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第四章 熾天魔王編

■■■■、教会の暗部を暴露する

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 案内されたのは開かずの間と化してた研究室。ここまでは俺も来たことがない。ミカエラやラファエラ達の方を向くも、彼女たちも初めてなようだ。ただ一人、ガブリエッラだけが浮かない顔をして研究室の扉を睨む。

「先に言っておくけれど、実験材料や研究成果を見せても私を攻撃しないでおくれよ。もしそうしたら私も手荒い真似をしなきゃいけなくなるからねえ」

 そんな意味深な忠告をした後、イブリース先生は研究室の扉を開けた。中は光が入りこまない暗闇に包まれていたが、先生が指を鳴らすと天井にかけられた角灯に火が灯っていく。火属性魔法を使って着火させたのだろうか。

 所狭しと書物や紙束が並べられているのも、無造作に魔道具が壁に立てかけられているのも、ゴミが散乱してるのも些細な問題に過ぎない。前方に並べられたおぞましい標本に比べればな。

「な……何よこれ……?」

 ラファエラが口元を押さえて後ずさるのが全てを物語っていた。

 円柱型の透明な縦型容器に満たされた液体の中、人の死体が漂っていた。いや、人としての原型を保っている個体の方が少ない。中には酷く損傷していたり、そもそも一部や全体が歪んだり変形したモノまであった。

 魔法を学ぶと神の領域である人の創造まで成し遂げようとする者も現れる。学院時代にそうした異端の錬金術師の工房に足を踏み入れたらちょうどこんな感じだった。まさか教会、それも総本山大聖堂で見るとは思ってもいなかったがな。

「先生、一体何をしてるか分かってるんですか!?」
「じゃあラファエラ。最後の授業をしようじゃないか。聖女はどうやったら誕生すると思う?」
「は? そんなの主が然るべき者にお導きを……」
「駄目だね。全然駄目だ。そうやってすぐ神の手によるものとして思考を放棄するのはいただけないね。場所、血統、情勢。正解は、複合的な条件に当てはまれば聖女となる素質を持つ少女はほぼ確実に生まれてくるのさ」

 先生が軽く叩いた縦型容器には赤子が保存されていた。見るもの見れば卒倒ものだろう。しかも銘板には名前ではなく番号が記載されている。ただの数値と情報としか扱っていないのが丸わかりだ。

「だからその条件を当てはめて人工的に聖女を誕生させようと試みたわけさ。ああ、ちなみにここの標本は全部錬金術で創造したホムンクルスだからね。犠牲者は一人もいないことは言っておこう」
「こ、こんな背信行為を教会が認めるわけがないでしょう!」
「そんなこと言われても私だって引き継いだだけだからねえ。教会は長年に渡って研究してきたのさ。聖女の誕生経緯をね」
「そ、そんな……」

 ちなみにミカエラから後で聞いたが、感覚さえ掴めば後天的に聖女の奇跡を会得出来なくもないらしい。ミカエラはそうやって聖女となる資格を得て学院に飛び込んできたんだとか何とか。

「これが第一段階。聖女は素質持ち含めたらそこまで希少じゃないだろう? 次が肝心かつ本題でね。一般聖女の奇跡を手中にした教会はいよいよ神の領域に手を伸ばしたってことさ」
「まさか……」
「そう、聖痕持ち聖女の誕生を目論んだわけさ!」

 愕然とするラファエラ。苦虫を噛み潰した表情を見せるガブリエッラ。一方のミカエラはイブリース先生の解説に聞く耳を持たずに標本をじっくりと観察している。彼女なら本当に教会が行ってきた非道な研究の結果を理解しそうだな。

 我に返ったラファエラが怒りに身を任せてイブリース先生の胸ぐらを掴んだ。彼女はされるがままに胸元を引っ張られ、しかし一切動揺せずにラファエラを見下ろし続ける。ただし抵抗しない意思表示か、両手は上げながら。

「この外道……! 貴女は人の命を何だと思ってるのよ!?」
「落ち着きたまえラファエラ君。この研究は私が引き継いだ時点で中止させたよ。ここは言わば凡人には不相応な奇跡を追い求めた教会の妄執の成れの果てなのさ」
「どういうことよ!?」
「聖痕持ち聖女を人工的に誕生させるなんて私達には無理だったのさ。ミカエラ君なら分かるだろう?」

 話を振られたミカエラは頭を掻いて標本から視線を離した。外套の少女と何やら小声で会話した後、難しい顔をしながらこちらへと向く。どんな難題もその頭脳で解明してきた彼女にしては珍しい反応だ。

「これ、人類や悪魔とは全然違った法則にもとづいた術式が使われてますね」
「ご明察。これはまさしく神の叡智によるものさ。私はこれは神直々もしくは神の僕たる天使による仕事、と推測してる」

 神か天使が聖痕持ちとなる聖女を選定している……。そう聞くととんでもく壮大な話だな。そして教会は人の手では成し得ないと諦めるまでとんでもない研究を長年に渡り続けてきたのか。イブリース先生が言うようにまさしく妄執だな。

 先生は手招きして俺達を研究室の奥へと連れて行く。最奥の物々しい扉にかかっていた鍵を次々と開いてはその場に捨て、扉を開く。その様子は外見は全然違ったもののイレーネの封印を彷彿とさせた。

「だから私は研究を引き継いだ際、発想を転換することにしたよ。生命誕生の神秘を弄るから失敗したんだ。一人前の聖女に聖痕を人工的に書き込めばいいじゃないか。何しろ見本はあるんだからねえ」

 イブリース先生が最奥の部屋に明かりを灯した。
 そして俺達は教会最重要機密を目の当たりにすることになる。

 そこは手前側の研究室とは打って変わって部屋の中央にたった一つだけの物しか無かった。まるで氷の塊のような透明な棺の中に安置されているのは……聖女か? 見た目の年齢はミカエラとガブリエッラの中間ぐらいだが……。

「大聖女ガブリエッラ。彼女の聖痕を模倣することで私はついに人工的に聖痕持ち聖女を創ることに成功したってわけさ!」

 イブリース先生は興奮した様子で高らかに己の成果を誇ってみせた。
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