新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第四章 熾天魔王編

錬金魔王、研究成果を披露する

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 ティーナはその間もただ呆然と眺めるだけに終わらない。すぐさま通常の弓矢に換装し直して立て続けに弓を射る。放物線を描いた矢は百発百中の精度で闇から逃れた兵士を無力化していった。

 相変わらずだが射程距離の差が激しすぎて一方的だった。こんなのは蹂躙なんかじゃなくて単なる的あてだな。ティーナも何ともつまらなそうに淡々と処理してる様子からも、彼女も気乗りしないようだ。

「殺さないよう配慮するのって面倒だなー。ついでに門も破壊しておくかー?」
「それなら私がやるわ。準備運動がてらに派手にやってやるんだから」

 ダーリアもまた普段の得物じゃなく魔王槍を手にし、思いっきり身体を捻った。まさかのメガフレアなんてこの場所でやったら門どころか辺り一帯が焼け野原になって多大な被害が……!

「シューティング・フレア!」

 俺が止める前にダーリアは漆黒の槍を投擲。奇跡を失った聖域に阻まれずに城壁の門に命中、大爆発を巻き起こす。しかしその規模は以前森林を焼け野原にしたティーナのやファイブヘッドドラゴンを仕留めた本家ダーリアのより小さい。

「何よ。私だって加減ぐらいは出来るんだから」

 自動的に戻ってきた魔王槍を掴んでダーリアはむくれ面で歩み始める。障害が消えた以上俺達もこの場に留まる必要もなく、悠然と足を進めるのみだ。その間もティーナが片っ端から目に入った兵士達を仕留めていくからやることもないしな。

 こうして俺達は再び聖域の中に戻ってきた。避難勧告が発令されたようでここでも人が慌ただしく家屋の中へと入っていく様子が見られた。その数も段々と少なくなっていき、教会総本山が見えてくる頃には人影は無くなっていた。

「なんか、拍子抜けするぐらい邪魔されないな」
「そりゃそうですよ。イレーネとダーリアが露払いしてくれてますからね」

 なお、ティーナばかり出番があるのはずるいと主張したイレーネは先行してこちらへと集結する騎士団を迎え撃つ。同時にダーリアもまた飛竜を駆って別方面から来る教国軍を強襲する。二人共魔王経験者だ。結果は語るまでもなかった。

 なので俺もミカエラも街を散策する感覚で教会総本山まで戻ってこれた。一仕事終えたイレーネとダーリアも集合して教会総本山を臨む。もはや俺達を阻める者など誰一人いやしなかった。

「ようやく俺の出番か。やっと暇から解放されるぜ」
「ニッコロの出番なんて無いよ。僕が全員いただく」
「ま、早い者勝ちってこと」
「うちはわくわくしてきたぞ。こんなの魔王城に攻め入った以来だなー」

 真っ先に飛び込んだのはイレーネ、そして騎竜を疾走させるダーリア。少し遅れて俺もまた待ち受ける騎士連中との戦闘を開始する。ティーナはミカエラの傍で遠距離攻撃を、ミカエラは俺の援護に専念する。

 イレーネとダーリアについては語るまでもないが、俺はさすがに教会の精鋭たる聖騎士を複数相手できるほどの実力は無い。なので必然的にティーナの援護を効果的にする立ち回りになった。ミカエラが放つ光の刃で怯んだ隙に戦鎚をぶち込んだり、逆に盾で防御してる間にミカエラの奇跡の犠牲になった。

「貴様、聖騎士のくせに魔王に加担するか!」
「知るかよ。俺はミカエラを守るまでだ」

 相手する騎士達がやかましかったが俺の心には何も響かなかった。神だの教会だのよりミカエラの方が優先なんでね。魔王だとか関係ないんだわ。そこをどいつも勘違いしたまま次々と返り討ちにしていった。

 総本山の前が片付いたところで固く閉ざされた扉をイレーネが切り刻む。ここまで来るともはや生半可な戦力では時間稼ぎにもならないと判断されたのか、さしたる抵抗も無いままに総本山内を進むことが出来た。

 総本山内は神官はおろか職員や使用人の姿も見られなかった。人の姿が一切無い厳かな空間というのは恐怖するぐらいに寂しいし冷たいものだな。そんな風に思いながらも階段広場までやってきて、待ち構えていた彼女に遭遇した。

「やあ。やっぱり戻ってきたか。予測通りで安心したよ」

 学院で俺達の先生を務めた錬金魔王、イブリースは気さくに手を振ってくる。

 彼女は広間のど真ん中で椅子に座って本を読んでいた。お供を引き連れずに代わりに彼女を囲うように六つの棺桶が置かれている。この時点で嫌な予感しかしないんだが、先制攻撃を仕掛けてどうにかなるほど彼女は甘くないだろう。

「ルシエラの遺体を返してください。そうすれば見逃してあげますよ」
「いいよ。私の研究が終わったらね。もう少しで成果が出そうなんだ」
「なら用は無いです。覚悟は良いですか?」
「あとちょっとだけ待ちたまえ。もう一組の来客を出迎えたら歓迎するからさ」

 もう一組の来客? と疑問に思うのも短い間だけ。そう時間をおかずに後方から足音が聞こえてきた。振り返るとヴィットーリオとラファエラ、そしてルシエラがこちらに向かってくるではないか。

 ルシエラは俺達に気づくと「お姉ちゃん!」と声を上げたものの対峙するイブリース先生に気づくと表情を引き締め直し、俺達と並んでイブリースと面と向かう。それを待ち受けた先生は本に栞を挟んでから閉じ、腰を上げて空席になった椅子に置いた。

「役者が揃ったところで始めよう。私の研究成果のお披露目だ」

 イブリース先生が指を鳴らすと独りでに棺桶が解体された。
 そして姿を表す横たわった遺体はどれも見覚えがあった。

 なんとミカエラ達が退けた筈の勇者一行五名、そしてルシエラの身体だった。
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