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第四章 熾天魔王編
聖女魔王、魔王として天啓聖女達を相手する
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「は? 魔王? 聖女がか? おいおい冗談だろ」
「ドナテッロはちょっと黙ってて。ミカエラ……今までずっとわたし達を騙してきたの!?」
「騙してませんよ。聞かれなかったから答えなかっただけです」
ラファエラは全く予備動作無しで光の刃を放ってきた。防御しようと盾を構えたが直後にミカエラが光の刃を放って迎撃。俺達とラファエラ達の中間位置で散る光の粒子。互いの刃はぶつかりあって相殺された。
ラファエラは怒りと憎しみで顔を険しくした。端正な顔立ちなのに台無しだな。ここまで激情は学院時代を通して見たことがない。聖女としての使命がそうさせるのか、それともこれまで歩んだ足跡が彼女を変化させたのか。
一方のミカエラは涼しげな表情を見せる。微笑を湛える彼女はラファエラ達勇者一行がどんな感情を向けてこようが全く意に介さない。人類に救いの手を差し伸べる聖女としての慈愛や慈悲は微塵たりとも感じなかった。
「魔王ミカエラ! この聖女ラファエラが貴女を討つ!」
「うーん、ラファエラは魔王をご所望ですか。分かりました。このところ道中何も無くて退屈でしたし、少し付き合ってあげましょう」
ミカエラが前へと歩み出る。俺が止めようとするもミカエラはいつもの様子で「少し遊ぶだけですよ」と言って止まらない。
そうして勇者一行と対峙したミカエラの雰囲気は聖女のものではなくなった。
この一体全てを覆い尽くさんばかりの存在感、威圧感。紛れもなく魔王のものだ。
「よくぞここまで来た、と褒めてあげます」
「……!?」
しばらくの沈黙が流れ、ミカエラはおもむろに口を開く。
声の大きさは変わっていなかったが、その声は透き通るように広く届く。
「邪神軍、悪魔軍、妖魔軍、魔獣軍、邪精霊軍、超竜軍、そして魔影軍。いずれも一軍で人類圏を攻め滅ぼせるだけの軍事力を持っていました。それらを全て討ち果たして余の前にいることは称賛に値します」
「……そうね。経緯はどうあれ残るは魔王の貴女だけよ」
「ええ。聖痕を持つ聖女ラファエラが命をとして討ち果たすべき相手、魔王は今目の前にいます。周りに配下の者はおらず、余の守護者はこちらのニッコロだけ。またと無い機会でしょうね」
そう言うが、ミカエラは突然権杖を俺へと放り投げ、祭服を脱ぎ始めた。更にはあろうことか下着までも脱いで俺へと押し付けてくる。対峙するラファエラ達も一体何してるんだと困惑しているようだった。
そうして生まれたての状態にまでなったミカエラは、力ある言葉を発した。
「デモンズメタモルフォーゼ」
ミカエラが闇を纏う。手先や足先から変化していく。
青紫色の肌、鋭い爪、結膜が黒くて角膜が赤い瞳、純白の髪、頭から生える歪な四本の角。纏うは露出度が高い闇の衣。手にするは全ての光を飲み込む漆黒の闇で作られた杖。背中に展開される六枚の黒い翼を模した魔法陣。
魔王ミカエラ、ここに降臨――。
魔王としてのミカエラは、全てを惹きつける魔性の魅力を伴っていた。
しかしあえて言わせてもらう。それでもミカエラはミカエラもままだ、と。
あの顔、あの身体つき、どれも俺の知るミカエラだ。
魔王でも聖女でも変わらない。それが分かっただけでも価値がある。
「では相手しましょう。どこからでもどうぞ」
変身を終えたミカエラは静かに相手の出方を待つ。
ラファエラ達は警戒して迂闊に手を出せないようだ。
それでは埒が明かない、と弓聖オリンピアが後列から矢を射る。
「いっ……!?」
直後、膝をついたのはなんとオリンピアの方だった。
彼女の肩の後ろには矢が突き刺さっている。それもオリンピアが射た筈の矢が。
