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第四章 熾天魔王編
聖女魔王、最後の聖地へと向かう
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教会総本山を脱出した俺とミカエラはさっさとイレーネ達と合流し、情報を共有した。三人共魔王経験者だけあって理解が早くて助かる。特に反応を示したのはかつて聖女だったイレーネ。彼女は教会だったらやりかねなかったと断言した。
「教会の聖痕に対するこだわりは昔から相当なものだったからね。『僕』が聖痕や紋章無しで聖女や勇者やってたのも結構物議を醸したし」
「聖痕の有無で聖女の力量が変わるのは事実だけど、魔王討伐に成功した聖女の半分以上は聖痕無し聖女だったろ。どうしてそこまでこだわるんだ?」
「魔王への対抗策じゃないのよ。教会にとって聖痕は重要な意味があるの。その認識は教会発足時から変わっちゃいないわ」
「長年の妄執だな……。で、今になってその悲願が達成されたわけか」
近い将来、人造聖女と人造勇者がそれこそ一般兵士並に大量生産されて戦線に送り出されるようになるかもしれない。戦いは数だとイブリース先生が豪語する通り、今後いかなる魔王が誕生しようが押し切れるほど強力な軍団の誕生だ。
しかしそんな夢もへったくれもない未来をダーリアは明確に否定した。少なくともイブリース先生や大聖女イスラフィーラは聖痕と紋章の解明を土台にして次の段階に研究を進めているはずだ、と断定した。
「なんでそうだって言い切れるんだ?」
「それが教会って組織が出来た理由だからよ。教会の連中は信じているんでしょうね。アイツの復活でこの世の苦しみや悲しみから救われるって」
「アイツ?」
「それを口にするのは私の役目じゃない。当時はまだ幼くて接点も少なかったし、私が彼女達について語る資格は無いもの」
ダーリアはこれ以上喋ろうとはしなかった。意地を張っているわけでも何かを恐れているわけでもない。誰かしらに敬意を表して義理を果たしている、が一番しっくりくる理由だろうか。
ま、これ以上この場で教会が何を企んでるのか推察したって始まらない。気にかけるべきはそうした教会の動きを踏まえて俺達……というかミカエラがどうするか、だな。魔王の役目に戻って退散する案を蹴った以上はやることは決まってるけどな。
「で、これからどうするのさ? うち等はミカエラの聖地巡礼にお供してたわけだけど、中断するならうち等はここで解散になるよなー?」
「中断なんてしませんよ。イブリースやイスラフィーラが何を言ってこようが余は最後の聖地まできちんと巡礼するつもりです」
「それなら教会が聖騎士を派遣する前に動いた方がいいかも。最後の聖都は聖都の郊外にあるから距離も遠くないし」
「ま、その後のことは巡礼を済ました後に結論を出すぐらいでいいんじゃない?」
「じゃあ急ぐか。旅の荷物は馬車ごと宿に預けとくぞ。必要な装備品は自分で持ってってくれな」
方針を立てたところで俺達は今度こそ最後の聖地目指して出発した。
イスラフィーラの宣言は聖女のみならず聖都内にも伝わったらしく、聖都内は魔王軍との戦いに勝利したお祝いで大いに賑わっていた。これでもう夜も眠れない不安に怯えることもなく、罪なき人々が嘆き悲むこともなく、血も涙も流れない。平和がもどったことに人々が喜び合っているのだ。
……イスラフィーラは一体何を考えているのだろうか? 軍長を撃退してルシエラの遺骸を回収したので人類側が有利に立っているのは間違いないが、魔王は健在だし魔王軍も正統派が崩壊しただけ。正直時期尚早だとしか思えないんだがな。
「それはニッコロさんが魔王軍側の事情を知っているからそう言えるだけですって。教会側からしたら人類圏に攻め込んだ魔王軍は全て退け、魔王城で眠る魔王を回収してますからね。それがこちら側から見える真実ですよ」
「そう言えばユニエラ先輩の報告には目を通したけど、先輩達が倒した軍長は直轄軍長とスライム軍長だけだよな。他の待機させてた軍団はどこ行った?」
例えばこれまで聖地巡礼の旅で出会ってきた魔王派の軍勢はどうしたんだ? 妖魔軍とその軍長グリセルダ、邪精霊軍とその軍長ディアマンテは少なくとも健在だ。特にディアマンテはエルフの大森林の一件が終わった後に帰還した筈なんだが、ユニエラ先輩の報告書には一切出てきてない。
「ふふん、そこに気づくとはさすが我が騎士! このことからもユニエラとエルネストは以前ニッコロさんにも見せた範囲しか入り込んでないようですね」
「ん? ちょっと待て。ルシエラの棺があった場所が最奥じゃないのか?」
「実はですね、魔王城には秘密があるんです! 薔薇の庭園をもっと良く調べていたら気づいたんでしょうけど、ユニエラ達はルシエラにつられて見落としましたかね」
「もっと先があったってことかよ……。完全に初見殺しじゃねえか」
つまりは未だに魔王軍としての勢力は温存出来ているわけか。やっぱイスラフィーラが早計だった疑惑が浮上してくるんだが。しかしイスラフィーラは先代魔王を討伐してのけた聖女だし、それぐらいは想定済みだと思うんだけどなぁ。
