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第四章 熾天魔王編
【閑話】天啓聖女、死霊聖女にされる
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■(ラファエラ視点)■
わたしの名はラファエラ。
魔王軍のうち冥法軍に属するセイントゴーストよ。
忌々しい勇者一行は全て妹様の騎士が斬り伏せた。連中は妹様によってアンデッドとして蘇らされて近くの教会に直行するよう命令されている。魔物として騎士や冒険者に討伐されるか一般聖女に浄化されるか、天運が決めることでしょう。
「勇者一行は始末しちゃったし、もうやることないんじゃないかな?」
「いえ、ガブリエッラが聖女として教会から招集命令を受けていますわ。人類圏各地で奉仕活動に従事する聖女全てが対象だそうですわね」
「ええ。イスラフィーラちゃんが何かしたいみたいだし、欠席するわけにもいかないもの。ミカエラちゃんにも会えるし、丁度いいんじゃない?」
「ちょっとアンラ。だからあたし達は聖都に向かってるのよ。忘れたの?」
どうやら妹様方は聖都に向かっているようね。それも聖女として活動するガブリエッラ様の業務の一環として。
……ガブリエッラ様は聖女を乗っ取った影の魔物なんじゃないの? 人間共を欺くために聖女のふりをしてたんじゃなかったの?
「ラファエラ、どうしたの?」
「いえ、聖女として献身的に従事なさっているなぁ、と」
「そうねぇ。旅の道中暇だし、少しお話しちゃいましょう」
ガブリエッラ様は名案を思いついたとばかりに表情を明るくさせた。
「え、なになに? ついにガブリエッラが過去を教えてくれるの?」
「そう言えば耳に入れたことありませんでしたわね。貴女はわたくしが物心ついた頃から今のようだったでしょう」
「あら、あたしも興味あるわね。是非聞かせて頂戴」
妹様方もノリノリだ。意外にもガブリエッラ様は自分の過去を同僚たちにも明かしたことがないらしい。ガブリエッラ様は僭越ながら、と軽く咳払いしてから語り始める。そしてそれはわたしが予想だにしないものだった。
「聖女は誰もが世界を救済するために奉仕活動をしてるわけじゃないの。中にはお金や名声目当ての俗物もいたわ。きっと神に選ばれた存在って特別扱いが少女達に欲望を植え付けて増長させてしまうのでしょうね」
「それぐらい権力、財力、暴力は魅力的だものね」
「現代の聖女ガブリエッラはそういった輩だったの。富と地位を持つ貴族、大聖人には媚を売って、貧民や奴隷を蔑ろにする。市民からも奇跡を施す度に大金をむしり取っていたのよ」
「うわ、最悪じゃん。よくそんなんで聖女になれたね」
「だから私が何もかも奪ったのよ。聖女としての本懐を果たさせるためにね」
ガブリエッラ様はわたしに微笑みかけた。慈愛に満ちて人を安心させる温かさはわたしの知るガブリエッラ様のままだった。この方が肉体を乗っ取ってなかったらガブリエッラという聖女がそんな下衆だったなんてとても信じられない。
「ですが貴女はわたくしの知る頃からガブリエッラでしたわよね。その器の聖女とはたまたま名前が一緒だった、と?」
「ええ、それも動機の一つだったかもね。やっぱり私は聖女でしかないみたい」
「シャドウビースト、実体を持たないただの影に過ぎないアンタが?」
「だって私、シャドウビーストになる前は本当に聖女だったんですもの」
今から数百年前、時代にして黒鎧魔王と焦熱魔王の間ぐらいか。当時聖女だったガブリエッラ様は勇者一行と共に長く苦しい旅の果てについに魔王を討ち果たした。これで世界に平和が戻る、あとは帰るだけ。聖女として奉仕活動は続けるつもりだったけれど少し休暇を貰ってゆっくり休むのもいいか。そう呑気に考えてたそうだ。
