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Interlude1 アレクサンドラのその後

元王太子アルフォンソとの別れ(前)

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「お久しぶりですね、アルフォンソ様」
「……アレクサンドラか」

 時はあの衝撃的な一日から一年ほど、私がアルベルトを生んで真ルシアからダリアを授かって王都に戻ってきた頃。私は元王太子であり私の婚約者だったアルフォンソ様と面会した。お供もジェラールも連れず、ダリアだけを抱いて。

 アルフォンソ様は予期せぬ面会者の私をくまなく観察してきた。けれど彼の端正なお顔に浮かんだ表情は全く変わらない。喜ばれるなんて思ってなかったけれど、怒りも憎しみも抱かれなかったのは意外だった。

「変わったな。ますます美しくなった。それでいて令嬢らしい若さと勢いが鳴りを潜めて落ち着きが伴っている」
「お褒めに預かり恐縮、と言いたいところですが、お世辞は結構です」
「率直な感想を述べたまでだ。それが私の趣向に合うかは別の話だがな」
「成る程、既に貴方様にとって私はもはやその他大勢に過ぎぬ、というわけですか」

 机と椅子ぐらいしか無い簡素な部屋の中には私とアルフォンソ様、そしてダリアしかいない。本当なら警備兵が面会者を警護しつつ囚人を見張る決まりなんだけれど、そこは我儘を通させてもらった。私達の間は鉄格子で遮られてるし、大丈夫でしょう。

「それで、生き恥を晒し続ける私に何の用だ? もはやお前の人生には私など必要無いだろう。極端な話、二度と会う必要すら無いと言っても過言ではない」
「では単刀直入に要件を述べますが、この子についてです」
「……その赤子がお前とジェラールの息子か。おめでとう、王子の誕生を祝福する」
「違います。この子はアルフォンソ様の子ですよ」

 しばしの静寂が部屋を支配する。
 アルフォンソ様が鉄仮面を崩して目を丸くしてきたので、してやったり。

「正確にはアルフォンソ様とルシアの子です。先日ルシアから託されました。あの修道院では子育ては無理ですし、アルフォンソ様はこの体たらくですものね」
「私の子……なのか?」
「あら、知らなかったのですか? いかにルシアが外界から隔離されていてアルフォンソ様が戦場に赴いていても、手紙のやりとりは可能だったと思いますが」
「いや、ルシアからそんな連絡は……」

 ちょっと、真ルシアってば一応アルフォンソ様が父親なんだから報告ぐらいしておきなさいよね。彼に偽情報渡してまで生き延びさせたんだからそれぐらい朝飯前だったでしょうよ。

「名前は?」
「ダリアだそうです。ルシアからそう聞きました」
「ダリア……女の子か。そうか、私に娘が……」
「その事でアルフォンソ様にお伝えしなければいけませんね。ダリアは私とジェラールの娘として育てますので」
「……は?」

 聞けばダリアは私達の息子のアルベルトより数日ぐらい早く生まれたらしいから、実は双子でしたって言い張ろうかと思ってる。ああ、これは既にお義父様にもお義母様様にも同意を頂いてるから、決定事項なのであしからず。

「この子が一人でちゃんと考えられるぐらいまで成長したら真実を教えようかと。そのまま私達の家族でいるか、アルフォンソ様のもとに戻るかは彼女に決めさせます」
「アレクサンドラ! 貴様、私達から娘まで奪うつもりか……!?」
「怒鳴らないでくださいませ! ああもう、ダリアが起きちゃったじゃないですか!」
「……っ! す、すまない……」

 アルフォンソ様が急に怒鳴り声を上げたせいでびっくりしたダリアが泣き出してしまったじゃないの。あーよしよし、ダリアのお父様ったら怒りん坊さんですねー。
 さすがのアルフォンソ様も娘がぐずつきだしたら急に勢い失ってきたんだけど。

「アルフォンソ様が聖戦で功績をあげられなかった以上、ダリアがあの修道院から解放される機会は当分先です。それまでこの子に母親無しでいろ、と仰るの?」
「その分私が愛情を持って育てれば済む話だ」
「その貴方様の謹慎もいつ終わるか分からないのに?」
「だ、だったらルシアの実家である男爵家に一時的に預けるとか……」
「協議済みです。王女として育てられる方がこの子も幸せだろう、と言ってましたよ」
「お前の立場から言われたらそう答えるしかないだろう!」
「またそうやって怒鳴って……!」
「あっ……!」

 もう、アルフォンソ様ったら! ダリアが泣き出しちゃったじゃないの!
 この体たらくじゃあアルフォンソ様一人に任せたら最後、乳母丸投げ決定ね。
 それともいざ育て始めたら父親として覚醒するのかしらね?

「ん? どうしたんですか、急に顔を背けて」
「い、いや、すまない。恥ずかしがる様子もなく堂々とそうしたものだから……」

 ……言われてみたらアルフォンソ様のことを全く気にしないでダリアに乳与えちゃったわね。何か恥ずかしがって視線を外したアルフォンソ様の反応見てたらこっちまで恥ずかしくなってきたじゃないの。
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