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Interlude1 アレクサンドラのその後
公爵嫡男セシリオの興味(前)
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■Side セシリオ
タラコネンシス王国の三大公爵家は準王家と呼ぶに相応しい系譜と歴史を持つ。
王妃が必ず三大公爵家の息女から選出されるだけでも数多の貴族の中でも別格だ。
そんな三大公爵家の嫡男として生を受けたセシリオには妹が三人、弟が一人いる。中でも上の妹アレクサンドラは王太子となるアルフォンソに嫁ぐことが決まっていて、公爵家はしばらく安泰だ、との見方が強かった。
そのセシリオが後に求婚する相手となるセナイダと始めて出会ったのは、学園に通い始める何年か前の頃だった。
「セナイダと申します。精一杯に務めを果たします。右も左も分かりませんが、ご指導ご鞭撻のほどお願い致します」
どうにも友人の屋敷に招待されたアレクサンドラがひと目見て気に入り、家に圧力をかけて強引に引き抜いたんだそうだ。給料は公爵令嬢の侍女を務めることを加味しても破格。妹が一介の使用人にこれほどこだわるのも珍しい、とセシリオは感想を抱いた。
しかし、蓋を開けてみたらセシリオにとってセナイダはつまらなかった。アレクサンドラの我儘に従い、横暴さに文句一つ言わず、悪巧みの片棒を担く。体の良い使いっぱしりが欲しかっただけか、とセシリオは彼女から早々に興味を失った。
そんな彼に学園に通い始めてから転機が訪れた。
貴族の子息息女は例外無く学園に通う決まりになっていて、奇しくもセシリオとセナイダは同い年。セナイダも昼間はアレクサンドラから解放されて学園生活を送ることになった。学費まで公爵家より援助される厚遇扱いで。
貴族は自動的に入学するとはいえ、学力を計るために入学試験は行われる。公爵家の嫡男として最高峰の教育を受けてきたセシリオにとっては難関と評価される試験も容易いもので、上位五名に名を連ねるだろうとの手応えがあった。
結果、セナイダが二位でセシリオが三位だった。
「セナイダ!」
セシリオは掲示板に張り出された結果を見て愕然。セナイダに始めて声をかけた。怒るセシリオと澄まし顔のセナイダの構図は他の入学生や保護者達の注目を集めた。それでも場所を移そうとの発想は無く、セシリオは続ける。
「何をした?」
「質問の意図が分かりません。もっと具体的に説明していただけませんか?」
「入学試験の結果だ。君は俺よりも高かっただろう」
「そのようですが、まさか不正を疑っていますか?」
「当然だろ。屋敷での君の勤務を見ればとても高得点を狙える勉強量は確保出来なかった筈だからな」
アレクサンドラに振り回されるセナイダは早朝から夜まで時間を拘束されている。勤務後の深夜に睡眠時間を割いても限度がある。恥ずかしくない点数を取るだけならまだしも、セシリオを超える結果を残すのは不可能、とセシリオは結論付けている。
「知りたいですか? なら教えてあげましょう」
そんなセシリオにセナイダは笑いもせず、呆れもせず、ただ淡々と言葉を紡いだ。
「教師陣も暇ではありません。教育内容は毎年決まっていますし、頭に入れなければいけない要点も然り。なら、毎年試験の内容は似た傾向になりますよね。中には面倒くさがって数年おきで問題を使い回す教員もいるみたいですし」
だから数年間の過去問から試験の傾向を把握して要点だけ勉強した、とセナイダは悪びれずに言い放った。
奨学金目当ての一般市民なら話が別だが、試験範囲をきちんと学べているかを計る目的で行われる試験に問題のみを対策して望むのは恥、との見方が貴族の間では強い。それを子爵令嬢であるセナイダは行ったと堂々と宣言したのだ。
「だけどさ、問題用紙は毎年不正対策で試験終了後に回収されるだろう。問題の事前把握は不可能だ」