――勇者の裏切りの不意打ちで命を落とさなければ。
何でも当時の勇者は紋章持ちで、聖痕持ちの聖女と添い遂げるためにガブリエッラ様が邪魔になったらしい。既に勇者の女になってた三聖達と結託してガブリエッラ様は魔王との死闘で命を落としたことにするつもりだったそうな。
「恨み、憎しみ。初めて抱いたこの感情が死んでも処理しきれなかったみたい。倒したはずの魔王の残滓に影響を受けちゃってね。この通り、魔物になっちゃったの」
「そう、なんですか……」
ガブリエッラ様は魔物に成り果てても聖女だった。人類……いえ、ミカエラの言うように世界を救済するために今もなお活動を続けている。いつか争いのない世界がやってくることを祈りながら……。
ああ、やっぱりわたしは駄目だった。至ってなかった。足りなかったから失敗してこうして亡霊に成り果てて妹様の傀儡にされている。許しを請えない、償えもしない、ただ自分の役割に従って動くだけの人形。実にわたしに相応しい境遇ね。
「でも、そんなに悲観することもないんじゃない?」
「え……?」
「だって私だって魔王様だって聖女をやれてるんだもの。ずっと頑張ってきたラファエラがちょっと間違えただけで失格になるわけないでしょう」
「ガブリエッラ様……」
アンデッドとして蘇らされたわたしは妹様の言いなり。妹様が白だと言えば白ですと答えるだけ。自我は残ってるのに行動の自由は許されていない。どんなに心が泣き叫んでも喜べと命じられれば歓喜するしかないのよ。
「それにしても今代の勇者ったら全然強くなかったわね。警戒して損しちゃった」
「断定するのは良くないと思うよ。だって歴代の魔王は勇者に討伐されてるからさ」
「ま、どんなに勇者が強くなったって問題ないわよ。だってあたしにはあたしの騎士がいるもの」
「守るよ。どんな困難が待ち受けてても」
妹様が拾い上げられたヴィットーリオは彼女に剣を捧げている。もう過去は振り返らない。振り返ってくれない。妹様の敵だったわたし達は過去の絆もろとも切り捨てられた。そして、今なお新たな絆を見せつけられている。
これがわたしへの罰なんだとしたら甘んじて受け入れるわ。それでも妹様、わたしは決意を新たにしたんだから。亡霊と化したってわたしは今度こそ聖女としてふさわしくなる。どんなに長い年月をかけてでも、自分に胸を張れるようになりたい。
その時はヴィットーリオ、今度こそ間違えずに貴方と向き合いたいものね。
わたしの名はラファエラ。
魔王軍のうち冥法軍に属するセイントゴーストよ。
忌々しい勇者一行は全て妹様の騎士が斬り伏せた。連中は妹様によってアンデッドとして蘇らされて近くの教会に直行するよう命令されている。魔物として騎士や冒険者に討伐されるか一般聖女に浄化されるか、天運が決めることでしょう。
「勇者一行は始末しちゃったし、もうやることないんじゃないかな?」
「いえ、ガブリエッラが聖女として教会から招集命令を受けていますわ。人類圏各地で奉仕活動に従事する聖女全てが対象だそうですわね」
「ええ。イスラフィーラちゃんが何かしたいみたいだし、欠席するわけにもいかないもの。ミカエラちゃんにも会えるし、丁度いいんじゃない?」
「ちょっとアンラ。だからあたし達は聖都に向かってるのよ。忘れたの?」
どうやら妹様方は聖都に向かっているようね。それも聖女として活動するガブリエッラ様の業務の一環として。
……ガブリエッラ様は聖女を乗っ取った影の魔物なんじゃないの? 人間共を欺くために聖女のふりをしてたんじゃなかったの?
