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第四章 熾天魔王編
戦鎚聖騎士、最後の聖地に到着する
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「おっと、喋り合ってるうちにもう着いちゃいましたね!」
聖都内を歩くこと暫しの間、俺達の目の前に聖地が見えてきた。反映する聖都の街は段々と広がっていて聖地の傍まで家屋が立ち並んでいる。一方聖地は当時の姿をそのまま保存しているので遺跡以外の建物は見当たらなかった。
聖都市民にとっては最も身近かつ最も重要な聖地なため一年中巡礼者が絶えない。何なら観光地や文化遺産の側面もあるので熱心な信者以外も足を運ぶ。そんな来訪者を相手する商売人も周りに集ってくる。自然と聖地の周囲は賑わうようになったのだった。
屋台で今まさに作られる美味しそうな食べ物の匂いにそそられる。何なら休日はここで食い倒れするのも悪くないな。ミカエラはかなり食いしん坊だからきっと嬉しそうに頬張ることだろう。想像するだけで楽しくなるぞ。
「我が騎士。失礼なこと考えてませんか?」
「早速買い食いする腹ペコ聖女に言われたくねえんだが?」
「腹が減っては戦はできぬ、と東方でも言われてるでしょう。それに教会への寄付金をこうして使うことで経済が回っていくのです」
「口の周りにタレ付いてるぞ。ほら、拭いてやるからこっちに顔向けろ」
とまあこんなやり取りをしながら聖地のふもとまでやってきた。あまりにも人が多いので入場規制をかけているようだがミカエラは聖女。待つことなく通された。列に並ぶ人々は妬むどころかミカエラを敬うのだから、やはり聖女という存在の影響力は計り知れないのだろう。
聖地と指定された区域には管理棟以外は教会設立当時の様子を再現したり、中には当時から残る建造物を保存している箇所もある。どれも歴史的価値があるのだが、聖地最大の目玉といえばやはりあそこしか無いだろう。
「聖者とされる初代教皇殉教の地、か」
教会発足前は別の信仰があった上に当時の政権にとって主の教えを広める聖者は邪魔でしかなかった。最終的には異端とされて聖者は処刑されてしまう。聖者の信者達が主の教えを守るために活動を続け、それが教会へと繋がり、やがては広く進行されていくことになる。
……というのが表向きの話であって事実は違うらしい。これは教会内でも聖女を含めてほとんどの者には知らされていないが、聖者はどうも処刑されたわけではないようなのだ。教会が頑なに殉教と表現するのもそのせいだ。
「人類が聖者と呼ぶ初代教皇、余達が初代勇者と呼ぶ存在は初代魔王、つまり熾天魔王と相打ちになったんです。これが魔王軍側の認識ですよ」
ミカエラ達が熾天魔王と呼ぶ存在についてはドワーフの渓谷からの道中も調べてみたんだが一切記録に残ってなかった。誰それ?状態だった。教会にとって熾天魔王はよほど都合が悪い存在なのだろうか? それこそ人類史から抹消しなければならないほどなのかもしれない。
「すまん。ちょっと用を足してくる」
「あ、じゃあ余も行ってきます」
「分かった。じゃあうち等は周辺を散策してるからなー」
「私もここは初めてなのよね。せっかくだし見て回ってくるわ」
「僕はここで待ってるよ。何度も来てるから今更だしね」
イレーネ達と分かれた俺達は少し順路から外れた手洗いで用を足した。ミカエラが出てくるのを少し待ってから戻ることにする。さすがに「連れションでしたね!」とか言ってはしゃぐミカエラには共感出来なかった。
その途中に人の集まりが出来ていることに気づく。何事かと覗いてみると修道服に身を包んだ女性が何やら人形劇の準備をしているようだった。人形といってもぬいぐるみのようだがね。題目はこの聖地の成り立ちについてのようだ。
「面白そうですね。見ていきますか」
「イレーネ達待たせてるぞ」
「少しぐらい構いませんって」
「まあ、子供向けみたいだしそこまで時間取られないか」
ミカエラに手を引かれて人混みに紛れた。聖女の到来に周囲はざわめくが修道女(仮)は意に介さない。彼女が語りかけるのはあくまで子ども達で俺達を含む大人はそのおまけ扱いだった。
修道女(仮)が指を動かすとぬいぐるみがまるで生きているように動き出した。指とぬいぐるみは糸などで繋がっていない。どうやって操ってるんだと疑問だったが、ミカエラは「魔力で編んだ見えない糸で操作してますね」と囁いてくれた。
「はい、それでは人も集まってきましたので始めたいと思います。この場所がどのように聖地になったのか。皆さんは歴史の一端に触れることになるでしょう」
こうして修道女(仮)の人形劇が始まったのだが、導入部は聖地から一切関係ない土地を舞台にしていた。神の奇跡を体現した救世者らしき存在の物語が子どもにも分かり易く解釈されていて、とても見応えがあった。
やがて救世者は魔王を名乗る魔を統べる存在と対峙する。互いの存亡をかけた死闘の幕が上がる……直前だった。二人の間にとある者が割り込んできた。彼は救世者と魔王を説得して戦いを止めた。それどころか彼の語る理想、信仰のあるべき姿に両者は感銘を受け、二人揃って彼に弟子入りしたのだった。
「これが初代聖女と初代魔王が主と仰ぐ救世者との出会いです」