一体何があった? 俺ははっきりと見えたわけじゃないが、オリンピアの矢が途中で穴に入り込んだ気がしたんだが。思わずティーナの方を見ると、彼女は口元を撫でながら深く考え込んでいた。
「おそらく時空魔法の一種だな。矢の進路にワームホールを開いて取り込み、弓聖の後ろに出口を開いたんだ」
「そんなの咄嗟に出来るもんなのか?」
「うちは楽勝でもミカエラはどうかな。彼女のことだから自動的に発動するよう予め仕掛けてたんじゃないか?」
「えぐいな。これで弓聖は無力化したも同然か」
単に弓を射ただけじゃなく何かしらを施してたらしく、オリンピアの顔色が悪い。青ざめて大量の汗を流し始める。グローリアが矢を抜いてラファエラがハイヒーリングの奇跡をかけた。
その間、賢聖コルネリアが前に出て魔法の術式を構築しだす。複雑に展開される魔法陣の大きさからも相当な威力が込められていそうだな。一方のミカエラは何もしない。ただコルネリアの魔法陣の完成を眺めるばかりだった。
「インファーナルフレイム!」
「ファイヤーボール」
コルネリアとミカエラ双方が放った火炎が空中で激突して爆発する。
俺の記憶が確かならインファーナルフレイムの方がファイヤーボールより遥かに高い火力だった筈なんだがな。それで相殺されたってことは、コルネリアとミカエラでは相当な実力差があるってことじゃないか?
「フローズンオーブ!」
「フリーズブリット」
「チェーンライトニング!」
「ショックボルト」
「ミキサーハリケーン!」
「ウィンドダード」
コルネリアは続けざまに大魔法を連発するものの、ミカエラの同属性魔法で全て打ち消されてしまう。ミカエラにはそよ風や火の粉一つすら及ばない。見てから初級魔法余裕でした、とでも言えよう。
「はあっ、はあっ。そ、そんな……」
大魔法の連発は身体に大きな負担だったようで、コルネリアは息を上げて膝を付いた。脂汗がにじみ出て心臓を掴むように胸を押さえる。なおも大魔法を行使しようとして……魔法陣が途中で霧散する。
「ドナテッロはちょっと黙ってて。ミカエラ……今までずっとわたし達を騙してきたの!?」
「騙してませんよ。聞かれなかったから答えなかっただけです」
ラファエラは全く予備動作無しで光の刃を放ってきた。防御しようと盾を構えたが直後にミカエラが光の刃を放って迎撃。俺達とラファエラ達の中間位置で散る光の粒子。互いの刃はぶつかりあって相殺された。
ラファエラは怒りと憎しみで顔を険しくした。端正な顔立ちなのに台無しだな。ここまで激情は学院時代を通して見たことがない。聖女としての使命がそうさせるのか、それともこれまで歩んだ足跡が彼女を変化させたのか。
一方のミカエラは涼しげな表情を見せる。微笑を湛える彼女はラファエラ達勇者一行がどんな感情を向けてこようが全く意に介さない。人類に救いの手を差し伸べる聖女としての慈愛や慈悲は微塵たりとも感じなかった。
「魔王ミカエラ! この聖女ラファエラが貴女を討つ!」
「うーん、ラファエラは魔王をご所望ですか。分かりました。このところ道中何も無くて退屈でしたし、少し付き合ってあげましょう」
ミカエラが前へと歩み出る。俺が止めようとするもミカエラはいつもの様子で「少し遊ぶだけですよ」と言って止まらない。
そうして勇者一行と対峙したミカエラの雰囲気は聖女のものではなくなった。
この一体全てを覆い尽くさんばかりの存在感、威圧感。紛れもなく魔王のものだ。
「よくぞここまで来た、と褒めてあげます」
「……!?」
しばらくの沈黙が流れ、ミカエラはおもむろに口を開く。
声の大きさは変わっていなかったが、その声は透き通るように広く届く。
「邪神軍、悪魔軍、妖魔軍、魔獣軍、邪精霊軍、超竜軍、そして魔影軍。いずれも一軍で人類圏を攻め滅ぼせるだけの軍事力を持っていました。それらを全て討ち果たして余の前にいることは称賛に値します」