「ラファエラ、どうしたの?」
「いえ、聖女として献身的に従事なさっているなぁ、と」
「そうねぇ。旅の道中暇だし、少しお話しちゃいましょう」
ガブリエッラ様は名案を思いついたとばかりに表情を明るくさせた。
「え、なになに? ついにガブリエッラが過去を教えてくれるの?」
「そう言えば耳に入れたことありませんでしたわね。貴女はわたくしが物心ついた頃から今のようだったでしょう」
「あら、あたしも興味あるわね。是非聞かせて頂戴」
妹様方もノリノリだ。意外にもガブリエッラ様は自分の過去を同僚たちにも明かしたことがないらしい。ガブリエッラ様は僭越ながら、と軽く咳払いしてから語り始める。そしてそれはわたしが予想だにしないものだった。
「聖女は誰もが世界を救済するために奉仕活動をしてるわけじゃないの。中にはお金や名声目当ての俗物もいたわ。きっと神に選ばれた存在って特別扱いが少女達に欲望を植え付けて増長させてしまうのでしょうね」
「それぐらい権力、財力、暴力は魅力的だものね」
「現代の聖女ガブリエッラはそういった輩だったの。富と地位を持つ貴族、大聖人には媚を売って、貧民や奴隷を蔑ろにする。市民からも奇跡を施す度に大金をむしり取っていたのよ」
「うわ、最悪じゃん。よくそんなんで聖女になれたね」
「だから私が何もかも奪ったのよ。聖女としての本懐を果たさせるためにね」
ガブリエッラ様はわたしに微笑みかけた。慈愛に満ちて人を安心させる温かさはわたしの知るガブリエッラ様のままだった。この方が肉体を乗っ取ってなかったらガブリエッラという聖女がそんな下衆だったなんてとても信じられない。
「ですが貴女はわたくしの知る頃からガブリエッラでしたわよね。その器の聖女とはたまたま名前が一緒だった、と?」
「ええ、それも動機の一つだったかもね。やっぱり私は聖女でしかないみたい」
「シャドウビースト、実体を持たないただの影に過ぎないアンタが?」
「だって私、シャドウビーストになる前は本当に聖女だったんですもの」
今から数百年前、時代にして黒鎧魔王と焦熱魔王の間ぐらいか。当時聖女だったガブリエッラ様は勇者一行と共に長く苦しい旅の果てについに魔王を討ち果たした。これで世界に平和が戻る、あとは帰るだけ。聖女として奉仕活動は続けるつもりだったけれど少し休暇を貰ってゆっくり休むのもいいか。そう呑気に考えてたそうだ。
――勇者の裏切りの不意打ちで命を落とさなければ。
何でも当時の勇者は紋章持ちで、聖痕持ちの聖女と添い遂げるためにガブリエッラ様が邪魔になったらしい。既に勇者の女になってた三聖達と結託してガブリエッラ様は魔王との死闘で命を落としたことにするつもりだったそうな。
「恨み、憎しみ。初めて抱いたこの感情が死んでも処理しきれなかったみたい。倒したはずの魔王の残滓に影響を受けちゃってね。この通り、魔物になっちゃったの」
「そう、なんですか……」
ガブリエッラ様は魔物に成り果てても聖女だった。人類……いえ、ミカエラの言うように世界を救済するために今もなお活動を続けている。いつか争いのない世界がやってくることを祈りながら……。
ああ、やっぱりわたしは駄目だった。至ってなかった。足りなかったから失敗してこうして亡霊に成り果てて妹様の傀儡にされている。許しを請えない、償えもしない、ただ自分の役割に従って動くだけの人形。実にわたしに相応しい境遇ね。
「でも、そんなに悲観することもないんじゃない?」
「え……?」
「だって私だって魔王様だって聖女をやれてるんだもの。ずっと頑張ってきたラファエラがちょっと間違えただけで失格になるわけないでしょう」
「ガブリエッラ様……」
アンデッドとして蘇らされたわたしは妹様の言いなり。妹様が白だと言えば白ですと答えるだけ。自我は残ってるのに行動の自由は許されていない。どんなに心が泣き叫んでも喜べと命じられれば歓喜するしかないのよ。
「それにしても今代の勇者ったら全然強くなかったわね。警戒して損しちゃった」
「断定するのは良くないと思うよ。だって歴代の魔王は勇者に討伐されてるからさ」
「ま、どんなに勇者が強くなったって問題ないわよ。だってあたしにはあたしの騎士がいるもの」
「守るよ。どんな困難が待ち受けてても」
妹様が拾い上げられたヴィットーリオは彼女に剣を捧げている。もう過去は振り返らない。振り返ってくれない。妹様の敵だったわたし達は過去の絆もろとも切り捨てられた。そして、今なお新たな絆を見せつけられている。
これがわたしへの罰なんだとしたら甘んじて受け入れるわ。それでも妹様、わたしは決意を新たにしたんだから。亡霊と化したってわたしは今度こそ聖女としてふさわしくなる。どんなに長い年月をかけてでも、自分に胸を張れるようになりたい。
その時はヴィットーリオ、今度こそ間違えずに貴方と向き合いたいものね。
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