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第三章 幻獣魔王編

■■■■、天空雷竜を真っ二つにする

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「こういうのも有りなんだな」
「有りさ。ただこれは推進力に物を言わせた僕らだから有効なんであって、普通の飛竜じゃあ到底出来っこないよ」
「何にせよ無駄に戦わずに済むなら越したことはない」
「けれど後で後ろから襲われる危険性が残るんだよね。用心はしといてね」

 俺達は河の水面すれすれで飛んでいた。渓谷の間を抜ける風は大体もっと高い位置で吹くからこんな位置だと風に乗れやしない。しかし闘気に物を言わせて前へ突き進むアーマードワームだとこうした強硬手段にも出られるわけだ。

 上空の選手達は真下から追い抜かれて初めて俺達の存在に気づいたようだ。今更ながら雷撃とかで攻撃をしかけてくるものの、そんなへなちょこな攻撃は避けるまでもなく、ましてや防御するまでもなかった。

「ふふん。そんなヌルい攻撃で僕が仕留められるわけないでしょう」
「予想はしてたが凄い防御力だな……。何されてもびくともしないじゃないか」

 何せドワーフ共が何を仕掛けてこようが魔王鎧もアーマードワームも傷一つ付きやしなかった。当然装備者の俺も無事。俺とミカエラがかろうじて勝負になったぐらいだものな。勇者イレーネのように卓越した技量に加えて聖王剣ほどの業物を持っていないと仕留めきれないだろう。

 最後尾集団を引き離して前方の選手を次々と抜いていくと、やがて熾烈な攻防を繰り広げる集団に追いついた。目を凝らして良く観察すると一人か二人ぐらい見知った姿が見られる。となると一方はダーリアを指示する側か。

「どうする? どっちかに加勢するの?」
「超竜じゃないなら用無しだな。とっととおさらばしよう」

 勝手に争っててくれ。俺達は先に行かせてもらう。

 連中の下をくぐり抜けて俺達は戦闘手段を猛追する。追い抜いた連中が何やら仕掛けてきたようだがくすぐりにも満たない感触しか感じない。気にするまでもなく前方に専念させてもらおう。

 二周目に差し掛かった辺りで見えてきたのは……ありゃあ首長嫡男か? 連中はもどかしそうに前方を睨んでいるようだ。何があるんだ、と更に先へと視線を移し、俺はその光景を目の当たりにした。

 それはまるで演舞のようだった。

 ダーリアが飛竜と共に黄金竜と戦っていた。黄金竜は雷撃を吐き出し、全身から雷を発生させ、時には自身を雷に変化させて突撃する。それをダーリアは全て巧みに回避したりいなしていく。そして出来た隙を逃さずに雷撃や槍で反撃する。

「凄い……。ここまで強い竜騎士は僕も始めて見るよ」
「本当に飛竜を手足のように操ってるな。俺にはとても出来ない芸当だなありゃあ」

 ダーリアも黄金竜も河に落ちないように、崖に激突しないように、そしてコースアウトしないよう上空に飛びすぎないように、限られた空間を全て駆使して縦横無尽に飛び回って攻防を繰り広げていた。

「で、どうする? あの中に割り込む?」
「冗談きついって。あんな死闘に横槍入れる隙なんか無いだろ」
「二人まとめて仕留めるつもりなら不可能じゃないでしょう」
「とにかく、俺達は置き去りにしたシルヴェリオの反撃に備えて待機だ。それに他の超竜共が潜んでる可能性だってあるしな」

 何も敵は黄金竜と千年竜だけじゃない。今この時も虎視眈々と機会を伺っている奴だっているかもしれないからな。どうやらダーリア達が先頭のようだし、ここは首長嫡男を見習って様子見が最善手か。

 ところが首長嫡男、何を思ったのか突然加速してダーリア達に突撃していくではないか。これに慌てたのは取り巻き集団。必死に首長嫡男へと追いすがる。そんな無謀な突進に構わずダーリアと黄金竜は死闘を繰り広げ続け……、

 結果、ダーリア達が動いた後をすり抜けて先頭に躍り出た。

「おおっ。あれって偶然か?」
「いや、機会をずっと窺ってたみたいだね。あの激戦の中をくぐり抜けられるほどだから彼も相当な技量だと思うよ」
「あ、ダーリアもさすがに勝負を捨てて嫡男を追い始めたな。優勝はかっさらわれたくなかったか」
「ドラゴンの方も諦めたようだね。グランプリに勝利して雪辱を晴らすのが目的なんだから、強者との死闘に興じるのは本末転倒か」

 先頭で首長嫡男、二位争いにダーリアと黄金竜。四位集団に嫡男取り巻き勢と俺達という局面。逃げに徹した首長嫡男はさすがのダーリアも捉えきれず、黄金竜も雷撃で撃ち落とそうとするも直撃の瞬間にそれてしまうようだった。

 アレは多分魔道具使って雷撃耐性を付与してるな。黄金竜の一撃を対処できているところからも何個も装備しているようだ。もしかしてあの無駄にじゃらじゃらした装飾の数々は全部属性攻撃対策だったりするのか?

「凄く万全だね。超竜軍の襲来に備えたのかな?」
「ありゃあダーリア対策じゃないか? 空中戦で有効打になりやすい雷撃魔法を好む彼女の戦法へ重点的に対処する、みたいな」
「だとしたらもうダーリアは彼に追いつけないかもね。何も起きなければ」
「何も起きない筈が無いんだよなぁ」

 それは突然だった。黄金竜の全身が震えたと思うと体中から稲光を発生させ、閃光と火花を飛び散らせながら輝き出した。再びその身を雷に変えたんだと分かった時には落雷のように一瞬で天空を走る……筈だった。

 瞬いた後、空中へと放り出されたのはなんと頭から尻尾の先まで真っ二つにされた黄金竜の亡骸だった。哀れな姿と成り果てた死体は血と臓物を汚く撒き散らしながら明後日の方へと飛んでいき、遠く砂漠のど真ん中に落下していった。
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