何が心配って、聖都……いや、人類圏全ての人々を単にヌカ喜びさせてるだけじゃないのかって点だ。ミカエラのさじ加減ひとつで彼らは再び地獄を見ることになる。ミカエラは無力な人々を虐げる真似はしないと思いたいが……。
「教会の聖痕に対するこだわりは昔から相当なものだったからね。『僕』が聖痕や紋章無しで聖女や勇者やってたのも結構物議を醸したし」
「聖痕の有無で聖女の力量が変わるのは事実だけど、魔王討伐に成功した聖女の半分以上は聖痕無し聖女だったろ。どうしてそこまでこだわるんだ?」
「魔王への対抗策じゃないのよ。教会にとって聖痕は重要な意味があるの。その認識は教会発足時から変わっちゃいないわ」
「長年の妄執だな……。で、今になってその悲願が達成されたわけか」
近い将来、人造聖女と人造勇者がそれこそ一般兵士並に大量生産されて戦線に送り出されるようになるかもしれない。戦いは数だとイブリース先生が豪語する通り、今後いかなる魔王が誕生しようが押し切れるほど強力な軍団の誕生だ。
しかしそんな夢もへったくれもない未来をダーリアは明確に否定した。少なくともイブリース先生や大聖女イスラフィーラは聖痕と紋章の解明を土台にして次の段階に研究を進めているはずだ、と断定した。
「なんでそうだって言い切れるんだ?」
「それが教会って組織が出来た理由だからよ。教会の連中は信じているんでしょうね。アイツの復活でこの世の苦しみや悲しみから救われるって」
「アイツ?」
「それを口にするのは私の役目じゃない。当時はまだ幼くて接点も少なかったし、私が彼女達について語る資格は無いもの」
ダーリアはこれ以上喋ろうとはしなかった。意地を張っているわけでも何かを恐れているわけでもない。誰かしらに敬意を表して義理を果たしている、が一番しっくりくる理由だろうか。
ま、これ以上この場で教会が何を企んでるのか推察したって始まらない。気にかけるべきはそうした教会の動きを踏まえて俺達……というかミカエラがどうするか、だな。魔王の役目に戻って退散する案を蹴った以上はやることは決まってるけどな。
「で、これからどうするのさ? うち等はミカエラの聖地巡礼にお供してたわけだけど、中断するならうち等はここで解散になるよなー?」
「中断なんてしませんよ。イブリースやイスラフィーラが何を言ってこようが余は最後の聖地まできちんと巡礼するつもりです」
「それなら教会が聖騎士を派遣する前に動いた方がいいかも。最後の聖都は聖都の郊外にあるから距離も遠くないし」
「ま、その後のことは巡礼を済ました後に結論を出すぐらいでいいんじゃない?」
「じゃあ急ぐか。旅の荷物は馬車ごと宿に預けとくぞ。必要な装備品は自分で持ってってくれな」
方針を立てたところで俺達は今度こそ最後の聖地目指して出発した。
イスラフィーラの宣言は聖女のみならず聖都内にも伝わったらしく、聖都内は魔王軍との戦いに勝利したお祝いで大いに賑わっていた。これでもう夜も眠れない不安に怯えることもなく、罪なき人々が嘆き悲むこともなく、血も涙も流れない。平和がもどったことに人々が喜び合っているのだ。
……イスラフィーラは一体何を考えているのだろうか? 軍長を撃退してルシエラの遺骸を回収したので人類側が有利に立っているのは間違いないが、魔王は健在だし魔王軍も正統派が崩壊しただけ。正直時期尚早だとしか思えないんだがな。
「それはニッコロさんが魔王軍側の事情を知っているからそう言えるだけですって。教会側からしたら人類圏に攻め込んだ魔王軍は全て退け、魔王城で眠る魔王を回収してますからね。それがこちら側から見える真実ですよ」
「そう言えばユニエラ先輩の報告には目を通したけど、先輩達が倒した軍長は直轄軍長とスライム軍長だけだよな。他の待機させてた軍団はどこ行った?」
例えばこれまで聖地巡礼の旅で出会ってきた魔王派の軍勢はどうしたんだ? 妖魔軍とその軍長グリセルダ、邪精霊軍とその軍長ディアマンテは少なくとも健在だ。特にディアマンテはエルフの大森林の一件が終わった後に帰還した筈なんだが、ユニエラ先輩の報告書には一切出てきてない。
「ふふん、そこに気づくとはさすが我が騎士! このことからもユニエラとエルネストは以前ニッコロさんにも見せた範囲しか入り込んでないようですね」
「ん? ちょっと待て。ルシエラの棺があった場所が最奥じゃないのか?」
「実はですね、魔王城には秘密があるんです! 薔薇の庭園をもっと良く調べていたら気づいたんでしょうけど、ユニエラ達はルシエラにつられて見落としましたかね」
「もっと先があったってことかよ……。完全に初見殺しじゃねえか」
つまりは未だに魔王軍としての勢力は温存出来ているわけか。やっぱイスラフィーラが早計だった疑惑が浮上してくるんだが。しかしイスラフィーラは先代魔王を討伐してのけた聖女だし、それぐらいは想定済みだと思うんだけどなぁ。
何が心配って、聖都……いや、人類圏全ての人々を単にヌカ喜びさせてるだけじゃないのかって点だ。ミカエラのさじ加減ひとつで彼らは再び地獄を見ることになる。ミカエラは無力な人々を虐げる真似はしないと思いたいが……。
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