「……そうね。経緯はどうあれ残るは魔王の貴女だけよ」
「ええ。聖痕を持つ聖女ラファエラが命をとして討ち果たすべき相手、魔王は今目の前にいます。周りに配下の者はおらず、余の守護者はこちらのニッコロだけ。またと無い機会でしょうね」
そう言うが、ミカエラは突然権杖を俺へと放り投げ、祭服を脱ぎ始めた。更にはあろうことか下着までも脱いで俺へと押し付けてくる。対峙するラファエラ達も一体何してるんだと困惑しているようだった。
そうして生まれたての状態にまでなったミカエラは、力ある言葉を発した。
「デモンズメタモルフォーゼ」
ミカエラが闇を纏う。手先や足先から変化していく。
青紫色の肌、鋭い爪、結膜が黒くて角膜が赤い瞳、純白の髪、頭から生える歪な四本の角。纏うは露出度が高い闇の衣。手にするは全ての光を飲み込む漆黒の闇で作られた杖。背中に展開される六枚の黒い翼を模した魔法陣。
魔王ミカエラ、ここに降臨――。
魔王としてのミカエラは、全てを惹きつける魔性の魅力を伴っていた。
しかしあえて言わせてもらう。それでもミカエラはミカエラもままだ、と。
あの顔、あの身体つき、どれも俺の知るミカエラだ。
魔王でも聖女でも変わらない。それが分かっただけでも価値がある。
「では相手しましょう。どこからでもどうぞ」
変身を終えたミカエラは静かに相手の出方を待つ。
ラファエラ達は警戒して迂闊に手を出せないようだ。
それでは埒が明かない、と弓聖オリンピアが後列から矢を射る。
「いっ……!?」
直後、膝をついたのはなんとオリンピアの方だった。
彼女の肩の後ろには矢が突き刺さっている。それもオリンピアが射た筈の矢が。
一体何があった? 俺ははっきりと見えたわけじゃないが、オリンピアの矢が途中で穴に入り込んだ気がしたんだが。思わずティーナの方を見ると、彼女は口元を撫でながら深く考え込んでいた。
「おそらく時空魔法の一種だな。矢の進路にワームホールを開いて取り込み、弓聖の後ろに出口を開いたんだ」
「そんなの咄嗟に出来るもんなのか?」
「うちは楽勝でもミカエラはどうかな。彼女のことだから自動的に発動するよう予め仕掛けてたんじゃないか?」
「えぐいな。これで弓聖は無力化したも同然か」
単に弓を射ただけじゃなく何かしらを施してたらしく、オリンピアの顔色が悪い。青ざめて大量の汗を流し始める。グローリアが矢を抜いてラファエラがハイヒーリングの奇跡をかけた。
その間、賢聖コルネリアが前に出て魔法の術式を構築しだす。複雑に展開される魔法陣の大きさからも相当な威力が込められていそうだな。一方のミカエラは何もしない。ただコルネリアの魔法陣の完成を眺めるばかりだった。
「インファーナルフレイム!」
「ファイヤーボール」
コルネリアとミカエラ双方が放った火炎が空中で激突して爆発する。
俺の記憶が確かならインファーナルフレイムの方がファイヤーボールより遥かに高い火力だった筈なんだがな。それで相殺されたってことは、コルネリアとミカエラでは相当な実力差があるってことじゃないか?
「フローズンオーブ!」
「フリーズブリット」
「チェーンライトニング!」
「ショックボルト」
「ミキサーハリケーン!」
「ウィンドダード」
コルネリアは続けざまに大魔法を連発するものの、ミカエラの同属性魔法で全て打ち消されてしまう。ミカエラにはそよ風や火の粉一つすら及ばない。見てから初級魔法余裕でした、とでも言えよう。
「はあっ、はあっ。そ、そんな……」
大魔法の連発は身体に大きな負担だったようで、コルネリアは息を上げて膝を付いた。脂汗がにじみ出て心臓を掴むように胸を押さえる。なおも大魔法を行使しようとして……魔法陣が途中で霧散する。
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