新人聖騎士、新米聖女と救済の旅に出る~聖女の正体が魔王だなんて聞いてない~

福留しゅん

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第三章 幻獣魔王編

勇者魔王、容赦なく竜騎士達を撃ち落とす

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 敗者復活戦第二レース。最後尾集団を一層した俺達はすかさず次の集団へと襲いかかる。こちらの方が速度が速いのでその背中がみるみるうちに大きくなっていく。やりたい放題してたからか、前の連中も俺達の追走に気づいているようだ。

「アイシクルレイン!」

 イレーネが力ある言葉を発するとともにアーマードワームの腹を脚で小突いた。するとアーマードワームの口部分が開き、つららの槍がいくつも発射された。後続集団はただちに回避行動を取ろうとするも中には直撃を受けた飛竜もいて、墜落していった。

 かろうじて躱した選手はしかし方向転換して再び襲いかかる攻撃には対処できなかった。たちまちに氷の槍の餌食になり、串刺しになった飛竜は落下していく。急所は避けてるし救護班もいるし、死にはしないだろう多分。

「フローズンオーブ!」

 続いてイレーネの命令でアーマードワームが口から放ったのは雪玉のように凝縮された凍気の塊らしい。高速の冷気弾は前方にいるまだ姿が小さい集団へと襲いかかった。連中もまさかこの距離から仕掛けられるとは思ってなかったらしく、着弾と同時に拡散された凍気によってその身を凍らせる。

 邪魔者がいなくなった空をゆうゆうと飛ぶ俺達。アーマードワームはうねる渓谷のコースをほぼ減速せずに飛び回った。おかげで俺は右に左にと振り回されっぱなしなもので、正直気持ち悪くなってきた。

「もう俺いらないんじゃないかな? イレーネだけで参加すれば良かっただろ」
「ミカエラの希望を叶えようとしてたニッコロに答えたんじゃないか。僕だけだったらわざわざグランプリに参戦しないで直接戦ってたよ」
「それもそうか。俺はグランプリで連中の高く伸びた鼻をへし折ってやりたかったんでね。ドラゴンって偉そうじゃん」
「ドラゴンは生態系の頂点に君臨してるって言っても過言じゃない種族だからね。尊大になるのもしょうがないよ」

 すでに第二レース参加者の半分に退場願った状況。俺達は既に中間集団の影を捉えていた。さすがに俺達の接近に警戒したのか、何名か少し速度を落として迎え撃つか前のようだ。

 竜騎士が何名か手持ちの杖をこちらに向けて……まずい、ありゃあ発動した瞬間には命中してる雷撃魔法ライトニングか。アーマードワームと魔王鎧の耐久力がどれほどかは知らんが、そのまま突っ込むのは躊躇するな。

「フォースシールド!」

 俺は力ある言葉と共に闘気を練り上げて戦鎚を前に掲げた。すると俺とアーマードワームを闘気の障壁が囲み、降り注ぐ雷撃を受け止める。うお、まぶし。後ろにちらしてもいいんだがもったいないな。そのまま戦鎚に集積させてしまうか。

「リフレクションアタック!」

 戦鎚を回転させから突き出し、敵の雷をそっくりそのままお返ししてやった。凍気や氷の刃と比べて雷撃はとてつもなく速い。瞬く間に相手選手に命中、哀れ竜騎士達は力なく河へと落ちていった。

 残った竜騎士は急減速して俺達に接近、手にする槍や斧を振るってきた。アクロバティックな強襲に思わず感嘆の声が漏れてしまったが、反応できないほどじゃない。しかし盾で受け止めたらアーマードワームから放り出されちまうな。

「ウェポンブレイカー!」

 俺は背負っていた魔王剣を抜剣、水平方向に一閃する。甲高くけたたましい衝撃音が耳をつんざき、金属片が左右に飛び散った。幾つかが俺にも当たるものの魔王鎧に覆われているおかげで痛くも痒くもない。

 剣や拳を振るう場合って当てる先で最大の威力になるようにするんだよな。竜騎士達の場合は目標は俺。一方俺の放った技はそんな振るわれてる途中の武器に命中させるためのもの。焦点の違いとでも例えればいいんだろうか。そんな原理だな。

 結果、両断どころか分解されたのはドワーフ達の武器だ。

「何か、ケーキ切るみたいに抵抗なく斬れたぞ」
「ふふん、そうでしょう。僕の剣に切れないものは無いよ」
「逆に違和感があるな。やっぱ戦鎚の方が俺の性に合ってるのがよく分かった」
「贅沢だ。ただニッコロはその方がらしいかもね」

 俺を迎え撃つために減速した竜騎士共を一気に引き離す。連中より俺達の方が速かったし、もはや撃墜するまでもない。一切振り返らずに前へ前へと飛ばしていく。途中立ちはだかった選手達に同じようにご退場願いながら。

 コースを二週した辺りで俺達は先頭集団を捉えた。竜騎士の選手三名が先頭を飛ばす超竜に必至に食らいついている。しかし俺達が猛追していることを察知したようで、俺達に魔道具を向けてきた。

「音速斬り!」

 そうはさせじとイレーネが魔王剣を一閃。宣言通り音と同じ速度で飛ばされた斬撃は攻撃する間も与えずに竜騎士と飛竜を切り裂く。声にもならない悲鳴をあげて落下する連中の上を俺達は難なく通過していった。

 ここまで容赦なく対戦相手を妨害しまくってると肝心のグランプリで目をつけられそうだなぁ。ま、限られた規定の中で勝利条件を満たしただけだし、最初に仕掛けたのは超竜軍の方だし。緊急措置ってことで納得してもらおう。
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