なんと救世者と思われていた登場人物が実は初代聖女で、救世者は別にいた。
そう修道女(仮)は語った。
聖都内を歩くこと暫しの間、俺達の目の前に聖地が見えてきた。反映する聖都の街は段々と広がっていて聖地の傍まで家屋が立ち並んでいる。一方聖地は当時の姿をそのまま保存しているので遺跡以外の建物は見当たらなかった。
聖都市民にとっては最も身近かつ最も重要な聖地なため一年中巡礼者が絶えない。何なら観光地や文化遺産の側面もあるので熱心な信者以外も足を運ぶ。そんな来訪者を相手する商売人も周りに集ってくる。自然と聖地の周囲は賑わうようになったのだった。
屋台で今まさに作られる美味しそうな食べ物の匂いにそそられる。何なら休日はここで食い倒れするのも悪くないな。ミカエラはかなり食いしん坊だからきっと嬉しそうに頬張ることだろう。想像するだけで楽しくなるぞ。
「我が騎士。失礼なこと考えてませんか?」
「早速買い食いする腹ペコ聖女に言われたくねえんだが?」
「腹が減っては戦はできぬ、と東方でも言われてるでしょう。それに教会への寄付金をこうして使うことで経済が回っていくのです」
「口の周りにタレ付いてるぞ。ほら、拭いてやるからこっちに顔向けろ」
とまあこんなやり取りをしながら聖地のふもとまでやってきた。あまりにも人が多いので入場規制をかけているようだがミカエラは聖女。待つことなく通された。列に並ぶ人々は妬むどころかミカエラを敬うのだから、やはり聖女という存在の影響力は計り知れないのだろう。
聖地と指定された区域には管理棟以外は教会設立当時の様子を再現したり、中には当時から残る建造物を保存している箇所もある。どれも歴史的価値があるのだが、聖地最大の目玉といえばやはりあそこしか無いだろう。
「聖者とされる初代教皇殉教の地、か」
教会発足前は別の信仰があった上に当時の政権にとって主の教えを広める聖者は邪魔でしかなかった。最終的には異端とされて聖者は処刑されてしまう。聖者の信者達が主の教えを守るために活動を続け、それが教会へと繋がり、やがては広く進行されていくことになる。
……というのが表向きの話であって事実は違うらしい。これは教会内でも聖女を含めてほとんどの者には知らされていないが、聖者はどうも処刑されたわけではないようなのだ。教会が頑なに殉教と表現するのもそのせいだ。
「人類が聖者と呼ぶ初代教皇、余達が初代勇者と呼ぶ存在は初代魔王、つまり熾天魔王と相打ちになったんです。これが魔王軍側の認識ですよ」
ミカエラ達が熾天魔王と呼ぶ存在についてはドワーフの渓谷からの道中も調べてみたんだが一切記録に残ってなかった。誰それ?状態だった。教会にとって熾天魔王はよほど都合が悪い存在なのだろうか? それこそ人類史から抹消しなければならないほどなのかもしれない。
「すまん。ちょっと用を足してくる」
「あ、じゃあ余も行ってきます」
「分かった。じゃあうち等は周辺を散策してるからなー」
「私もここは初めてなのよね。せっかくだし見て回ってくるわ」
「僕はここで待ってるよ。何度も来てるから今更だしね」
イレーネ達と分かれた俺達は少し順路から外れた手洗いで用を足した。ミカエラが出てくるのを少し待ってから戻ることにする。さすがに「連れションでしたね!」とか言ってはしゃぐミカエラには共感出来なかった。
その途中に人の集まりが出来ていることに気づく。何事かと覗いてみると修道服に身を包んだ女性が何やら人形劇の準備をしているようだった。人形といってもぬいぐるみのようだがね。題目はこの聖地の成り立ちについてのようだ。
「面白そうですね。見ていきますか」
「イレーネ達待たせてるぞ」
「少しぐらい構いませんって」
「まあ、子供向けみたいだしそこまで時間取られないか」
ミカエラに手を引かれて人混みに紛れた。聖女の到来に周囲はざわめくが修道女(仮)は意に介さない。彼女が語りかけるのはあくまで子ども達で俺達を含む大人はそのおまけ扱いだった。
修道女(仮)が指を動かすとぬいぐるみがまるで生きているように動き出した。指とぬいぐるみは糸などで繋がっていない。どうやって操ってるんだと疑問だったが、ミカエラは「魔力で編んだ見えない糸で操作してますね」と囁いてくれた。
「はい、それでは人も集まってきましたので始めたいと思います。この場所がどのように聖地になったのか。皆さんは歴史の一端に触れることになるでしょう」
こうして修道女(仮)の人形劇が始まったのだが、導入部は聖地から一切関係ない土地を舞台にしていた。神の奇跡を体現した救世者らしき存在の物語が子どもにも分かり易く解釈されていて、とても見応えがあった。
やがて救世者は魔王を名乗る魔を統べる存在と対峙する。互いの存亡をかけた死闘の幕が上がる……直前だった。二人の間にとある者が割り込んできた。彼は救世者と魔王を説得して戦いを止めた。それどころか彼の語る理想、信仰のあるべき姿に両者は感銘を受け、二人揃って彼に弟子入りしたのだった。
「これが初代聖女と初代魔王が主と仰ぐ救世者との出会いです」
なんと救世者と思われていた登場人物が実は初代聖女で、救世者は別にいた。
そう修道女(仮)は語った。
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