちに引き継いだ方がいいわよ。ああ、別に院政を敷いて実権を握るとかそんなつもりはないから安心して」
「その意向、お義父様はご存知なんですか?」
「ええ。後はジェラールとアレクサンドラの成長具合を見極めて最終的に判断するつもりのようね。まだ決定じゃないけれど頭には留めておいて」
「……分かりました」
そうよね。子の成長を見守ってばかりはいられない。時は平等に過ぎていくんだから、私達が国を背負っていかなきゃいけない時代も近づいているんだ。そして若い世代の模範となり、これまで先頭に立って歩いていた人達を安心させなきゃ。
そう考えるとはるか未来だとばかり思ってた『どきエデ2』の時代がもう目と鼻の先のように思えてきた。乙女ゲームでは破滅してた公爵令嬢アレクサンドラことこの私がどうなるのか、分かる日が迫っているわけか。
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