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第四章 熾天魔王編

聖女魔王、魔王軍全軍を集結させる

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「そんな! 魔王軍は確かに退けたはずなのに!」
「ユニエラもエルネストもよく見てますか? 軍を構成する魔物の種類が違うでしょう。アンデッドの軍勢、冥法軍はこれまで誰とも戦ってませんよね?」

 映像に映る魔王軍はゾンビやスケルトンを主力に数多のアンデッド系の魔物で半分以上占められている。もう何割かはリビングアーマーやゴーレムやガーゴイルといったすぐさま補充が効く魔影軍。所々に邪神と思われる個体が配置されている。

 突如襲来した魔王軍。その脅威が聖地まで伝達されるにはしばらく時間がかかるだろう。俺達のいる丘近くを除けば聖地やその周囲はいつもの平穏な様子を保っていた。まるでミカエラが見せつける映像の方が嘘のようだな。

「更に言えばラファエラ達が相手した魔影軍は半壊しただけ。これならいくらでも立て直し出来ますよ。邪神も軍長に従った何名かは残ってますし。残念でしたね」
「ミカエラ……! この聖都を戦場にするつもりなのか!?」
「先に喧嘩を売ってきたのはそっちでしょう。非難される謂れはありませんね」
「ぐ……!」

 魔王刻印持ちのルシエラがいる以上、一般聖女や並の聖騎士では太刀打ち出来まい。数の暴力で押し切るか勇者が討伐に繰り出す他無いだろう。ミカエラかルシエラか。エルネスト先輩達はどちらを優先させるか究極の選択を迫られてしまった。

 それでもやがて意を決したようで、先輩達は戦闘態勢に入った。この場から離れずにそのままミカエラに専念するつもりか。そっちがその気なら……と戦鎚と盾を持つ手に力がこもったが、ミカエラはそんな俺の手に自分の手を添えた。

「威勢がいいのは結構ですけど、ユニエラ達の相手をしてあげられるほど暇じゃないんですよね」
「何を……!」
「ですがせっかくご足労したんです。遊び相手を用意してあげましょう!」

 ミカエラが権杖を天高く掲げたと同時に上空に巨大な魔法陣が構築されていく。それは先程ルシエラが見せたのとまるっきり同じもの。その効果も自ずと分かるというものだ。悟ったのは相手側も同じで明らかに警戒を強めている。

「デモンズゲート!」

 ミカエラの力ある言葉と共に魔法陣が漆黒に輝き、直後に滑り落ちるように続々と魔物が出現しだした。そして聖地の裏手に開けた平野に続々と集結していく。その数は見る見るうちに増えていき、群れが集団に、集団が軍勢へと変化していった。

 半数近くがゴブリンやトロールやオーガなどで構成された妖魔地上軍、そしてハーピィやサキュバス、ヴァンパイア等で構成された妖魔空中軍。残りの何割かが地水火風の邪精霊達や多種多様なドラゴンのようだ。

「妖魔軍、邪精霊軍、そして超竜軍の残存勢力を結集させました。さあ人造勇者と人造聖女達。果たしてこの脅威から聖都を守れますか?」

 ミカエラが権杖で教会総本山の方を指し示したのを合図として魔王軍の第二陣が容赦なく襲いかかる。聖都を守る防壁や結界も郊外までは伸びていない。言わばこの一帯は完全に無防備な状態。このままでは蹂躙されるしかないだろう。

 ユニエラ先輩は歯ぎしりし、ミカエラを射殺さんばかりに睨みつける。しかしミカエラはどこ吹く風。今にも口笛でも吹きそうなぐらい余裕綽々だった。更には後方を指し示して「放っておいていいんですか?」と挑発する始末だ。

「覚えていてよ……! 魔王軍を退けたら次は貴女の番なんだから!」
「それが遺言ですね。三日ぐらいは覚えておきますよ」

 ユニエラ先輩は憎々しげに吐き捨てて丘を駆け下りていく。人造聖女や人造勇者達も彼女に従って聖地から去っていった。残された俺達を阻む者は誰もいなくなった。いくら魔王軍が脅威とは言え肝心の魔王を放置していいのか、と思わなくもない。

「さて、それじゃあ行きましょうか」
「行くって、どこに?」

 ミカエラはユニエラ先輩達を最後まで見届けずに丘を降りていく。勿論魔王軍と合流するためではなく来た道を戻る方向、つまり教会総本山へと。念のため聞いたんだがミカエラは愚問だとばかりに「ニッコロさんは馬鹿ですねー」とか言ってきた。

「決まってるじゃないですか。ルシエラの身体を取り戻しにですよ」

 こうして教会総本山へのお礼参りが決定したのだった。

 □□□

 聖地のある郊外から教会総本山に戻ってくるにあたり問題が一つあった。
 それは聖域の奇跡ホーリーサンクチュアリが張り巡らされた境界をまた超える必要がある点だ。

 しかも聖女という肩書が物を言った先ほどとは異なり、今度は魔王として対処する気満々なようだった。まだ城壁までは遠いのに教国軍が待ち受け準備を慌ただしくする様子が見て取れる。

 聖都の街はようやく魔王軍の到来が伝わったらしく、避難場所や自分の家に戻ろうとする人で混乱した様子だった。行きと帰りで全く異なる情景にやはり魔王軍とはそれほど人々の平穏を脅かす存在なのだと改めて思い知った。

「それで、あの城壁は強行突破するの?」
「聖域の奇跡を飛び越えての転移は出来ませんから、そうするしかないですね。隕石魔法メテオストライクあたりで物理的に潰しますか」
「あー、そんな仰々しい真似するぐらいならうちが対処するさー。要するに聖域の奇跡と城壁を無力化すればいいんだろー?」

 そんな街を貫く街道のど真ん中でティーナは背負っていた魔王弓の封印を解いた。相変わらず一切光らない漆黒の弓を携え、矢をつがえて引き絞る。心なしかティーナの周辺も光が失われているような気がした。

「ダークネスエターナル」

 ティーナが放った闇そのものは昼間の聖都を飛んでいって聖域の奇跡に激突。たちまちに漆黒の闇が奇跡を飲み込んでいく。やがて闇は奇跡から染み出して城壁にも降り注がれ、警備兵や待機する騎士達が姿を消していった。
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