「良いところのお坊っちゃまではその程度の発想力しかありませんものね」
タラコネンシス王国の三大公爵家は準王家と呼ぶに相応しい系譜と歴史を持つ。
王妃が必ず三大公爵家の息女から選出されるだけでも数多の貴族の中でも別格だ。
そんな三大公爵家の嫡男として生を受けたセシリオには妹が三人、弟が一人いる。中でも上の妹アレクサンドラは王太子となるアルフォンソに嫁ぐことが決まっていて、公爵家はしばらく安泰だ、との見方が強かった。
そのセシリオが後に求婚する相手となるセナイダと始めて出会ったのは、学園に通い始める何年か前の頃だった。
「セナイダと申します。精一杯に務めを果たします。右も左も分かりませんが、ご指導ご鞭撻のほどお願い致します」
どうにも友人の屋敷に招待されたアレクサンドラがひと目見て気に入り、家に圧力をかけて強引に引き抜いたんだそうだ。給料は公爵令嬢の侍女を務めることを加味しても破格。妹が一介の使用人にこれほどこだわるのも珍しい、とセシリオは感想を抱いた。
しかし、蓋を開けてみたらセシリオにとってセナイダはつまらなかった。アレクサンドラの我儘に従い、横暴さに文句一つ言わず、悪巧みの片棒を担く。体の良い使いっぱしりが欲しかっただけか、とセシリオは彼女から早々に興味を失った。
そんな彼に学園に通い始めてから転機が訪れた。
貴族の子息息女は例外無く学園に通う決まりになっていて、奇しくもセシリオとセナイダは同い年。セナイダも昼間はアレクサンドラから解放されて学園生活を送ることになった。学費まで公爵家より援助される厚遇扱いで。
貴族は自動的に入学するとはいえ、学力を計るために入学試験は行われる。公爵家の嫡男として最高峰の教育を受けてきたセシリオにとっては難関と評価される試験も容易いもので、上位五名に名を連ねるだろうとの手応えがあった。
結果、セナイダが二位でセシリオが三位だった。
「セナイダ!」
セシリオは掲示板に張り出された結果を見て愕然。セナイダに始めて声をかけた。怒るセシリオと澄まし顔のセナイダの構図は他の入学生や保護者達の注目を集めた。それでも場所を移そうとの発想は無く、セシリオは続ける。
「何をした?」
「質問の意図が分かりません。もっと具体的に説明していただけませんか?」
「入学試験の結果だ。君は俺よりも高かっただろう」
「そのようですが、まさか不正を疑っていますか?」
「当然だろ。屋敷での君の勤務を見ればとても高得点を狙える勉強量は確保出来なかった筈だからな」
アレクサンドラに振り回されるセナイダは早朝から夜まで時間を拘束されている。勤務後の深夜に睡眠時間を割いても限度がある。恥ずかしくない点数を取るだけならまだしも、セシリオを超える結果を残すのは不可能、とセシリオは結論付けている。
「知りたいですか? なら教えてあげましょう」
そんなセシリオにセナイダは笑いもせず、呆れもせず、ただ淡々と言葉を紡いだ。
「教師陣も暇ではありません。教育内容は毎年決まっていますし、頭に入れなければいけない要点も然り。なら、毎年試験の内容は似た傾向になりますよね。中には面倒くさがって数年おきで問題を使い回す教員もいるみたいですし」
だから数年間の過去問から試験の傾向を把握して要点だけ勉強した、とセナイダは悪びれずに言い放った。
奨学金目当ての一般市民なら話が別だが、試験範囲をきちんと学べているかを計る目的で行われる試験に問題のみを対策して望むのは恥、との見方が貴族の間では強い。それを子爵令嬢であるセナイダは行ったと堂々と宣言したのだ。
「だけどさ、問題用紙は毎年不正対策で試験終了後に回収されるだろう。問題の事前把握は不可能だ」
「良いところのお坊っちゃまではその程度の発想力しかありませんものね」
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